「志願制度」の版間の差分
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[[Image:Kitchener-leete.jpg|thumbnail|right|250px|[[第一次世界大戦]]時の[[イギリス]]における[[キッチナーの募兵ポスター]]、『[[ブリトン人|英国民]]たちよ、([[国家]]は)君を必要としている』。当時イギリスでは[[徴兵制]]は敷かれていなかった。]] |
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'''志願兵'''︵しがんへい︶は、職業軍人︵[[士官]]、専門職︶や[[徴兵制度|徴兵]]による召集ではなく、自ら進んで正規軍に加入した[[兵士]]のこと。英語ではVolunteerだが、日本語の[[ボランティア]]では非軍事的な志願者に限定される。
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'''志願制度'''︵しがんせいど︶または'''募兵'''︵ぼへい︶は、強制[[徴兵]]せずに[[志願]]者達だけで[[軍隊]]を維持する[[兵役]]制度である。[[英語]]では﹁オール・ボランティア・ミリタリー・システム︵{{en|All volunteer military system}}︶﹂と呼ぶ。[[国民]]に軍務に服する[[義務]]を課す[[徴兵制度]]に対し、それをせず当人の[[自由意思]]に任せる制度である。[[アメリカ合衆国]]、[[イギリス]]、[[カナダ]]、[[ドイツ]]、[[インド]]などがその例である。主に[[個人]]の[[自由]]が最高の[[権利]]と考える[[自由主義|自由主義者]]や[[反軍国主義|反軍国主義者]]が支持する兵役制度である。
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==概要== |
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==志願兵制と徴兵制== |
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国民[[国家]]の成立とともに[[徴兵]]制が誕生し普及したため、それ以外の制度が区別上[[志願]]制と呼ばれる。徴兵制の国家にも、自らの意志で入隊する'''志願兵'''は存在するが、志願制とは区別される。 |
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まず、志願兵制がどのような状況で採用されるのか理解するには、徴兵制が何故採用されるのかを理解する必要がある。 |
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[[20世紀]]後半から[[2010年代]]にかけて、現状にそぐわなくなった徴兵制が廃止・縮小され志願制に復帰する国家が増え続けている。詳しくは[[徴兵制度#徴兵制度の歴史]]及び[[徴兵制度#徴兵制度の問題]]を参照。 |
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徴兵制は仮想敵国の兵力や地政学的条件から推計される必要な兵力が、自国の人口に比べ大きい場合に採用されることが多いものである。例えば[[中華民国]]は[[先進国]]であるが、政治的、地勢的な事情により世界最大規模の軍隊である中国共産党が率いる[[中国人民解放軍]]と対峙している環境にある。これに対抗して祖国防衛に必要な兵力を整えようとすれば、二千万の人口に比べて余りに大きいものとなる。[[傭兵]]により不足する戦力を補う方法も考えられるが、現在では傭兵による戦力整備が国際法で禁止されているため、徴兵制を採用することになるのである。
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一方で、2016年9月に[[スウェーデン]]が、2010年に廃止した徴兵制を復活させると発表するなど、志願制から徴兵制に移行を目指す国家もある。スウェーデンの専門家は、志願制では[[兵士]]の質や量を確保することが出来ないとしている<ref>{{cite news |title=スウェーデン、8年前廃止の徴兵制復活へ 2018年から |newspaper=[[フランス通信社|AFPBB News]] |date=2016-9-30 |url=https://www.afpbb.com/articles/-/3102636 |accessdate=2016-12-23}}</ref><ref>{{cite news |title=徴兵制、復活へ=スウェーデン |newspaper=[[時事通信社]] |date=2016-10-2 |url=http://www.jiji.com/jc/article?k=2016100200016&g=int | accessdate=2016-12-23}}</ref>。
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また、主戦場が陸地になりえる︵つまり、仮想敵国と陸地でつながっている︶国家も徴兵制を採用しやすい。高度に機械化された現代の海軍・空軍では、徴兵制で集められせいぜい1年程度の訓練しか受けていない非職業軍人はまったく役に立たない。しかし、陸戦ならば銃を持たせることで一定の兵力として期待できる。[[スイス]]、[[韓国]]などがあてはまる。
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==大日本帝国の志願兵の服役== |
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無論、例外もあり、その必要性よりも[[国民皆兵]]の理念から徴兵制を採用する国家がある一方、政治的理由から志願兵制を採用している国家もある。 |
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* [[大日本帝国陸軍]] - 3種ある。 |
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** 現役志願兵 - 年齢17年以上徴兵適齢未満のもので、現役であることを志願するもの。2年在営させ、その現役は一般の現役兵として徴集されたものと同じ。ただし輜重兵、特務兵および補助看護兵は採用しない。
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** 憲兵上等兵および楽手補 - 兵役は現役、予備役、後備役とし、逐次これに服させる。その服役期間は現役は、憲兵は前服役期間を通算して4年、楽手補はこれを命じられた年の12月1日から起算して5年であるが、いずれも志願によって延長することが出来る。予備役は現役を通算して7年4月、後備役は前服役を通算し17年4月である。ただし年齢40年に満ちる前に後備兵役を終ったものは第一国民兵役にあるものとみなされる。
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** 年齢40年を過ぎ志願により国民軍に編入された兵 - 当該期間第一国民兵にあるものとみなされる。 |
