国民識別番号︵こくみんしきべつばんごう、英: national identification number, national identity number, national insurance number 、中:國民識別號碼︶は、国内に居住する全ての個人に行政上で統一の固有の番号を振り、同姓同名などを混同させずに特定個人を識別しやすくする制度。共通番号制度︵きょうつうばんごうせいど︶ともいう。コンピュータネットワークによる行政事務の効率化とサービスの利便化、脱税防止や税の公平さの確保を目的とする[1]。ただし、システムの利用対象や管理モデルは国により異なる[2]。制度の名称も異なる。
概要
市民全体に重複しない番号を付与し、それぞれの個人情報をこれに帰属させることで市民全体の個人情報管理の効率化を図ろうとするものである。氏名、登録出生地、住所、性別、生年月日を中心的な情報とし、その他の管理対象となる個人情報としては、社会保障制度納付、納税、各種免許、犯罪前科、金融口座、親族関係などがある。多くの情報を本制度によって管理することによって、行政遂行コストが下がり、個人の自己情報の確認や訂正がしやすいメリットがある[3]。
欧米ではこのような番号制度を導入している国が多い[2]。例えばデンマークのCPR番号の場合、公共利用では住所変更手続、大学の入学手続、各種試験の本人認証、公共図書館の図書の貸し出し、病院の診察予約や検査結果の報告、処方箋記録、教育分野では成績確認、時間割の閲覧、休講情報の提供などに利用されている[2]。また、個人が行政上必要な手続と期限の情報、受け取ることができる年金や助成金の情報、育児休暇取得可能日数の情報などの提供にも利用されている[2]。また、デンマークのCPR番号は一定の条件で名前と住所の民間利用が認められており、銀行の口座開設、不動産契約、携帯電話契約、求職活動にも利用されている[2]。ただし、ヨーロッパのEU指令では民間利用には﹁自由意志に基づく提供の合意﹂以上の厳しい指針が必要としており、デンマーク政府も単なる個人認証は誕生日や住所を聞くことで十分で安易にCPR番号を提示する状況は望ましくないとしている[2]。
福祉国家である北ヨーロッパでは、﹁高負担高福祉﹂の観点から行政手続きの効率化・平等社会の実現・個人が行政サービスの手続き簡易化のために1960年代から左派与党右派野党の合意で導入されていた。東京財団政策研究所の森信茂樹研究主幹は2020年11月時点でも北欧など他の先進国のような国民識別番号の口座付番制度が日本にない背景であるプライバシー侵害の根強い誤解について、﹁付番にすることで国が全国民の資産を把握可能になるということは誤解であり、付番で分かることは預貯金口座がどの口座を保有しているかだけであって、国が個人の口座の中身を勝手に覗けるようになるわけではない﹂と指摘している。そもそも口座と番号が紐づいていない現在でも国税通則法に基づき、税務署なら口座内容を確認出来ると指摘している。日本は10万円の支給でもわざわざどの口座かに送って欲しいかを世帯主の申請させて確認しないと支給出来なかったようことからも緊急給付時に遅れを招いて困るのは国民だと指摘している。実際に他国では国民識別番号に結びついた口座に即座に支給された[5][6][7][8][9][10]。
国ごとの国民識別番号制度
国民識別番号のタイプとしては、以下のものがある。
●社会保険制度給付と保険料納付の状況を管理するために、番号を付与するタイプ[11]。
●住民登録に基づいて、全ての国民に番号を付与する身分証明書タイプ[12]。
●納税管理を目的に、歳入庁など国家当局が利用するタイプ︵納税者番号制度・グリーンカード︶。
一部の国では上記によって付与した番号を軸に、その他の個人情報を管理している。
アジア
インド
インドは2009年に﹁インド固有識別番号庁﹂︵UIDAI︶を設置し、各国民に12桁の番号を割り当てる﹁アドハー(Aadhaar)﹂事業に着手した[22]。アドハー番号の付与は2010年に始まり、2017年時点では全人口の約9割に当たる11億人以上をカバーしている。指紋や虹彩による生体認証と組み合わせることで、出生届など身分を証明する書類が不備な貧困層も、社会保障など行政サービスを利用できるようにした。システムの開発・導入に約10億ドルかかったが、福祉の不正利用削減などにより累計70億ドル近い効果があったという。2017年4月には、アドハー番号と銀行口座、スマートフォンを組み合わせた電子決済﹁アドハーペイ﹂の利用が始まった[23]。
韓国
韓国では、指紋情報を含む住民登録番号とカードの携帯を義務付けており、北朝鮮のスパイ対策を視野に入れた政策ともいわれる[24]。住民登録番号︵RNN︶が導入されていて徴税や社会保障など医療分野でも利用されている。銀行口座の開設、パスポート、運転免許証等の各種公的証明書の発行にも必要である[11]。
中華人民共和国
