水素イオン指数︵すいそイオンしすう、英: hydrogen ion exponent[1] 、独: Wasserstoffionenexponent︶とは、溶液の酸と塩基の程度を表す物理量で、記号pH︵ピーエッチ、ピーエイチ、ペーハー︶で表す。水素イオン濃度指数[3]または水素指数[4]とも呼ばれる。1909年にデンマークの生化学者セーレン・セーレンセンが提案した[5]。希薄溶液のpHは、水素イオンのモル濃度をmol/L単位で表した数値の逆数の常用対数にほぼ等しい。
pHの値と、よく知られている溶液の関係の例(イラスト。ただし文字は英語表記)。下部がpH=0に相当し強酸性で、上部がpH=14前後に相当し強アルカリ性。
室温の水溶液では、水溶液のpHが7より小さいときは酸性、7より大きいときはアルカリ性、7付近のときは中性である。pHが小さいほど水素イオン濃度は高い。pHが1減少すると水素イオン濃度は10倍になり、逆に1増加すると水素イオン濃度は10分の1になる。酸性の原因は水素イオンなので、pHが中性のときの値よりも小さくなればなるほど酸性が強くなる。一方、アルカリ性の原因は水酸化物イオンである。水溶液の水素イオン濃度が10分の1になると、質量作用の法則に従って水酸化物イオンの濃度は10倍になるので、pHが中性のときの値よりも大きくなればなるほどアルカリ性が強くなる。
IUPACやJISが現在採用しているpHは、水素イオンのモル濃度 [H+] ではなく、水素イオンの活量 aH+ に基づいて定義されている[8][9]。
pHメーターで実測されるpHは、この活量に基づいたpHである。しかしながら希薄水溶液に限れば、活量を使わずにモル濃度から求めた計算値が実測値とそれなりに一致するので、中等教育では﹁pHは水素イオン濃度 [H+] の逆数の常用対数である﹂と定義することが多い。
濃度が数% 以下の水溶液のpHは、おおむね0から14の範囲にある。市販のpHメーターで計測できるのも、通常は0から14までか、それより狭い範囲である。pHがこの範囲から外れるような液体の場合は、モル濃度による値と活量による値の差が無視できないほど大きくなるので、[H+] の逆数の常用対数がpHである、と考えるのは不適当である。モル濃度が 1 mol/L を超えるような、濃厚な酸や濃厚アルカリ溶液の酸性・アルカリ性の強さは、酸度関数によって表現するのが一般的である。
pHは水素イオンH+ の活量 aH+ を用いて次式により定義される[8]。
例外的な記号であるpHのpは演算子 (px := −log10x) と解釈される。
水素イオン指数pHと同様にして、水酸化物イオン指数 pOH は水酸化物イオン OH− の活量 aOH− を用いて以下の式で定義される。
-
IUPACは、水素イオン指数という名称を使わず、﹁pH﹂を物理量の名称としても、物理量の記号としても用いている[19]。また、pHは単位の付かない︵単位が1の︶無次元量である、としている[19]。それに対して日本の計量法は、﹁pH﹂は水素イオン濃度の計量単位﹁ピーエッチ﹂の単位記号である、と定めている[20]。
本項目では、原則としてIUPACにならって、水素イオン指数をpHと呼び、その記号をpHで表し、その値には単位を付けない。計量単位としての﹁ピーエッチ﹂については、﹁計量法におけるピーエッチ﹂節で述べる。
pHの読みは、﹁ピーエッチ﹂[21][22]、﹁ピーエイチ﹂︵英語読み[23]︶、または﹁ペーハー﹂︵ドイツ語読み[23]︶などである。pH測定方法を規定する日本の工業規格 (JIS Z 8802) の定める読みは、﹁ピーエッチ﹂または﹁ピーエイチ﹂である[18]。計量法では﹁ピーエッチ﹂のみと定められている[24][25]。
提案者のセーレンセンは生前、pHの﹁p﹂が何の略であるか語源についての説明を一切残さなかったため、公式にはpHの由来は謎となっている[26]。以下のような説明が慣例的、または便宜上行われることがあるが、いずれも仮説の域を出ない。
言語名 |
語源とされる語句 |
出典
|
英語 |
potential of hydrogen
|
