電位-pH図
電位-pH図︵でんいピーエイチず、もしくは、でんいペーハーず︶とは、水中における化学種︵特に金属︶の存在領域を電極電位とpHの2次元座標上に図示したものである。1938年にマルセル・プールベが発表した。プールベダイアグラム(Pourbaix Diagram)、プールベ図、E-pH図とも呼ばれる。
鉄のプールベ図[1]
電位-pH図は、熱力学的データ︵平衡論︶に基づいて計算して作成する。現在では、ほとんどの金属単体の電位-pH図が作成されている。また、一部の金属では、水だけでなく錯体を含む系の電位-pH図や、高温水での電位-pH図が作成されている。このような電位-pH図は、作成するための計算が複雑になる。
利用法
編集鉄の電位-pH図
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代表例として、25℃の水中における鉄の電位-pH図を挙げる。この図の横軸はpH、縦軸は水素電極基準の電圧が示されている。
ここでは、鉄化合物をFe、Fe2+、Fe3+、Fe2O3、Fe3O4、HFeO2−とし、
水の電気化学反応であるということから、H2O、H+、e−が加えられる。
鉄の反応傾向
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(一)領域I︵青の部分︶は、不感域︵安定域︶と言い、鉄が安定な領域である。
(二)領域II︵赤の部分︶は、腐食域と言い、鉄が腐食する。ここでは、Fe2+、Fe3+、HFeO2−が安定であり、鉄が溶解する。
(三)領域III︵黄色の部分︶は、不動態域と言い、鉄が不動態化する。つまり、鉄は初期に反応するが、反応生成物である不動態皮膜のためにこれ以上腐食が進まない。
(四)﹃FeO42−?﹄の部分は、その領域ではFeO42−が生成するらしいと言われているが、詳しくはわかっていない。正確な電位もわかっていない。
以上のように、25℃の水中での鉄の腐食傾向は、電位とpHの両方の値がわかれば、﹃電位-pH図﹄を読むことによって判断できる。
なお、Cl−が存在すると、不動態域で孔食が起こり、鉄に孔があく。電位-pH図は、実際の環境で起る現象の全てを予測する事は出来ないが、金属の腐食反応を理解するための基本になる。
水の反応傾向
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2本の破線a、bは水の生成・分解に関わる2つの反応の電位を示す。破線aは、
に対応している。ネルンストの式より、E = 1.23 − 0.059 pHとなる。この破線より上の領域では酸素が発生するが、下の領域では酸素が発生しない。
破線bは、
に対応している。ネルンストの式より、E = −0.059 pHとなる。この破線より下の領域のみ水素が発生する。
すなわち、破線aとbの間の領域が水の安定域である。
作成法
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●FeとFe2+の間の直線
ネルンストの式より、E = −0.44 + 0.0295 log aFe2+ である︵a Fe2+ は活量︶。Fe2+ の全溶解濃度が10−6 mol/L 以下を金属状態が安定である基準として、a = 10−6 を代入すると、E = −0.617 となる。これは、E のみに依存する。つまり、水平な線は、H+ やOH− が関与しない反応である︵E で境界が出来る︶。
●Fe3+とFe2O3の間の直線
この反応式について以下の2式を利用する。
●ΔG0 = −RTlnK
●K = [Fe3+ ]2 / [H+ ]6
すると、log [Fe3+ ] = -0.45 - 3 pH となり、これはpHのみに依存する。
もし、[Fe3+ ] = 1 としたら、pH = −0.15 で垂直な線になる。[Fe3+ ]が10倍増加または減少するに従って、垂直な線は0.33 pHだけ左または右に移動する。つまり、垂直な線は、H+ やOH− は関与するが、e− は関係しない反応である︵pHで境界が出来る︶。
●Fe2+とFe2O3の間の直線
ネルンストの式より、E = 0.972 − 0.177 pH となる。これは、E とpHに依存する。つまり、勾配のある線は、H+ やOH− およびe− が関与する反応である。
このようにして、全ての反応式について計算し、線のつながりを考えれば、電位-pH図が作成できる。
参考文献
編集- M. Pourbaix, Atlas of Electrochemical Equilibria in Aqueous Solutions, NACE, Houston (1966) - プールベが書いた、電位-pH図の集大成。