2011年に、全国民に指紋登録を義務づける改正住民身分証法が成立した[26]。
中華民国(台湾)
中華民国︵台湾︶国民には、身分証である写真入りカードが政府から与えられ、中華民國統一證號基資表にはその身分証明書番号が付されている。16歳以上の国民は10桁の個人番号が記される身分証明カード﹁居民身分証﹂の携帯が義務付けられている[27][11]。2020年のコロナの際にはマスク販売管理にも用いられた[28][18][20]。
タイ王国
日本
日本では、2000年代以前に国民識別番号が導入されていなかったが、これは主に左派の野党やその支持者からの反対・その他国民の積極的支持の少なさのためであった。
逆に北欧では長期的に政権の座にあった社会民主主義を志向する左派政党の政権[3][29]で導入されている[31][32][33]。福祉国家である北欧では、﹁高負担高福祉﹂の観点から行政手続きの効率化・平等社会の実現・個人の行政サービスの手続き簡易化のために1960年代から導入された。
2009年の民主党政権の際に左派である社会党の流れをくむ民主党も制度が必要だと判断し、菅直人政権の時から導入を進め、再政権交代後に反対名分を失ったことで海外のように与党と第一野党民主党の合意で導入された。北欧では1960年代時点で長期政権を担ってきた左派政権と、他政策では対立する右派野党が、高福祉高負担で高い経済成長と財政健全化の両方を実現するには、課税逃れや生活保護不正受給など社会保障の不正の阻止が不可欠であると与野党が一致したため、国民の反対世論に野党が人気取りで乗らず、制度法案が政争の具に一切ならずに円滑に導入されたことが指摘されている[5][16][3][8][9]。
他の先進諸国は納税者番号制度整備で個々に把握しているが、日本は預金等の口座の名寄せが不可能又は一案件ごとに莫大な時間がかかかるため、毎年7兆円以上の税金未納など脱税・不正蓄財がある。北欧では所得・資産が把握されていることで脱税や所得隠しのような不正が困難になっている[34][3]。新型コロナウイルス事態の際には反対を受けて、全ての銀行口座を含む各個人情報も紐付けられていなかった日本は台湾・韓国のようなマスク販売管理・即座の現金給付のための所得と口座把握・感染者接触把握が出来なかった[15][13][28][18][20]。
日本では、以下のように各行政機関毎に個別の番号付与されており、これらの国民の情報を統合するために個人番号が構築された。
●基礎年金番号 - 年齢下限‥20歳以上。数字10桁、構成‥4桁-6桁。
●健康保険被保険者番号 - 主に、数字6桁か8桁。
●日本国旅券︵パスポート︶の番号 - 9文字、構成‥アルファベット2文字と数字7桁。
●納税者の整理番号︵旧‥法源番号︶ - 数字8桁。
●運転免許証番号 - 年齢下限‥16歳以上。数字12桁、構成‥公安委員会コード、年号記号、交付番号、再交付記号、チェックディジット。
●住民票コード - 数字11桁、構成‥無作為作成の10桁と検査数字︵チェックディジット︶の末尾1桁。
●雇用保険被保険者番号 - 数字11桁、構成‥4桁-6桁-1桁。など[35][36]。
住民票コード以前の歴史
1970年︵昭和45年︶、第3次佐藤内閣︵佐藤栄作首相︶が﹁各省庁統一コード連絡研究連絡会議﹂を設置して省庁統一個人コードの研究を行い、1975年︵昭和50年︶の導入を目指したが、議論が頓挫した経緯がある[37][38]。
1975年︵昭和50年︶、大蔵省︵中央省庁再編後の財務省︶と国税庁は、本人確認の手段がないことが利子配当課税の徴収における最大の問題点であるとして、1979年に向けた﹁昭和五十四年度の税制改正に関する答申﹂に﹁利子・配当所得の適正な把握のため、納税者番号制度の導入を検討すべきである﹂との導入検討意見を記していた。
大蔵官僚の内海孚は、国税庁官房企画課長時代から納税者番号制執行予算を国税庁に計算させており、内海が大蔵省主税局税制一課長になりそのまま流用することになったが、納税者番号に対する社会的反発が強く、非課税貯蓄の場合に限って番号を振り分けることに修正された。
1980年︵昭和55年︶3月、マル優とされた少額貯蓄非課税制度の仮名口座防止のためグリーンカード制度︵少額貯蓄等利用者カード︶導入が盛り込まれた所得税法の一部を改正する法律が、日本共産党を除いた賛成多数により可決して成立した。パチンコ屋などの中小企業主や政治家、金融機関は、﹁収入がガラス張りになる﹂﹁グリーンカード制なんてものができたら、先生︵政治家︶に献金できる裏金がなくなりますよ。それでもいいんですか﹂﹁グリーンカード制度は悪法だから、廃止するか、実施を延期することにしよう﹂との反対意見や抗議を相次ぎ唱え、議論紛糾の末に廃止法案提出が決定した。