『新和英中辞典』[27]、『ジーニアス英和辞典』[28]
|
英語 |
power + H(symbol for hydrogen)
|
『The Concise Oxford Dictionary 』, p.892, 8th edition, 1990, Oxford University Press
|
フランス語 |
pouvoir Hydrogène
|
『新英和中辞典』[29]
|
フランス語 |
potentiel d'Hydrogène
|
『ディコ仏語辞典』[30]
|
ドイツ語 |
Potenz H
|
『オックスフォード英英辞典』[31]
|
ラテン語 |
pondus hydrogenii
|
[要出典]
|
計量法におけるピーエッチは、濃度の計量単位であり、“モル毎リットルで表した水素イオン濃度の値に、活動度係数を乗じた値の逆数の常用対数”である[32][33]。計量法では、pHの読みが﹁ピーエッチ﹂という位置付けではなく、﹁ピーエッチ﹂そのものが計量単位であり、ピーエッチの単位記号が﹁pH﹂である[34]。計量法・計量単位令・計量単位規則では、﹁水素イオン指数﹂と﹁水素イオン濃度指数﹂の2語は用いられていない。
﹁pH﹂は、単位以外のものを表すのにも用いられる。例として、特定計量器であるガラス電極式水素イオン濃度計を定める工業規格 (JIS B 7960) における記号pHの使用法を示す[35]。
(一)pH単位で表した水素イオン濃度︵物象の状態の量︶を、記号pHで表してもよい。﹁溶液のpHに比例する起電力を…︵第1部 p. 1︶﹂
(二)pH単位で表した水素イオン濃度の値を、pH値と呼ぶ。﹁pH7.000, pH6.86 又は pH6.865 のpH値に対する理論起電力を用いて…︵第2部 p. 2︶﹂
(三)pH単位で表した水素イオン濃度の値が 6.86 であれば、これを pH6.86 と書く。記号は数値の左側に空白を入れずに書く。﹁pH7.000, pH6.86 又は pH6.865 のpH値に対する理論起電力を用いて…︵第2部 p. 2︶﹂
(四)pH単位で表した水素イオン濃度の差は、数値の右側に空白を入れて単位記号を書く。﹁1 pH 当たりの理論起電力︵第1部 p. 2︶﹂﹁指示計の目量は,0.02 pH 以下とする︵第2部 p. 3︶﹂
(五)数式中のpH値は、記号pHで表す。イタリック体にはしない。﹁E=59.16×(7.000−pH) (mV)︵第2部 p. 4︶﹂
JIS B 7960 には、ピーエッチ (pH) を定義する文言はない。この規格が引用している JIS K 0211 分析化学用語︵基礎部門︶と JIS K 0213 分析化学用語︵電気化学部門︶では、pHを“水素イオンの活量の逆数の常用対数”と定義している。なお、これらの規格で用語として定義されているのは﹁ピーエッチ﹂ではなく、﹁pH﹂である。また、﹁ぴーえっち﹂の他の読みとして﹁ぴーえぃち﹂と﹁ぴーえいち﹂が挙げられている[9][36]。
“モル毎リットルで表した水素イオン濃度の値に、活動度係数を乗じた値の逆数の常用対数”と“水素イオンの活量の逆数の常用対数”は同じものである。ただし、これは概念上の定義で実測できない値であるので、実際のpH測定に当たっては JIS Z 8802 に規定されている操作的定義を用いる[9][36]。
水溶液の液性は、液体に含まれる水素イオンH+ と水酸化物イオンOH− の多寡で決まる。液体中に存在するH+ の数がOH− の数よりも多いとき、その水溶液は酸性を示す。逆に、H+ の数がOH− の数よりも少ないとき、アルカリ性を示す。H+ の数がOH− の数とちょうど同じときは、酸性でもアルカリ性でもなく、中性である。
溶液の酸性がそれほど強くないとき、その溶液を弱酸性溶液という。溶液のアルカリ性がそれほど強くないとき、その溶液を弱アルカリ性溶液という。酸性とアルカリ性の境目のpHは、明確に定まる。それに対して、強酸性と弱酸性、弱酸性と中性、中性と弱アルカリ性、弱アルカリ性と強アルカリ性のそれぞれの境目は、曖昧である。科学的にはこれらを分ける境界線は存在しない。法令などでは、便宜上、適当なpHで線を引いてこれらを分類する。一例として、家庭用品品質表示法における漂白剤・合成洗剤・石鹸などの液性を示す用語とpH範囲を表に示す。
