あれ野の薔薇 ゲーテ

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あれ野の薔薇 
ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ
生田春月 訳

 
 
 
 
 

あれ野の薔薇
 
 
一人の子供が薔薇を見た
あれ野の薔薇を
その朝のやうな若さ美しさを
なほよく見ようと駈け寄つて
子供は見ました喜んで
薔薇よ、薔薇よ、紅薔薇よ
あれ野の薔薇よ

子供が言ふには『僕はおまへを折つてやる
あれ野の薔薇よ!』
薔薇が言ふには『そしたらわたしは刺しますよ
あなたがいつまでもお忘れにならぬほど
わたしも折られたくはありませんもの』
薔薇よ、薔薇よ、紅薔薇よ
あれ野の薔薇よ

乱暴な子供は折りました
あれ野の薔薇を
薔薇は拒んで刺しました
けどもういくら泣いても追つ附きません
薔薇は折られてしまひました
薔薇よ、薔薇よ、紅薔薇よ
あれ野の薔薇よ

 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 

底本:ウォルフガング・ゲエテ(Johann Wolfgang von Goethe,1749-1832年)著
生田春月(1892-1930年)訳『ゲエテ詩集』
新潮社
大正八年五月二十日印刷
大正八年五月廿三日発行
大正十一年四月十二日廿四版
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