自民党税制調査会長の山中貞則は﹁俺の目が黒いうちは、絶対に政府提案で廃止することはさせない﹂として最後まで抵抗していたが、自民党の実力者であった金丸信と銀行から、中曽根康弘を総理にする条件としてグリーンカード制廃止に同意するよう迫られて︵山中は中曽根派の有力者である。︶廃止法案の政府提出に同意せざる得なくなった。
マスメディアの全国紙は、読売新聞︵当時の論説委員長は渡辺恒雄︶、日本経済新聞︵当時の論説委員長は鶴田卓彦︶がグリーンカード制に反対し、朝日新聞、毎日新聞、産経新聞などは、税の公平という観点から賛成していた。
住民票コードの歴史
個人番号(マイナンバー)の歴史
2015年︵平成27年︶10月5日、日本在住者に12桁の番号が振られ、10月23日以後順次、氏名、住所、生年月日、性別、個人番号が記載された紙の﹁通知カード﹂が地方公共団体から簡易書留で送付された。この通知カードに付属している申込書を用いて郵送やウェブサイトで申請することで、証明写真付きのICカードである﹁個人番号カード﹂に切り替えることもできる。
2015年︵平成27年︶9月3日、マイナンバーの利用範囲を銀行預金口座や特定健診・特定保健指導に拡大する﹁改正マイナンバー法案﹂が、衆院本会議で与党や民主党などの賛成多数で可決して成立[55]した。住基ネットと同様に反対運動が起きたが、一部の左派市民団体・労組や日弁連が反対運動しただけで盛り上がらなかった[44][56]。
2015年︵平成27年︶10月14日、マイナンバー制度導入に伴うシステム構築に関連して、厚生労働省室長補佐の男性が収賄容疑で逮捕された[57]。
2016年︵平成28年︶1月、マイナンバー制度開始と同時に証券口座へのマイナンバーの登録が義務化された[58]。ただし、2015年12月以前に口座を開設した人は猶予期限が2021年12月末まであった[59]。
2017年︵平成27年︶11月13日、行政手続きをオンラインでできるシステムとしてマイナポータルの本格運用が開始された[60]。
2018年︵平成30年︶1月、預貯金口座付番制度が開始され金融機関の預貯金口座にマイナンバーを登録できるようになった。2021年︵令和3年︶以降に登録の義務化を検討する[55][61]とされたが2020年末に見送られた[62]。
2019年︵平成31年︶1月、e-Taxによるオンライン納税においてマイナンバーカードを使ったログインが可能になった[63]。
2020年︵令和2年︶5月、新型コロナウイルス感染症︵COVID-19︶拡大事態中に全国民1人に一律10万円の特別定額給付金の給付を実行する際にマイナンバーを利用したオンライン申請でも効率が悪く、事務手続きが混乱し話題になった[64][65]。オンライン申請するのに必要なマイナンバーカードの普及率も約16%ほどだった。
2021年︵令和3年︶9月、デジタル庁が発足し、マイナンバーの所管が総務省や内閣府などからデジタル庁に移動した[66]。
2022年︵令和4年︶に公金受取口座登録制度が開始され、国のマイナンバーに給付金等の受取のための口座が一つ登録できるようになった[67]。
シンガポール
国民登録番号(NRIC)という徴税や社会保障、免許証や銀行口座の開設などにも利用されている[11]。
香港
香港ID番号という徴税や社会保障、免許証や就職などにも利用されている[11]。
北アメリカ
アメリカ合衆国
社会保障番号(SSN)があって徴税や社会保障、免許証や銀行口座の開設などにも利用されている[11]。2010年から「リアルID」[68]が本格的に導入された。
カナダ
1964年に社会保険番号(英: Social Insurance Number)が導入された。徴税や社会保障、パスポートや銀行口座の開設などにも利用されている[11]。
オセアニア
オーストラリア
オーストラリアカード案は1987年に廃案になり、1989年に納税者番号として税務番号[69]が導入された。
ヨーロッパ
欧米諸国では日本のような社会保険料の106万円の壁のような逆転現象・就労調整が生じないように勤労税額控除などの制度を導入している。収入に応じて壁が生じないように、国民識別番号で本人や世帯の収入を把握してそれに応じて社会保障給付を逓増や逓減させたりする制度にしている[70][リンク切れ]。
イギリス
イタリア
1977年に納税者番号制度(コーディチェ・フィスカーレ)が導入され、公的医療保険証に番号が記載されている。
エストニア
1999年に国民ID番号が導入された。15歳以上の全国民が国民IDカード(eIDカード)所持が義務付けられている[74]。
ドイツ
2003年に納税者番号(Steuer-Identifikations-Nummer)として税務識別番号が導入された。医療では医療被保険者番号が導入されている。
スウェーデン
1947年に個人識別番号︵PIN、スウェーデン語‥personnummer︶が導入されて全国民に付与されている。発行者はスウェーデン税務庁︵英語版︶で、確定申告、社会保障給付申請、免許証新成人申請時の個人認証、自動車登録、建築許可申請、出生届、婚姻届、年金手続、医療機関予約など、広範な分野で使用されている。
