副反応
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副反応︵ふくはんのう︶とは、ワクチン接種が原因で起きた健康上の問題であり、ワクチン接種後に起きた有害事象の中で因果関係の証明されたもののみを指す[1][2]。因果関係を証明するためには、ワクチンを接種しなかった人々との﹁比較﹂や﹁科学的メカニズムの確認﹂などの調査を行い、総合的に判断する必要がある[1]。日本では通常、ワクチン以外の医薬品に対しては副作用という言葉が使われるが[3][4]、英語圏ではワクチンも治療薬も同じ語﹁adverse drug reaction︵ADR︶﹂または﹁adverse drug effect﹂を使う[5][6]。
ワクチンによるアナフィラキシーや脳炎などの重篤な副反応は非常にまれであり、ほとんどの副反応は腫れや発熱などの軽微なものである[7]。重篤な事象が一般的であるという考えは、WHOによって ﹁予防接種に関する一般的な誤解﹂ に分類されている[8]。
有害事象︵副反応疑い、vaccine adverse event 、VAE︶とは、ワクチン接種後に起きたあらゆる健康上好ましくない出来事を含む[9]。ワクチン接種後に起きたという﹁前後関係﹂さえ満たせば、﹁因果関係﹂の有無は問わずに報告されるため、ワクチンとは無関係のものも含まれる[1][2]。治験では起きなかった低い頻度の副反応を見つけるため、医師は幅広く﹁有害事象﹂を報告し[10][11]、その中から真の副反応の可能性があるものの因果関係を調査する[1][2]。厚生労働省は透明性の向上等のため、報告のあったすべての有害事象を公表している[12]。
世界保健機関︵WHO︶は、有害事象を﹁Adverse Events Following Immunization︵AEFI、ワクチン接種後の有害事象︶﹂と呼んでいる[13][14]。AEFIは、5つのカテゴリー﹁1.ワクチンの成分に関連した反応﹂﹁2.製造の品質に関連した反応﹂﹁3.接種のミスによる反応﹂﹁4.接種に対する恐怖心による反応︵血管迷走神経性失神など︶﹂﹁5.偶発的事象︵接種とは無関係に発生︶﹂に分類される[15][13][16]。
20世紀後半に、アメリカではワクチン傷害を主張する訴訟が行われるようになった[17]。多くの公衆衛生関係者が傷害の主張には根拠がないとするにもかかわらず、ある家族は同情的な陪審員により多額の賠償金を獲得した[17]。これに対して、いくつかのワクチンメーカーは生産を止め、公衆衛生が脅かされたため、ワクチン障害の訴えから生じる責任からメーカーを保護する法律が作られた[17]。日本には1976年の予防接種法の改正により、万が一の副反応に対する国による救済制度が設けられている[18][19]。
1948年の京都・島根ジフテリア予防接種事件は、予防接種制度による品質保証が不十分なため、戦後の薬害事件1号となり、世界最大の予防接種事故となった[20]。1970年の種痘ワクチンは雑菌で汚染されたワクチンによる被害[21][22]、1989年の新三種混合ワクチン︵MMRワクチン︶は製造法が無許可に変更されたことによる被害[10][23]、2005年のマウス脳を使用した旧日本脳炎ワクチンでは重篤な症状が生じていることが報告され、接種中止やワクチンの改良が行われた[9][24]。
子宮頸がんワクチン︵HPVワクチン︶は重篤な副反応は増加しないことが知られており、世界的には接種が進められている[25]。しかし、日本では因果関係が不明な副反応が報道された結果、2013年に厚生労働省は積極的接種勧告を中止し、接種者が激減した[26][27]。
「ヒトパピローマウイルスワクチン#副反応」も参照
有害事象
あらゆるワクチンには副反応のリスクがあるが、ほとんどの副反応は軽微で、主に腕の痛みや微熱などである[28]。他のほとんどの医学的介入と異なりワクチンは健康な人に投与されるため、より高い安全基準が要求されている[29]。そのため、予防接種の安全性については、科学界で非常に重要視されており、有害事象のパターンを探すために、常に多くのデータソースを監視している[30]。
予防接種プログラムの成功率が上がり、病気の発生率が低下するにつれて、人々の関心は病気のリスクからワクチン接種のリスクへと移行する[31]。予防接種の安全性に関する懸念は、しばしばあるパターンに従う[31]。まず、一部の研究者が、有病率の増加や原因不明の病状が、ワクチン接種の副反応によるものであることを示唆する[31]。最初の研究や同じ研究者によるその後の研究は、不適切な方法論――典型的には不適切な対照群との比較がなされた、または対照群との比較がなされていない症例の集積――が用いられている[31]。副反応があるとされる発表が時期尚早に行われることで、その症状を持つ人々の共感を呼び、ワクチンを接種しないことの潜在的な害を過小評価する[31]。この最初の研究は、他の研究者が行う追試で再現されることはない[31]。最終的に、人々がワクチンに対する信頼を取り戻すまでには数年かかることになる[31]。
