古史古伝

古史古伝︵こしこでん︶とは、日本の古代史で主要資料とされている﹁記紀︵﹃古事記﹄と﹃日本書紀﹄︶﹂とは著しく異なる内容歴史を伝えると称する一連の文献のこと。

超古代文明について言及されていたり、漢字伝来以前に日本にあったと言われている神代文字で綴られていたり、近代以降の用語が使用されており、古代からの伝来でない可能性が非常に高く、かつ写本自体を私有し公開されないため文献批判がなされていないため史料たりえず、古代における歴史学的な価値は極めて低いと考えられている。

現在では、近代における日本人の国家観・民族観への受容等のあらわれとして、写本作成を行う者の思想に対する研究が始まったところである。

定義

由来

戦前には﹁神代史﹂﹁太古史﹂など言われ、戦後︵70年代頃まで︶には吾郷清彦が﹁超古代文書﹂と呼んでいた。また同じ頃、武田崇元︵武内裕︶は﹁偽書﹂﹁偽史﹂﹁偽典﹂などといっていたが、﹁偽書﹂﹁偽典﹂は用語として別に確立したものがあり紛らわしいので、やがて﹁偽史﹂という言い方に統一されていった。﹁古史古伝﹂という言い方は、吾郷清彦が1972年の著書﹃古事記以前の書﹄ (大陸書房) で最初に提唱したものだとされているが、初期の頃の吾郷清彦は﹁超古代文書﹂という言い方を好み、﹁古史古伝﹂とは言わなかった。あくまで分類上の用語として古伝四書とか古史四書といっていたにすぎない。80年代以降、佐治芳彦がこれをくっつけて﹁古史古伝﹂と言い出したのが始まりである。

下記の分類は基本は吾郷清彦1972年によるが、その後、他の文献写本が発見されるに従って吾郷清彦自身によって徐々に改訂が繰り返され増殖していった。

古典三書

●﹃古事記﹄﹃日本書紀﹄﹃先代旧事本紀﹄︵旧事紀︶が古典三書、
●古典三書に﹃古語拾遺﹄を加えて古典四書

ただし、﹃先代旧事本紀﹄は近年においては偽書であるとの評価が一般的である。

古伝三書

●﹃ウエツフミ﹄

●﹃秀真伝︵ホツマツタエ︶﹄

●﹃ミカサフミ﹄

のちに﹃カタカムナのウタヒ﹄︵いわゆる﹁カタカムナ﹂︶を加え﹁古伝四書﹂。﹁古伝四書﹂は全文が神代文字で書かれているという外見上の体裁による分類であって、内容に基づく分類ではない。

古史三書

●﹃九鬼神伝精史﹄︵いわゆる﹁九鬼文書﹄。﹃天津鞴韜秘文﹄︵あまつたたらのひふみ︶は九鬼文書群の一部である︶

●﹃竹内太古史﹄︵いわゆる﹁竹内文献﹂︶

●﹃富士高天原朝史﹄︵いわゆる﹁富士谷文書﹂﹁宮下文書﹂﹁富士宮下古文献﹂︶

のちに﹃物部秘史﹄︵いわゆる﹁物部文書﹂︶を加え﹁古史四書﹂。﹁古史四書﹂は神代文字をも伝えているものの漢字のみまたは漢字仮名まじり文で書かれ、全体のタイトルがないもの。やはり内容による分類ではない。上記の四つのタイトル︵九鬼神伝精史・竹内太古史・富士高天原朝史・物部秘史︶は、吾郷清彦が独自に名付けたものである。

古史古伝と同様に扱われるもの

異録四書

●﹃東日流外三郡誌﹄︵つがるそとさんぐんし︶

●﹃但馬故事記﹄︵たじまこじき︶

●﹃忍日伝天孫記﹄︵おしひのつたえてんそんき︶

●﹃神道原典﹄︵しんとうげんてん︶

﹃忍日伝天孫記﹄と﹃神道原典﹄は古文書・古文献ではなく、自動書記もしくは霊界往来による霊感の書である。それゆえ、のちに﹁異録四書﹂と﹁霊示四書﹂に分割され、﹁異録四書﹂は﹃東日流外三郡誌﹄﹃但馬故事記﹄﹃甲斐古蹟考﹄﹃美社神字録﹄、﹁霊示四書﹂は﹃忍日伝天孫記﹄﹃神道原典﹄﹃神霊正典﹄﹃泥海古記﹄︵どろうみこき︶とする計画だったという。

東亜四書

●﹃契丹古伝﹄

●﹃桓檀古記﹄

●﹃香山宝巻﹄

●﹃宝巻変文類﹄

構想段階では﹃香山宝巻﹄﹃宝巻変文類﹄がなく﹃竹書紀年﹄﹃穆天子伝﹄だったが、後の著作では﹃竹書紀年﹄﹃穆天子伝﹄をはずし﹃香山宝巻﹄﹃宝巻変文類﹄を入れた形で発表されている。

吾郷清彦による分類の発展

その後、続々と発見される超古代文書の増加にしたがって、吾郷清彦はその著作のたびに分類を増やしていった。上述の異録四書・霊示四書・東亜四書がそれである。また﹃春日文書﹄﹃天地廻え抽きの極典﹄﹃言霊百神﹄などをまとめて﹁言霊四書﹂としたり、さらに晩年には﹁太占四書﹂﹁神字四書﹂﹁泰西四書﹂なども選定しようと意欲的に検討中であった。

その他

●﹃上代天皇紀﹄

●﹃阿蘇幣立神社文書﹄︵﹁高天原動乱の秘録﹂ともいう︶

●﹃南淵書﹄

●﹃霊界物語﹄︵←これは古文献ではないが前述の霊示四書と同様のものと吾郷清彦はみていた︶

●旧事紀の異本︵﹃先代旧事本紀大成経﹄﹃白河本旧事紀﹄︶

●﹃天書﹄︵﹃天書紀﹄ともいう︶

●﹃日本国総風土記﹄

幻の超古代文書

これらの他にも﹃大伴文書﹄﹃安倍文書﹄﹃斎部文書﹄﹃清原文書﹄﹃久米文書﹄などがあるともいわれるが、噂の域をでず詳細不明であり、実在しない可能性が高い。

参考文献

• 吾郷清彦 『日本超古代秘史研究原典 (愛蔵保存版)』 ISBN 440402472X
• 別冊歴史読本編集部編 『古史古伝の謎』 ISBN 4404024010
  • 事実上、同編 『「古史古伝」論争』の再編版
• 別冊歴史読本編集部編 『危険な歴史書「古史古伝」―“偽書”と“超古代史”の妖しい魔力に迫る！』 ISBN 4404027540
• 別冊歴史読本編集部編 『徹底検証 古史古伝と偽書の謎』 ISBN 4404030770
• 藤原明『日本の偽書』ISBN 4166603795

関連項目

• 大本
• 新宗教

外部リンク

• 『解読　上紀』田中勝也