PIMが保有する個人情報は、PIN、氏名、住所、管理教区、本籍地、出生地、国籍、婚姻関係、家族関係、所得税賦課額、本人・家族の所得額、本人・家族の課税対象資産、保有する居住用不動産、不動産所在地の県の地域番号、建物の類型、不動産の評価額、ダイレクトメール送付の是非、当該ファイルの最終変更日付など住民登録、納税、社会保障、教育等のほぼすべての行政分野と銀行、民間保険、携帯電話等の民間分野多岐に渡る制度になっている。
スウェーデンの年金制度でサラリーマンと自営業者が一本化できているのには個人識別番号制などが整備されていること、社会保障料の徴収を所得税などの徴収にあわせて税務署で同時に行われているため、日本のように年金の社会保険料は納めないという対応はできないようになっていること、保険料を納付すればするほど老後の年金額が増加する仕組みとなっているため、自営業の保険料納付意欲を高めることにつながっている。上記の3つの理由により 自営業者側による社会保険料の納付についてサラリーマン側が徴税への不信感を抱く状況とはなっていないためである[77]。
ノルウェー
個人識別番号(PIN)がある。徴税や社会保障、銀行口座の開設などにも利用されている[11]。
デンマーク
CPR番号がある。当初は公的な利用のみが想定されていたが、住民個人ごとに一意の番号を持つことから、次第に個人証明としても利用されるようになった。徴税や社会保障、銀行口座の開設や免許証などにも利用されている[11]。医療制度でも同じ番号が利用されている[78]。
また、CPR番号をインターネットで利用するためのNemIDも制定されている。
フィンランド
個人識別番号(PIC)がある。徴税や社会保障、パスポートや銀行口座の開設などにも利用されている[11]。
オランダ
SoFi-nummer(社会保障番号)が徴税や社会保障、銀行口座の開設や就職時などにも利用されている[11]。
フランス
INSEEコード(NIR)が採用され、公的医療保険証(ヴィタルカード)に記載されている。さらにINSとNDPという識別制度が医療では利用されている。
ベルギー
社会保障番号(Numéro d'identification de la sécurité sociale - NISS)が存在し、医療受給のためのSISカードに記載されている。
アイスランド
個人識別番号(Kennitala)が導入されている。徴税や社会保障、銀行口座の開設や免許証などにも利用されている[11]。
参考書籍
出典
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(65)^ “社説お粗末なオンライン行政”. 日本経済新聞. https://www.nikkei.com/article/DGXMZO59531810V20C20A5SHF000/
(66)^ “きょうデジタル庁が発足 マイナンバー制度活用などに取り組む”. NHK. https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210901/k10013235781000.html
(67)^ “公金受取口座登録制度”. デジタル庁. https://www.digital.go.jp/policies/account_registration/
(68)^ 英: Real ID
(69)^ 英: Tax File Number、TFN
(70)^ https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20171208-00152229-diamond-bus_all&p=2
(71)^ 英: National Insurance number
(72)^ ab今押さえるべきマイナンバー理解のカギ, p. 3.
(73)^ 今押さえるべきマイナンバー理解のカギ, p. 4.
(74)^ 前田陽二 (2016年3月2日). “エストニアの電子政府と日本の未来への提言”. HUFFPOST. 2018年4月27日閲覧。
(75)^ 北欧モデル, 3章、4章.
(76)^ 今押さえるべきマイナンバー理解のカギ, p. 8.
(77)^ 山田隆博. “スウェーデンに学ぶ日本の年金制度改革” (PDF). 香川大学経済学部. p. 134. 2018年4月27日閲覧。
(78)^ ヘレン・ラッセル、鳴海深雪︵訳︶﹃幸せってなんだっけ?世界一幸福な国での﹁ヒュッゲ﹂な1年﹄CCCメディアハウス、2017年、[要ページ番号]頁。ISBN 978-4484171029。
(79)^ 今押さえるべきマイナンバー理解のカギ, p. 9.
(80)^ 今押さえるべきマイナンバー理解のカギ, p. 5.
(81)^ 今押さえるべきマイナンバー理解のカギ, p. 13.
関連項目