熊胆
(熊の胆から転送)
熊胆︵ゆうたん︶は、クマ由来の動物性の生薬のこと。熊の胆︵くまのい︶ともいう。古来より中国で用いられ、日本では飛鳥時代から利用されているとされ、材料は、クマの胆嚢︵たんのう︶であり、乾燥させて造られる。健胃効果や利胆作用など消化器系全般の薬として用いられる。苦みが強い。漢方薬の原料にもなる。﹁熊胆丸﹂︵ゆうたんがん︶、﹁熊胆圓﹂︵ゆうたんえん‥熊胆円、熊膽圓︶がしられる[1]。
![](//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/0/0e/Medv_jelch.jpg/220px-Medv_jelch.jpg)
ロシア等で流通する熊胆。紐で縛るのは乾燥させる前に胆汁が漏れない 様にする処置である。
古くからアイヌ民族の間でも珍重され、胆嚢を挟んで干す専用の道具︵ニンケティェプ︶がある。東北のマタギにも同様の道具がある[2][3][4]。
※熊胆︵胆汁︶を採取する畜産業は﹁熊農場﹂を参照。
![](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/0/0e/Medv_jelch.jpg/220px-Medv_jelch.jpg)
日本の熊胆の歴史
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熊胆の効能や用法は中国から日本に伝えられ、飛鳥時代から利用され始めたとされる熊の胆は、奈良時代には越中で﹁調﹂︵税の一種︶として収められてもいた。江戸時代になると処方薬として一般に広がり、東北の諸藩では熊胆の公定価格を定めたり、秋田藩では薬として販売することに力を入れていたという。熊胆は他の動物胆に比べ湿潤せず製薬︵加工︶しやすかったという[5][1]。
熊胆配合薬は、鎌倉時代から明治期までに、﹁奇応丸﹂、﹁反魂丹﹂、﹁救命丸﹂、﹁六神丸﹂などと色々と作られていた︵現代は、熊胆から処方を代えている場合がある。理由は後述︶。また、富山では江戸時代から﹁富山の薬売り﹂が熊胆とその含有薬を売り歩いた[6]。
昔から知られる熊胆の鑑定法、昔から知られる効能は、﹃一本堂薬選﹄[7]に詳しい。
クマノイの方言
編集青森津軽地方でも、西目屋村の目屋マタギは「ユウタン」、鰺ヶ沢町赤石川流域の赤石マタギは「カケカラ」と呼んだ[8]。
クマ由来の民間薬
編集熊胆に限らず、クマは体の部位の至る所が薬用とされ、頭骨や血液、腸内の糞までもが利用されていた[9]。
成分
編集日本での入手方法
編集日本国内における規制
編集海外取引における規制
編集ツキノワグマやヒグマなど全てのクマ科はワシントン条約により規制されており、カナダ・ロシアなどの輸出国による輸出許可書がない限り国際取引は禁止されている。 海外旅行での取得の際には輸出国で所定の手続きを取らねばならないとされている[13] [14]。
その他
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●近年、日本では狩猟者が減少していることや、乾燥技術の伝承が絶たれていることなどから、熊胆の流通量が減り、取引価格が上昇している。このため、中国などから輸入されている[15](中国は生産量の一割を消費し、韓国・日本に対する供給国とされる[16])。
●クマはワシントン条約により取引が規制されているが、現実には日本国内での生産量と流通量に隔たりがあり、中国などから密輸が行われていると推定されている[17]。
●また伝統的に熊胆信仰が根強い韓国では、クマが実質的に絶滅状態であり、外国産のクマを飼育する熊農場が存在する[18]。韓国に限らず、アジアの各地で野生クマが減少しており、熊胆の採取も主な要因であるとされる。[19]
●近代的な畜産によるクマの胆汁生産を行う国々がアジアにはあり、動物愛護の点において議論の的になっている[20][21]。
詳細は「熊農場」を参照
代替医薬品
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●ウルソデオキシコール酸︵ウルソ︶ - TUDCAからタウリンを加水分解したウルソデオキシコール酸︵UDCA︶は化学合成が可能となり、天然熊胆から切り替えた製薬会社もあり、日本ではウルソ剤という名で東京田辺製薬が1962年から販売を開始した[22]。
●2009年までの富山大学では、﹁熊胆の代替品としての動物胆の有用性と安全性に関する研究﹂が行われ、牛胆を代替品に用いることが可能だと結論されている[23][24][25][26]。
関連項目
編集脚注
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(一)^ ab東京都薬剤師会・北多摩支部 おくすり博物館 ジェネリック︵GE︶篇︵その8︶2012年8月24日閲覧︵﹁熊胆丸﹂及び﹁熊胆圓(円)﹂の江戸時代から昭和までのパッケージの写真多数あり。︶
(二)^ 滅びゆくマタギ文化 ﹁狩りの文化﹂(秋田県) ﹁クマの胆を乾燥させるときに用いた小板。クマの胆のうの上の部分を、ヒモで固く結んでから切り取る。これをストーブの上に吊るして5日から1週間乾燥させる。﹂﹁クマの胆の仕上げに使う型板。穴が55個ある。乾燥させた胆のうを、ぬるま湯に入れてよくもみ、型板に挟んで形を整え、再び1週間ほど乾燥させる。出来上がった胆の重さは、生の時の1/4。﹂︵出典には道具の写真がある︶
