アンドロメダ病原体
表示
アンドロメダ病原体 The Andromeda Strain | ||
---|---|---|
著者 | マイケル・クライトン | |
発行日 | 1969年 | |
ジャンル | SF小説 | |
国 | アメリカ合衆国 | |
言語 | 英語 | |
形態 | 文学作品 | |
次作 | ターミナル・マン | |
公式サイト | http://www.michaelcrichton.com/the-andromeda-strain | |
ウィキポータル 文学 | ||
|
﹃アンドロメダ病原体﹄︵アンドロメダびょうげんたい、原題‥The Andromeda Strain、直訳では、strainは﹁病原体﹂ではなく﹁菌株﹂︶は、1969年に出版されたマイケル・クライトンによるSF小説。
マイケル・クライトン名義で初めて発表された長編小説であり、同時に出世作とされている。
1971年にロバート・ワイズの監督により映画化された︵原題は原作と同じ。邦題は﹃アンドロメダ…﹄︶。2008年には、リドリー・スコット/トニー・スコット製作によるテレビミニシリーズ︵邦題﹃アンドロメダ・ストレイン﹄︶が放送された。
概要
﹁アンドロメダ菌株︵ストレイン︶﹂という架空の﹁病原体﹂をめぐる5日間の出来事を書いた小説。
小説全体が﹁科学的な危機を正確かつ客観的に記録した報告書﹂という体裁で成り立っており、学術的あるいは理論的な世界観、国家的危機の際に発動される政治・軍事プログラムの厳格性を全面に出し、架空の科学理論︵宇宙線の影響下での、成層圏での、驚異的な生命進化など︶/写真/図︵電算機出力のダイアグラムや軍事通信フォーマット︶などの具体的資料を用いている。
﹁SFファンは︵クライトンに︶希望を持ってよい︵﹃ニューズウィーク﹄誌︶﹂や﹁サイエンス・フィクションにおけるひとつの完成された形︵﹃ライフ﹄誌︶﹂という賞賛がある一方、科学技術上のリアリティーに較べて人間的興味が薄い、テーマが古臭い、結果がおざなりである、という批判も存在する。ただしニューヨーク・タイムズ紙は、そのような点も包括した上でこの作品を評価している。また、ワイルドファイア研究施設への入構時の、何重にも渡る厳格な﹁防疫・滅菌手続き﹂は、﹃サタデイ・レビュー﹄誌でジョン・リアが、当時進行中だったアポロ計画の隔離検疫手順の不備を引き合いに出して論評を行っている[1]。
英語版の初版では、通常の書籍スタイルでの出版ではなく、レポートをバインダーでとじる形での装丁がなされていた。これは、本作が、政府の秘密レポートという様式で記述されており、その記述スタイルにリアリティを与えるための演出であった。しかしながら、この装丁はコストがかかることから、日本語版ではこのスタイルでの商業出版物は存在しない。
なお、物語のラストに核自爆装置が作動する際の、女性の声による﹁シークエンス進行・カウントダウン﹂は、映画﹃エイリアン﹄︵1979年︶に先駆けるアイデアだが、1964年に発表された小松左京のSF小説﹃復活の日﹄よりは時期が遅い。
ストーリー
﹁宇宙空間の微生物を回収し、新しい生物兵器を作り出す﹂ことを目的とした人工衛星﹁スクープ7号﹂がアメリカのアリゾナ州のピードモントという、砂漠の中の小さな町に着陸した。車両を使った回収部隊が予定通りピードモントに向かったが、町は全く沈黙しており、車上からはひと気が全く認められなかった。だが、誰かがいるという報告があった直後、回収部隊からの連絡は途絶えてしまった。スクープ衛星の司令部は軍用偵察機を発進させてピードモントを空中から撮影し、町の住人及び回収部隊が︵1人を除いて︶死滅している事を確認した︵ただし家屋内にもう1人生存者がいた︶。事態を重視した計画責任者のマンチェック少佐は、ワイルドファイア警報の発令を上申した。
ワイルドファイアとは、﹁地球外生物がもたらされた場合、その生物を調査・分析して地球上での伝播を防ぐ﹂ということを目的とした計画及びその実行機関の名称であり、研究施設はネヴァダ州フラットロックにある農業試験場の地下に建造されていた。地上とは完全に隔離されている上、万が一その生物が流出するような事態が起こった場合に備えて自爆用の核爆発装置まで設置されていた。