雑貨工業品品質表示規程における漂白剤・洗剤などの液性[37]
液性 |
pHの範囲
|
酸性 |
pH < 3.0
|
弱酸性 |
3.0 ≦ pH < 6.0
|
中性 |
6.0 ≦ pH ≦ 8.0
|
弱アルカリ性 |
8.0 < pH ≦ 11.0
|
アルカリ性 |
11.0 < pH
|
日本の温泉の分類では、液性を示す用語はこの表と同じであるがpH範囲が異なり、中性と弱アルカリ性の範囲が狭くなっている。詳しくは﹁泉質#液性による分類﹂を参照のこと。
以下の表は、身近な液体のうちから酸性またはアルカリ性を示すものをいくつか選んで、pHの低い順に並べたものである。この順序は絶対的なものではない。水に溶けている酸・塩基の濃度によりpHは変化するので、濃度によって順序は入れ替わる。また、表の1列目に示したpHの値は、大まかな目安である。
リトマス紙
水溶液の大まかな液性は、リトマス試験紙(リトマス紙)で調べることができる。青色のリトマス紙で試験すると、酸性か否かがわかる (赤色を示せば酸性)。赤色のリトマス紙で試験すると、アルカリ性か否かがわかる (青色を示せばアルカリ性)。青色と赤色の両方のリトマス紙を用いれば、酸性・中性・アルカリ性のいずれであるかを判定することができる。
リトマス紙では、pHの数値まではわからない。pH試験紙を用いると、pHの数値を知ることができる。pHメーターを用いて計測すると、さらに詳しい数値を知ることができる。
市販されているpHメーターで測定ができるpH範囲は、通常は、0から14までか、それよりも狭い範囲に限られる。しかしpHに下限や上限は特には存在せず、負の値や14を超える値も取り得る。日本の高等学校の教科書などでは、pHはmol/L単位で表した [H+] の数値の逆数の常用対数として定義されている。そして1気圧・25 °CでのpHの値が0 – 14の範囲で図表が掲げられ、水溶液のpHはほぼその範囲で変化すると記述されている[38]。この定義の下で、例えば3.16 M, 10.0 Mの塩酸が完全電離すると仮定すればpHはそれぞれ−0.5, −1.0と負の値となる。一方、水は分子量が凡そ18 g/molで密度が1 g/mL程度なので純水のモル濃度[H2O] は約55.6 Mとなり、仮にこの密度のまま全てのH2O分子がH3O+となった場合でもpHが−1.75超、逆に全てのH2O分子がOH−となった場合のpHでも15.75未満と計算される。
実際に鉛蓄電池の電解液のpHは負の値であり、アルカリ乾電池の電解液のpHは14を超える。ただし、酸や塩基のモル濃度が 1 mol/L を超える水溶液のpHは、推測することも計測することも難しい。このような濃厚水溶液の酸性やアルカリ性の強さは、酸度関数によって表現するのが一般的である。
モル濃度が数モル毎リットル (mol/L)以上の濃厚水溶液では、水素イオンのモル濃度 [H+] からpHを計算しても、意味のある数値は得られない。例えば、アメリカ地質調査所の研究者は、ある廃鉱山から採取した試料水のひとつが pH = −3.6 であったと報告している。この試料水の水素イオン濃度を 公式 [H+] = 10−pH mol/L からあえて計算すると、4000 mol/L というありえない値が得られる。このような強酸性の液体のpHを [H+] から推定するのは、不可能である。
また水溶液のガラス電極によるpH測定において、信頼性の高い値が得られるのはpHがおよそ1 – 12の範囲内、イオン強度は0.1以下である。まず濃厚な酸の水溶液をガラス電極により測定する場合、ガラス電極表面の膨潤および陰イオンの吸着などが影響し、酸誤差が生じる。次に濃厚な塩基水溶液の場合はガラス電極表面への陽イオンの吸着などの影響によりアルカリ誤差を生じ、これは陽イオンのイオン半径が小さいほど大きい傾向がある。