(三)^ 阿仁マタギ用具 調査報告書 第3章 ﹁もの﹂から見た阿仁マタギ Ⅳ 阿仁比立内地区︵松橋時幸さんの記憶︶109ページ (PDF) 秋田県指定有形民俗文化財 阿仁マタギ用具 秋田県文化財調査報告書第441集、秋田県公式Webサイト
(四)^ 崇高な殺生<第2部 マタギの経済論> ﹁金﹂と比すべき商品性 丹念な技法で生み出す﹁熊の胆﹂ 戦前は県外に行商も読売新聞秋田版(年月日不明~2006年3月)
(五)^ 熊胆漢方薬・生薬販売中屋彦十郎薬舗︵石川県金沢市︶﹁クマノイを獲るために猟師は雪山を越えて熊の穴を探しもとめる。冬期間にとれた熊の胆は匂いがしない。射殺したクマから血液や脂肪の夾雑物が入らないように胆嚢を取り出し、これを陰干しにするとカチカチに固まる。これが生薬の熊胆で、不透明黒色の固い塊である。多くは卵球形である。一種の香気があり、味はきわめて苦い。粗悪品は魚臭い臭気がある。﹂
(六)^ エっ!ちゅう再考 (1) 県発展の基礎作った売薬業読売新聞富山
(七)^ 壺中天薬局・南鍼灸院 熊胆と動物胆2012年8月24日閲覧。 ﹁熊胆の文献で信頼でき、詳細な説明がされているものに、﹃一本堂薬選﹄︵1︶がある。著者の香川修庵は、﹂
(八)^ 集団組織したマタギ 津軽の遺産 北のミュージアム 第2回青森県立郷土館ニュース,2007年8月24日
(九)^ 阿仁マタギ用具 調査報告書 第2章 阿仁マタギ習俗の概要 表3文献にみる薬用とされた動物の部位 (PDF) p22-23、秋田県指定有形民俗文化財 阿仁マタギ用具 秋田県文化財調査報告書第441集、秋田県公式Webサイト
(十)^ Chemical book タウロウルソデオキシコール酸
(11)^ 難波恒雄、富山医科薬科大学和漢薬研究所﹃和漢薬の辞典﹄朝倉書店、2007年11月30日、296-297頁。ISBN 978-4-254-34008-2。
(12)^ 第十六改正日本薬局方(JP16)名称データベース 検索結果
(13)^ ワシントン条約について貿易管理 METI-経済産業省
(14)^ 海外旅行者向けパンフレット︵ワシントン条約︶︵カスタムスアンサー︶税関 Japan Customs
(15)^ ﹁クマ撃ちで金儲け﹂はウソ 実態は﹁命がけのボランティア﹂J-CAST,2010年11月2日、﹁クマ肉売れる﹂は﹁神話﹂、﹁漢方で使われる胆嚢も、中国産が出回っている現在では買ってくれる製薬会社もない。﹂
(16)^ チャイナ・なう﹁クマの胆汁採取事件﹂ TOKYO MX ﹁チェックタイム﹂、2012年4月10日放送
(17)^ 摘発事例︵平成19年発表分︶ 名古屋税関 Nagoya Customs︻ワシントン条約に該当する熊胆などの密輸入事件を摘発︵平成19年3月29日発表︶︼ 名古屋税関は、ロシア連邦から﹁絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約﹂︵通称﹁ワシントン条約﹂︶で輸入が制限されている医薬品の熊胆︵くまのい︶などを密輸入した日本人︵男︶を3月29日に告発した。1 犯則物件 熊胆など 約3.1キログラム 2 事件の概要 犯則嫌疑者は、ロシア連邦から入港した船舶の乗組員からワシントン条約で取引が規制されている医薬品の熊胆などを受領して密輸入したものである。
(18)^ 韓国の熊胆採取用クマの飼育を報じる記事﹁私は﹁死刑囚﹂の熊です﹂ 東亜日報 2012年7月21日
(19)^ “Threats to Asian Bears” (PDF) 日本クマネットワーク アジアのクマ アジアのクマを脅かす要因(英語)
(20)^ Inside a bear bile farm in Laos - TelegraphBy Fiona MacGregor, 7:45AM BST 19 Aug 2010
(21)^ 生きたままの熊から…残忍な製法の漢方薬﹁熊胆﹂、メーカー上場に非難ごうごう―中国 Record China、2012年2月8日
(22)^ 開発の経緯|ウルソ製品紹介|ウルソ|田辺三菱製薬 医療関係者サイト Medical View Point︻掲載︼2012年03月30日
(23)^ 熊胆の代替品としての動物胆の有用性と安全性に関する研究︵J. Ethnopharmacol., 125, 203-206, 2009︶臨床利用研究室|研究室|富山大学 薬学部
(24)^ 熊に負けぬ牛胆効能 富山大・渡辺准教授が証明北日本新聞,2009年7月3日
(25)^ 熊胆および牛胆による膵臓リパーゼ活性化における胆汁酸とリン脂質の役割 (PDF) 日本薬学会第131年会公式ホームページより
(26)^ 北陸人国記 第1部・くすりびと <3>クマをウシへ生薬研究読売新聞富山,2010年1月4日
外部リンク
編集- 月輪熊撃ち百頭物語「南会津の自然と伝統文化日記」南会津の自然と伝統文化研究所 - 昔から伝わるツキノワグマの狩猟から熊胆の製造までの例。
- 展示資料紹介(ユウタンもある) 漢方資料館「草木庵」 - 北都製薬株式会社(札幌市豊平区)による熊胆を含む漢方薬の展示。
- 日本におけるクマの保全と取引 2000年 (PDF) - クマ保護の観点から熊胆について詳しく紹介される。ワシントン条約第11回締約国会議に提出された。野生生物保全論研究会 (JWCS)