プロパガンダとしては、できすぎみたいに賢い。これは、Linux なんかを使うほど愚かな MIS マネージャは、将来的に特許侵害訴訟で、その OS が足下からかっさらわれて、痛い目にあうかもしれないよ、という考えを植え付けているわけだ。その訴訟を起こすのはひょっとして(ないしょないしょ)マイクロソフト自身かもしれないよ。完璧な FUD 戦術というやつだ。
この FUD が幻想だと信じるべき実際的、法的な理由はたくさんある。でもそっちのほうに深入りすると、要点を見逃してしまう――要点とはつまり、これがマイクロソフト自身の考え方について何を明かしてくれるか、ということだ。
これが幻想だってことは、こんな主張をしてみればすぐわかる。「SCO は知的所有権を侵害しない限り、長期的には技術革新を提供できないのです」「Solaris は知的所有権を侵害しない限り、長期的には技術革新を提供できないのです」あるいはいちばんいいのが「NT は知的所有権を侵害しない限り、長期的には技術革新を提供できないのです」とでも言ってみよう。だれも才能を独占したりはできないんだ(そして VinodV が指摘したように、「OSS プロセスが、インターネット中の何千人もの集合的なIQを集めて、それを有効に利用できるという能力は、まさに驚異的なもの」なんだ)。もしいまの主張が信じるに値しないのであれば、彼女の主張だって同じこと。
もしヴァン・デン・ベルグ女史が本気でこの主張をしているなら、ぼくたちとしては、マイクロソフトは本当に、既存の知的所有権を侵さないような技術革新がだれかにできるってことが想像もつかないんだ、と推論するしかない。
これはまあうなずけなくもない。マイクロソフトは鍵となる技術を自分で技術革新するよりは、買収したりもろに盗んだりしてきた長い歴史を持っているんだから。 MS-DOS:買収(Tim Paterson から)。 PC1 BIOS コード:盗んだ(Gary Kildall の CP/M BIOS とほとんど 1 ビットたがわぬくらい)。常駐型ディスク圧縮:盗んだ(Stac Electronics 社から)。Internet Explorer:人によって説がちがうけれど、買ったか盗んだか( Spyglass から)。そしてこれは一覧表のごく頭のところ でしかない……
マイクロソフトは本当に、企業全体として、鍵となるアイデアのプールは上限つきで、そのほとんどがすでに発見されていて、それをめぐってソフト設計者たちはゼロサム競争で果てしない分捕りあいを演じなくてはならない、と思っているかのように行動している。このゲームでの「勝利」の唯一の定義は、自分が独占のロックインをできるように保証してくれるだけの十分な小物を自分のコーナーに集めるということになる。
でもこれは、マイクロソフトの将来に賭けているすべての人々に対して疑問を投げかけることになる。こういう信念をもった人たちが、自ら「技術革新をもたらす」ことなんかできるんだろうか。それともむしろ、 Linux みたいな文化からどんどん遅れをとるようになる可能性のほうが高いだろうか。 Linux 文化は永遠に未探査の領域を探し求め、技術革新を信じている――そしてそれを実践するにあたっても、VinodV が見て取ったような「気分は爽快で、くせになりそう」なほどの情熱を持っている文化なんだよ。
ヴァン・デン・ベルグ女史の最後っ屁をいちばんマイクロソフトにとって好意的に解釈してあげるとするなら、これはだまされやすい人たちを脅かそうとしたウソだ、ということになる。そしてもしこれをマイクロソフトが本気で主張しているとすれば、あの会社には創造的エネルギーが驚くほど貧困だということを明らかにするものとなってしまう――何十億ドルもかけてあれだけ優秀な人材を集めながら、かれらはだれかが本当になにかまったく新しいものを創りだせるのだということが、想像すらできないと言っているんだから。 }