水をどれだけ精製しても、水中から水素イオンを取り除くことはできない。たとえ超純水であっても、水の自己解離のため、1気圧・25 °Cの水中には水分子5億5千万個につき1個の水素イオンが含まれている。水素イオンのモル濃度で表すと 1.00×10−7 mol/L であり、この数値の逆数の常用対数がpHであるから、純水のpHは
となる。水分子H2Oの自己解離により、純水には水素イオンH+ と同数の水酸化物イオンOH− が含まれているので、純水は中性である。
純水のpHは、温度によって変化する。圧力が1気圧のとき、純水のpHが7.00になるのは24 °C付近の狭い温度範囲に限られる。温度が0 °Cのときの純水では pH = 7.47、10 °Cのとき7.27、20 °Cのとき7.08、30 °Cのとき6.92、60 °Cのとき6.51となる[41]。このpHの温度変化は、水の自己解離の度合いが温度により異なることに起因する。自己解離反応は吸熱反応なので、温度が高いほど解離が進む︵ルシャトリエの原理︶。60 °Cの純水に含まれる水素イオンの数は、0 °Cの純水に含まれる数のおよそ10倍である。
空気に触れた純水は酸性を示す。ただし、リトマス紙を赤変するほどではない、ごく弱い酸性である。これは、空気中の二酸化炭素が水中に溶け込むためである。空気に十分な時間接した後の水のpHは25 °Cで5.6になる。メカニズムは以下の通り[42]。
水に溶け込んだ二酸化炭素分子CO2 の一部は、水分子H2Oと反応して炭酸分子 H2CO3になる。
生成した炭酸分子のさらに一部は、電離して水素イオンH+ を放出する。
炭酸の電離により放出される水素イオンの量は極めて少ないが、それでも純水に含まれる水素イオンの数十倍の量になる。また質量作用の法則により水の自己解離が抑制されるため、水酸化物イオンの量は純水に含まれる量の数十分の一になる。液体中に存在するH+ の数がOH− の数よりも多いので、空気に触れた水は酸性を示す。空気に含まれる二酸化炭素の割合は0.04 %でほぼ一定であり、また大気圧もほぼ一定なので、二酸化炭素の分圧はほぼ一定である。さらに温度が一定であれば、CO2 の水への溶解度、H2CO3 が生成する割合、および H2CO3が電離する割合もまた一定になる。25 °Cにおけるこれらの数値を用いて計算すると、pH = 5.6 となる。
酸の濃度が極端に低くなると、水素イオン濃度 [H+] は酸のモル濃度 CHAよりも大きくなる。これは、水の自己解離が起こっているためである。酸の水溶液をどれだけ純水で薄めても、25 °CではpHが7を超えることはない。同様に、塩基の濃度が極端に低くなると、水酸化物イオン濃度 [OH−] は塩基のモル濃度 CBよりも大きくなる。塩基の水溶液をどれだけ純水で薄めても25 °CのpOHは7を超えないしpHが7を下回ることもない。
弱酸と弱塩基の場合は、それぞれ前の節で示した一般式を用いてpHを計算することができる。
強酸の水溶液の [H+] と CHAの関係は、一般に次式で表される。
ただし Kwは水のイオン積であり、25 °Cでは Kw= 1.008×10−14 mol2/L2 である。数値を入れて計算すると
CHA >10−6 mol/L のとき
[H+] = CHA
CHA<10−8 mol/L のとき
[H+] = √Kw
となることが分かる。つまり、溶質が強酸の場合は、濃度が極端に低くない限り水素イオンの濃度に関する式に酸の濃度を直接代入してよいことと、酸の濃度が極端に低くなるとpHが7になることが確認できる。10−6 mol/L > CHA>10−8 mol/L のときは、上の関係式から [H+] を求めてpHに換算すると6ないし7になる。
強塩基の水溶液の [OH−] と CMOH の関係は、一般に次式で表される。
酸の濃度が 1 mol/L よりも高くなると、水素イオン活量 aH+ を水素イオン濃度 [H+] で置き換える近似が悪くなる。濃塩酸、濃硝酸、濃硫酸などの強酸性液体のpHを [H+] から計算で求めるのは、無意味である。塩基の場合も同様で、濃厚アルカリ溶液のpHやpOHを [H+] や [OH−] から計算で求めるのは、無意味である。pHはもともと、酸・塩基の濃度が 1 mol/L よりも低い水溶液の酸性・アルカリ性の度合いを示すための指標として考案された[5]。濃厚な酸や濃厚アルカリ溶液の酸性・アルカリ性の強さは、酸度関数によって表現するのが一般的である。