翌日、このワイルドファイア計画の発案者であり責任者でもある細菌学者のジェレミー・ストーン博士が、チャールズ・バートン博士を伴い、気密服を着てピードモントを調査した。ピードモントの住人は、全身の血液が凝固するという謎の症状によって死亡しているか、または奇怪な自殺をしていた。そうした異常事態の中、2人は町を探索してスクープ衛星が町の医師の元に運び込まれていることを突き止めた。衛星はその医師によって強引に蓋が開けられており、それがこの異常事態を引き起こしたらしい、と2人は推察した。中にまだ﹁何か﹂が残っていることを願いつつ2人は衛星を回収したが、その過程で生存者が2人見つかった。ひとりは偵察機の画像に写っていた胃潰瘍を患った飲酒家の老人で、もうひとりは健康的に何ら問題が認められない生後2カ月の乳児だった。健康状態が全く異なる2人が生き残ったことで、原因追求は困難を極めることとなる。︵最終的に、アンドロメダ菌株は狭いpH領域内でのみ生存/増殖する事が判明した。これに対して乳児は過呼吸によるアルカリ血症、老人はアルコールの過摂取による酸血症を持っており、この条件からは逸脱していた為に生存していた。ただし、この2名の症状が正反対のものであった為、なかなか生存条件が判明しなかった。︶
ストーンとバートンは2人を収容してワイルドファイア研究所に向かいつつ、核爆発によるピードモントの﹁焼灼︵しょうしゃく︶﹂を要請した。だが、政府は核を使用することの重大性を考慮してその要請を一旦留め、代わりに州兵を展開して当該地域の封鎖を行った。しかしその連絡は、通信機の機能不全により、ワイルドファイア研究チームに届くのが遅れてしまった。
さまざまな思惑が絡み合いつつも、入院中のカーク博士を除く4人の研究員がワイルドファイア研究所に集結した。彼らは、後に﹁アンドロメダ菌株﹂と名付けられることになる未知の微生物を衛星内部で発見し、調査研究を開始、同時に2名の﹁患者﹂のみが生存できた理由を探し始めた。だが、彼らの努力にも関わらず成果はなかなか上がらない。そして、状況を打破する決断の末に病原体の特性が判明した時、彼らは予想もしなかった危機を自ら招いていることに気づく。
主な登場人物
ジェレミー・ストーン博士
ワイルドファイア計画のメンバーでリーダー。カリフォルニア大学細菌学科長。ノーベル賞受賞者。ワイルドファイア計画の発案者でもある。
マーク・ホール博士
ワイルドファイア計画のメンバー。優秀な外科医だが、メンバーに選ばれたのは﹁他の理由﹂による。
ピーター・レヴィット博士
ワイルドファイア計画のメンバー。有名な臨床微生物学者。
チャールズ・バートン博士
ワイルドファイア計画のメンバー。病理学者。ベイラー大学医学部教授。
クリスチャン・カーク博士
ワイルドファイア計画のメンバーだったが、入院中で参加できなかった。人類学者。エール大学教授。
ピーター・ジャクスン
ピードモントの生き残りの一人。胃潰瘍を患う老人。
ジェミー・リッター
もうひとりのピードモントの生き残り。診察した限りではまったく正常な赤ん坊。
アーサー・マンチェック少佐
スクープ計画の最高責任者。ワイルドファイア警報の発令を提案した。
ロバートスン博士
大統領の科学諮問委員長。
オッドマン仮説
作品内で登場した架空の理論。任意の研究/作業等を行うグループを編成するときに、専門外の人間を1人加えることによって、より効果的な結果が得られるというもの。その専門外の人間をオッドマン︵半端者︶と呼称している。
本作では、この仮説のひとつである﹁男性の独身者が核制御の意思決定に向いている﹂という調査結果を支持した政府の上層部が、施設の核自爆装置の制御を民間人に託す代わりに、そのメンバーを男性の独身者とするよう条件に挙げたことになっている。当初、ワイルドファイア側は、細菌の研究に必要な内科医からメンバーを選ぶことを希望していたが、全ての条件を満たす独身男性の内科医がいなかったことから、やむなく外科医のホールを選んだ。
参考文献
- マイケル・クライトン『アンドロメダ病原体』 浅倉久志訳、ハヤカワ文庫SF、1976年 ISBN 4150102082
- 映画『アンドロメダ…』 レーザーディスク版 PILF-1658
脚注
- ^ 本作早川書房版・訳者あとがきより。