反ワクチン活動家のウェブサイトは、ワクチンによる重篤な副反応のリスクを大幅に誇張し、自閉症 や揺さぶられっ子症候群などの状態をワクチンによる傷害と偽って記述し[32][33][34]、ワクチンの安全性と有効性に関する誤解を招いている[35][36]。
カナダ、ドイツ、日本、米国を含む多くの国は、ワクチンに関連する副反応を報告するための特定な要件が設けられており、オーストラリア、フランス、イギリスを含む他の国々は、治療に関連する傷害を報告するための一般的な要件にワクチンを含めている[37]。多くの国で、ワクチン接種が原因とされる傷害の補償制度が実施されている[37]。
副反応の収集体制
因果関係の不明な場合も報告は重要であり、ロタウイルスワクチンは、1998年にアメリカで承認された後に、初期の臨床試験では検出不能であった腸重積症︵腸閉塞︶の因果関係が翌年には判明した[38]。 ワクチンによる低い頻度の副反応の発生は避けられず、開発段階や治験で全体像が掴みにくいため、接種開始後の迅速な情報収集と評価が重要となる[10]。副反応と思わしき重大な事象は因果関係が明確でなくても届けられる[39]。このため、無関係な発熱なども紛れ込む[9]。厚生労働省の予防接種後副反応報告書は、予防接種後に一定の基準(報告基準)に合致する症状が出現した際に、因果関係にかかわらず報告するよう求めている[40]。厚生労働省の予防接種後副反応報告書集計報告の制度では、副反応報告基準の範囲外であってもすべての報告を単純集計した数字が発表されるため、実際には予防接種と無関係の紛れ込み事象が含まれている[41]。副反応の発生機序
ウイルスまたは細菌の感染によるもの
生ワクチンでは、弱毒化した細菌またはウイルスそのものを被接種者に投与する。この細菌またはウイルスが被接種者に感染することにより、液性免疫および細胞性免疫の双方を惹起することができるのが生ワクチンの特徴である。 生ワクチンの細菌またはウイルスに感染してもほとんど症状は出ない場合が、稀に感染に伴って症状が出現する場合がある。これらの症状がワクチンの副反応として報告される。 ●麻疹ワクチンをはじめ、生ワクチンウイルスによる発熱はしばしば(1-3割)みられる。 ●麻疹ワクチンでは発疹がみられることもある。 ●BCG接種では、接種局所の腫脹・水疱形成・痂皮化が必発(これらが発生しない場合、結核菌に対する細胞性免疫も惹起されず、ツベルクリン検査が陽転しない可能性がある)であるほか、所属リンパ節の腫脹がときにみられる。免疫不全者などに接種すると、発疹や播種性感染症などの重篤な副反応を呈する危険がある。感染によらない免疫学的機序によるもの
ワクチンとして接種されたウイルス・細菌の構成成分、あるいは含まれる不純物に対する免疫反応が副反応の原因となることもある。これらの症状は生ワクチンのみならず、不活化ワクチンやコンポーネントワクチンでもみられる。
●接種局所の腫脹・発赤は、特に三種混合ワクチンやインフルエンザワクチンでよく知られている、一種のアレルギー反応である。菌体成分・ウイルス成分のほか、免疫を有効に賦活させるために添加されているアルミン酸塩に対するアレルギーも原因となりうる。
●インフルエンザワクチンは精製の過程で卵を使用しているため、重度の卵アレルギー患者にはアナフィラキシーショックを発症させる可能性があり、卵アレルギー患者は接種要注意者とされている。
●ワクチンの構成成分に対する抗体が形成された際に、それらの抗体が患者の組織に対して交叉反応を示すことがある。ワクチン接種に伴うギランバレー症候群や急性散在性脳脊髄炎はこの機序によって起こると考えられている。インフルエンザワクチンによるギランバレー症候群、日本脳炎ワクチンによる急性散在性脳脊髄炎がよく知られている。
救済制度
「予防接種#予防接種健康被害救済制度」も参照
日本の医療制度の上では、重症の副反応は﹁定期接種﹂に指定されているものは日本国政府が補償し、そうでない場合には医薬品医療機器総合機構 (PMDA) で審査され救済される[39]。
従来、予防接種による被害の救済を受けるには、相当の年月と資金を要した[18]。1964年のインフルエンザワクチンにおける訴訟は、1980年代から1990年代まで持ち込まれた[要出典]。1970年6月の東京都下での種痘の副反応︵後述︶による種痘渦事件は社会的関心を引き、7月31日の閣議了解によって救済制度を創設するまでは、閣議了解によって救済が実施されるようになり、続く訴訟によって1976年に予防接種法が改正され救済制度が設立された[18]。さらに、予防接種事故審査会、予防接種制度部会が発足した[42]。