塩酸のpHが、2000年代に複数の研究グループにより測定されている。報告された 1 mol/L 塩酸のpHはいずれも −0.1程度であり、互いによく一致している。1 – 6 mol/L 塩酸のpHを酸度関数 H0 とともに表に示す。
塩酸のpHと酸度関数 H0 (25 °C)[49]
モル濃度 |
水素電極 |
ガラス電極 |
モデル計算 |
H0
|
1 mol/L |
−0.16 |
−0.10 |
−0.16 |
−0.21
|
2 mol/L |
−0.63 |
−0.53 |
−0.64 |
−0.67
|
3 mol/L |
−1.00 |
−0.93 |
−1.03 |
−1.05
|
4 mol/L |
−1.33 |
−1.22 |
−1.38 |
−1.41
|
5 mol/L |
−1.53 |
−1.44 |
−1.71 |
−1.76
|
6 mol/L |
−1.67 |
−1.60 |
−2.05 |
−2.12
|
表の2列目は水素電極を用いた測定値、3列目はガラス電極を用いた測定値、4列目は平均活量係数 γ± などの実測値を用いたモデル計算による値で、最後の列が酸度関数 H0 の文献値である。酸のモル濃度が 1 mol/L を超えると、pHが急速に低下することが表からわかる。塩酸では、3 mol/L でpHが −1に達する。
ピッツァー式(英語版)と呼ばれる複雑な実験式に基づいて、25 °Cにおける硫酸のpHが計算されている。
硫酸のpH (25 °C)
比重 |
質量モル濃度/mol/kg |
pH |
−log10mH+/mol/kg |
−log10[H+]/mol/L
|
1.00 |
0.146 |
0.86 |
0.84 |
0.84
|
1.04 |
0.734 |
0.09 |
0.13 |
0.15
|
1.09 |
1.497 |
−0.38 |
−0.18 |
−0.15
|
1.13 |
2.319 |
−0.79 |
−0.37 |
−0.33
|
1.15 |
2.918 |
−1.07 |
−0.47 |
−0.42
|
1.18 |
3.657 |
−1.41 |
−0.56 |
−0.50
|
1.22 |
4.485 |
−1.78 |
−0.65 |
−0.58
|
1.26 |
5.413 |
−2.19 |
−0.73 |
−0.65
|
1.33 |
7.622 |
−3.13 |
−0.88 |
−0.76
|
1.38 |
9.850 |
−4.09 |
−0.99 |
−0.84
|
表の2列目はモル濃度ではなく質量モル濃度である。比較のために、水素イオンの質量モル濃度 mH+ の逆数の対数を4列目に、モル濃度 [H+] の逆数の対数を5列目に示した。十分に希薄であれば、質量モル濃度から計算したpHはモル濃度から計算したpHに等しい。−log10mH+/mol/kg は、硫酸をH+ と HSO4− を溶質とする理想希薄溶液とみなしたときのpHに相当する。硫酸の質量モル濃度が 1 mol/kg を超えると硫酸のpHは急速に低下し、理想希薄溶液のpHとのずれは無視できないほど大きくなる。表から、自動車用鉛蓄電池の電解液︵比重1.28の希硫酸︶のpHが −2よりも低い負の値となることが分かる。また、このような強い酸性を示す硫酸のpHは、水素イオンの質量モル濃度やモル濃度の逆数の対数とはみなせないこともわかる。
水酸化カリウム水溶液と水酸化ナトリウム水溶液のH−関数を表に示す。
水酸化カリウム水溶液と水酸化ナトリウム水溶液のH−関数 (25 °C)[51]
モル濃度 |
14.00 + log10[OH−]/mol/L |
KOH 水溶液の H− |
NaOH 水溶液の H−
|
0.1 mol/L |
13.00 |
13.00 |
12.99
|
1 mol/L |
14.00 |
14.11 |
14.02
|
2 mol/L |
14.30 |
14.51 |
14.37
|
5 mol/L |
14.70 |
15.44 |
15.20
|
10 mol/L |
15.00 |
16.90 |
16.20
|
15 mol/L |
15.18 |
18.23 |
17.10
|
モル濃度が 1 mol/L より低い水溶液では、これらのH−関数は [OH−] から計算したpHに一致する。モル濃度が 1 mol/L を超えると、pHの計算値とH−関数のずれは急速に大きくなる。また、同じモル濃度の濃厚溶液では、水酸化カリウム水溶液の方が水酸化ナトリウム水溶液よりも強いアルカリ性を示す。
単独イオンの活量 (single-ion activity) は、熱力学の枠内では測定できないことが知られている。水素イオン活量 aH+ や水酸化物イオン活量 aOH− も例外ではない。熱力学的に測定可能なのは、陽イオンと陰イオンの活量の積である。例えば塩酸であれば水素イオン活量と塩化物イオン活量の積 aH+aCl− が測定されている。水酸化カリウム水溶液では aK+aOH− が測定されている。これらの1:1電解質のイオン活量の積 a+a− から、平均活量 a± が次式で定義される。
もし、1:1電解質の陽イオンと陰イオンの活量が等しいと仮定するなら a+ = a− = a± となるので、平均活量から単独イオンの活量を推定できる。この仮定に基づいて、25 °Cにおける水酸化カリウムのpHが推定されている。この推算によると質量モル濃度 1 mol/kg のときのpHは13.89、15 mol/kg のときは17.14である。質量モル濃度からpHを計算すると 14.00 + log10 15 = 15.18 となることから、濃厚KOH水溶液では質量モル濃度︵またはモル濃度︶から計算したpHと平均活量から計算したpHが大きく異なることがわかる。
- ^ これらのpHの値は一次測定により得られる典型値 (typical values) であって、定義値ではない。
- ^ [Al(H2O)6]3+ ⇌ H+ + [Al(OH)(H2O)5]2+
- ^ H2O の活量が1から大きくずれるような濃厚水溶液では 14.00 = pH + pOH + log10aH2O となる。
- ^ 英語: reference electrode
(一)^ ﹃理化学辞典﹄︻水素イオン指数︼。
(二)^ Sørensen (1909), p. 159.
(三)^ ﹃理化学辞典﹄︻水素イオン指数︼。
(四)^ ﹃世界大百科事典﹄︻pH︼。
(五)^ ab﹃化学の原典﹄ p. 69.
(六)^ 左巻 (2011), pp. 192–193.
(七)^ 左巻 (2011), pp. 195–196.
(八)^ abcdグリーンブック (2009) pp. 90-91.
(九)^ abcJIS K 0211 分析化学用語︵基礎部門︶用語番号4345︵2013年改正︶。
(十)^ abcCovington et al. (1985), p. 534.
(11)^ Bates & Guggenheim (1960), p. 163.
(12)^ ab垣内 2014, p. 101.
(13)^ 水町 (2003) p. 21.
(14)^ abCovington et al. (1985), p. 539.
(15)^ ab吉村 (1968).
(16)^ Buck et al. (2002), p. 2170.
(17)^ Buck et al. (2002), p. 2198.
(18)^ abcdJIS Z 8802 pH測定方法︵2011年改正︶.
(19)^ abグリーンブック (2009) p. 84.
(20)^ 計量法 別表第三、計量単位令 別表第三、計量単位規則 別表第二。
(21)^ 明鏡国語辞典、p.1372 ﹁ピーエッチ﹂、初版第一刷、2002-12-01、大修館書店
(22)^ 小学館ランダムハウス英和大辞典、p.1937、パーソナル版第3刷、1979-04-27、小学館
(23)^ ab水町 (2003) p. 20.