アメリカ合衆国連邦政府の﹃ワクチン傷害補償プログラム︵VICP︶﹄は、1988年以来2018年までの約30年間において、約6,000人に対して総額38億ドルを支払っている[43]。
薬害などとして知られる社会的問題となった事例
●1948年 - ジフテリアは、予防接種が制度化された直後、品質保証のための検定制度が機能しておらず、毒素が不活性となっていないワクチンが用いられ、84人が死亡し、854人に後遺症が残り、戦後の薬害事件1号となり、世界最大の予防接種事故となった[20]。 ●1970年 - 種痘渦事件[18]。種痘ワクチンでは、当時、種痘合併症と呼ばれた種痘後脳炎が死因統計に検出され、解析すると高頻度だと判明し、補償要求運動としての種痘禍騒ぎが起こり、後に弱毒性のワクチンが開発された[21]。 ●1975年 - 三種混合ワクチン︵DPTワクチン︶の接種がしばらく中止となった。 ●1989年 - MMRワクチン薬害事件と呼ばれ、同年始まった新三種混合ワクチンの発熱、嘔吐、痙攣のある無菌性髄膜炎が発生し、1993年より日本でのMMRワクチン製造はなくなった[10]。 ●2005年 - 日本脳炎ワクチンは脳脊髄炎の発生のため、2005年に積極的な推奨が中止された[9]。ワクチン製造の過程でネズミの脳組織を使用しているために、わずかに混入した脳組織に対する抗体が被接種者の中枢神経組織を攻撃して起こると考えられている。このため、vero細胞(アフリカミドリザル腎臓由来株化細胞)を用いた新型ワクチンが開発され、2009年からこのワクチンが接種されている。係争中の事例
ヒトパピローマウイルスワクチン
「ヒトパピローマウイルスワクチン」も参照
日本では、2013年、ヒトパピローマウイルスワクチン︵HPVワクチン︶の積極的な推奨が中止され、2016年には薬害があるとして保証を求める集団訴訟が起こされた[44]。2021年現在[update]、係争が続いている[44]。
副反応が疑われた事例
MMRワクチン
「新三種混合ワクチン」も参照
有名なものはMMR︵はしか・流行性耳下腺炎・風疹︶ワクチンで、1998年に﹃ランセット﹄に掲載された論文が、接種によって自閉症になるとして発表され、懸念が広まった[45][46]。接種の差し控えが広がったために、麻疹に感染する子供が増加し問題となった。MMRワクチンによって自閉症になったとして訴訟も起こったが、巨額の費用を投入して実施された調査では、MMRワクチンと自閉症には因果関係が認められなかった[45][47]。結局きっかけとなった論文が捏造であることが発覚し、2010年に論文は撤回され[45]、発表を行った医師は医師免許を剥奪された[48]。世間が論文に騙されたのは、自閉症という疾患が当時それほど認知されていなかった事が原因とされる[45]。
百日咳ワクチン
また1970-80年代には、百日咳ワクチンの接種に対する否定的な報道が世界中のマスコミで行われ、日本、スウェーデン、イギリス、ソビエト社会主義共和国連邦などで接種率が低下した[49]。日本でも国の予防接種事故救済制度が発足する一方で、厚生省は1975年に乳児への百日咳ワクチン接種を中止し、百日咳ワクチンを含むワクチンの接種開始年齢を2歳以上に引き上げる対応を行ってしまう[50]。その結果1979年をピークとする百日咳の流行が起きてしまうが[50][49]、厚生省が百日咳ワクチンの接種開始年齢を3か月からに訂正したのは、14年後の1989年になってからであった[50]。1981年ごろより感染者数が減少に転じるもの、1970年代前半のレベルに戻ったのは、接種中止から20年後の1995年であった[50]。出典
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関連項目
- 反ワクチン
- 子宮頸がんワクチン
- インフルエンザワクチン#安全性
- ワクチン接種に関する誤情報 (英語版)
- ランセットMMR自閉症詐欺(英語版)
外部リンク
- そのワクチン情報、どう読み解く? 「有害事象(副反応疑い)」と「副反応」の違い - 厚生労働省
- これは本当ですか? 新型コロナワクチンQ&A - 厚生労働省
- 厚生科学審議会 (予防接種・ワクチン分科会 副反応検討部会) - 厚生労働省
- 新型コロナワクチンの接種後の健康状況調査 - 厚生労働省
- 予防接種の副反応、有害事象、副作用それぞれの違いについて - みんパピ!
- HPVワクチン - BuzzFeed
- 「新型コロナワクチン~子どもならびに子どもに接する成人への接種に対する考え方~」に関するQ&A - 日本小児科学会
- 新型コロナワクチンQ&A 小児接種(5~11歳) - 厚生労働省