(24)^ 計量法 別表第三。
(25)^ 計量単位令 別表第三。
(26)^ Francl, Michelle (August 2010). “Urban legends of chemistry”. Nature Chemistry 2(8): 600–601. Bibcode: 2010NatCh...2..600F. doi:10.1038/nchem.750. ISSN 1755-4330. PMID 20651711. オリジナルの6 August 2020時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20200806053215/https://www.nature.com/articles/nchem.750.epdf 2019年7月21日閲覧。.
(27)^ Martin Dollick, David P. Dutcher, 田辺宗一, 金子稔﹃新和英中辞典﹄︵第5版︶研究社、2002年9月、1524頁。ISBN 9784767420585。
(28)^ 小西友七、南出康世﹃ジーニアス英和辞典 第4版﹄︵第4版︶大修館書店、2006年12月20日、1447頁。ISBN 9784469041705。
(29)^ 竹林, 滋、東, 信行、諏訪, 部仁 ほか 編﹃新英和中辞典﹄︵第7版︶研究社、2010年12月、1349頁。ISBN 9784767410784。
(30)^ 山田𣝣、宮原信 監修﹃ディコ仏語辞典﹄︵第1版︶白水社、2003年3月10日、1154頁。ISBN 9784560000380。
(31)^ “pH”. Oxford Dictionaries. オックスフォード大学出版局. 2016年2月2日閲覧。
(32)^ 計量単位令 別表第3項番5、濃度、ピーエッチ、﹁モル毎リットルで表した水素イオンの濃度の値に活動度係数を乗じた値の逆数の常用対数﹂
(33)^ 濃度の計量単位、4︶ピーエッチ (pH) MST、計装豆知識、1995年11月号
(34)^ 計量単位規則 別表第2 濃度、ピーエッチの欄、﹁pH﹂
(35)^ JIS B 7960-1 ガラス電極式水素イオン濃度計−取引又は証明用−第1部‥検出器、JIS B 7960-2 ガラス電極式水素イオン濃度計−取引又は証明用−第2部‥指示計︵2015年改正︶。
(36)^ abJIS K 0213 分析化学用語︵電気化学部門︶用語番号 355︵2014年改正︶。
(37)^ 雑貨工業品品質表示規程 消費者庁
(38)^ 渡辺 正ほか﹃新版 化学I﹄大日本図書
(39)^ Lim (2006), p. 1465.
(40)^ Nordstrom & Alpers (1999).
(41)^ ab大阪教育大学附属高等学校天王寺校舎﹁第20章 酸・塩基の強さ﹂の水のイオン積より算出。
(42)^ 赤木 (2005) p. 197.
(43)^ 赤木 (2005) p. 245.
(44)^ 田中 (1971) p.76.
(45)^ ﹃化学便覧﹄ 表 9.32.
(46)^ ﹃化学便覧﹄ 表 9.33.
(47)^ 田中 (1971) p.79.
(48)^ 垣内、山本 (2016), p. 186.
(49)^ Senanayake (2007) Tables 1, 2.
(50)^ abNordstrom et al. (2000), p. 255.
(51)^ ﹃化学便覧﹄ 表 11.49.
(52)^ Licht (1985), p. 515.
●J.G. Frey、H.L. Strauss﹃物理化学で用いられる量・単位・記号﹄︵PDF︶産業技術総合研究所計量標準総合センター訳︵第3版︶、講談社、2009年。ISBN 978-406154359-1。https://unit.aist.go.jp/nmij/public/report/others/pdf/iupac_green_book_jp.pdf。2024年3月19日閲覧。
●左巻健男﹃中学3年分の物理・化学が面白いほど解ける65のルール﹄明日香出版社、2011年。ISBN 978-4756914798。
●垣内隆﹁あいまいな電気分析化学﹂︵PDF︶﹃Review of Polarography﹄第60巻第2号、日本ポーラログラフ学会、2014年、99-109頁、doi:10.5189/revpolarography.60.99。
●垣内隆、山本雅博﹁イオン液体塩橋を用いるpH測定 – 現状と展望﹂︵PDF︶﹃分析化学﹄第65巻第4号、日本分析化学会、2016年、181-191頁、doi:10.2116/bunsekikagaku.65.181。
●松久幸敬、赤木右﹃地球化学概説﹄日本地球化学会監修、培風館︿地球化学講座﹀、2005年。ISBN 4-563-04901-8。
●水町邦彦﹃酸と塩基﹄裳華房︿化学サポートシリーズ﹀、2003年。ISBN 9784785334109。
●田中元治﹃酸と塩基﹄裳華房︿基礎化学選書8﹀、1971年。 NCID BN00729600。
●澤村精治﹁9.6.2 固体の溶解度﹂﹃化学便覧 基礎編﹄II、日本化学会 編︵改訂5版︶、丸善出版、2014年。ISBN 978-4621073414。
●S. P. L. Sørensen﹁酵素の研究II酵素反応における水素イオン濃度の測定と重要性について﹂﹃電解質の溶液化学﹄田中元治 訳、日本化学会 編、学会出版センター︿化学の原典. 第2期2﹀、1984年。ISBN 4-7622-7382-1。
●藤原照文﹁11.9 溶媒の諸物性﹂﹃化学便覧 基礎編﹄II、日本化学会 編︵改訂5版︶、丸善出版、2014年。ISBN 978-4621073414。
●吉村壽人、松下寛、森本武利﹃pHの理論と測定法﹄︵新版︶丸善、1968年。 NCID BN01531187。
●Sørensen, S. P. L. (1909). “Enzymstudien. II: Mitteilung. Über die Messung und die Bedeutung der Wasserstoffionenkonzentration bei enzymatischen Prozessen”. Biochemische Zeitschrift 21: 131–304.
●Covington, A. K.; Bates, R. G.; Durst, R. A. (1985). “Definitions of pH scales, standard reference values, measurement of pH, and related terminology”. Pure and Applied Chemistry 57(3): 531–542. doi:10.1351/pac198557030531. http://www.iupac.org/publications/pac/1985/pdf/5703x0531.pdf.
●Bates, R. G.; Guggenheim, E. A. (1960). “Report on the Standardization of pH and Related Terminology” (PDF). Pure and Applied Chemistry 1: 163-168. doi:10.1351/pac196001010163. https://www.iupac.org/publications/pac/pdf/1960/pdf/0101x0163.pdf.
●D. Kirk Nordstrom; Charles N. Alpers (1999). “Negative pH, efflorescent mineralogy, and consequences for environmental restoration at the Iron Mountain Superfund site, California”. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 96(7): 3455–3462. doi:10.1073/pnas.96.7.3455.
●Stuart Licht (1985). “pH Measurement in Concentrated Alkaline Solutions”. Analytical Chemistry 57(2): 514–519. doi:10.1021/ac50001a045.
●Gamini Senanayake (2007). “Review of theory and practice of measuring proton activity and pH in concentrated chloride solutions and application to oxide leaching”. Minerals engineering 20(7): 634-645. doi:10.1016/j.mineng.2007.01.002.
●Darrell Kirk Nordstrom; Charles N. Alpers; Carol J. Ptacek; David W. Blowes (2000). “Negative pH and Extremely Acidic Mine Waters from Iron Mountain, California” (PDF). Environmental Science & Technology 34(2): 254–258. doi:10.1021/es990646v. http://digitalcommons.unl.edu/cgi/viewcontent.cgi?article=1488&context=usgsstaffpub.
●R. P. Buck; S. Rondinini; A. K. Covington; F. G. K. Baucke; Christopher M. A. Brett; M. F. Camoes; M. J. T. Milton; T. Mussini et al. (2002). “Measurement of pH. Definition, standards, and procedures (IUPAC Recommendations 2002)” (PDF). Pure and Applied Chemistry 74(11): 2169-2200. doi:10.1351/pac200274112169. https://www.iupac.org/publications/pac/2002/pdf/7411x2169.pdf.
●Lim, Kieran F. (2006). “Negative pH Does Exist” (PDF). Journal of Chemical Education 83(10): 1465. doi:10.1021/ed083p1465. http://pubs.acs.org/doi/pdf/10.1021/ed083p1465.