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* [[大日本帝国海軍]] |
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** 本人の志願により海軍志願兵令に基づいて採用され、全国から徴募するが、兵種は水兵、航空兵、機関兵、軍楽兵、看護兵、主計兵の6種で、年齢17年以上21年未満のものについて行なう。ただし掌電信兵を志願する水兵は15年以上19年未満、軍楽兵は16年以上20年未満。服役は現役5年、予備役4年および後備兵役5年とし、後備役を終ったもので、年齢40年未満のものは第一国民兵に服させる。 |
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現役定限年齢は35年とし、40年を服役の終期とする。 |
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なお、一般的に人口は多くとも、技術力や経済力が低い国では、徴兵制による大規模な陸軍で防衛しようとする傾向がある。 |
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朝鮮・台湾における志願兵制度については[[朝鮮人日本兵]]・[[台湾人日本兵]]をそれぞれ参照。 |
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==志願兵制と服務規律等== |
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一部において「志願兵は徴兵制によって召集した兵士に比べて遥かに士気が高く、規律正しい優秀な軍隊である」と称える者がいる。しかし、これは全てに当てはまるとは言いがたい。国民皆兵の理念の元に徴兵制によって編成された近代的国民軍の方が士気が高く、規律正しいことも少なくない。 |
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== 脚注 == |
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実際、[[第二次世界大戦]]中の各国は元より、[[冷戦]]下における[[フランス]]、[[ドイツ]]をはじめとした陸軍国、[[スイス]]、[[スウェーデン]]と言った[[中立国]]、[[アメリカ軍]]を打ち破った[[北ベトナム]]軍、三倍から十倍もの圧倒的大兵力を誇るアラブ連合軍に幾度となく大勝をおさめた[[イスラエル]]国防軍のことを「士気が低い」、「規律が乱れている」、「無能である」などと誹謗中傷する者は少数派であろう。 |
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顕著な例を掲げれば、[[満州事変]]において四十万もの志願兵によって構成された五大満州軍閥は、わずか一万の徴兵制による日本軍に蹴散らされている。 |
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* [[反軍国主義]] |
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* [[ボランティア]] |
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* [[リクルーター (アメリカ軍)]] |
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* [[義勇兵]] |
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* [[ANZAC]] |
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{{Normdaten}} |
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このように軍の強弱はその国の社会の成熟度の影響の方が遥かに大きいと言えよう。 |
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[[Category:兵役]] |
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==志願兵制の闇== |
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一部の[[発展途上国]]における軍隊では、本来なら広く国民一般から募集すべきところを利権と政治的なしがらみによって有力者が志願兵と称して兵員をかき集め、その有力者の[[ミリシア|私兵]]となっている例が見られ、有力政治家との[[コネ]]が無ければ入営できないなどということもある。 |
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[[Category:自由主義]] |
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このような集団は、腐敗と堕落の温床となることが多く、隊内では薬物が蔓延したり[[私刑]]が発生したりし、隊外においては民間人に対して[[暴行]]や武装[[強盗]]を働くなど[[犯罪]]の巣窟になることもある。また、有力者の威光によって犯罪者を罰することができない場合は、ことさら酷い状況になる。 |
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このように腐敗と堕落の温床となって、完全に服務規律が乱れ、士気が最低まで下がった政府軍を抱えた国家で[[内戦]]が勃発した場合、本当の意味での志願兵で構成された反政府軍に太刀打ちできないこともあり、[[鉱山]]資源の取り引きや薬物売買などで資金に余裕がある場合は「現代の傭兵」とも言える[[民間軍事会社]]に助けを求めるに至り、暗躍を許す状況を生み出す土壌となっている。 |
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また、服務規律と士気が保たれている場合には、その有力者の指示で政権乗っ取りを画策した[[クーデター]]が発生する場合がある。 |
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いずれにしてもこのような状況は、政情不安をもたらす一因である。 |
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==志願兵制の将来== |
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昨今では主に先進国で徴兵制が廃止される傾向が見られる。 |
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前提として、冷戦の終結により、戦争の危険性が薄まり、緊急に大規模の兵力を必要としなくなり、徴兵制の必要性が薄まったことが挙げられる。また、付随する理由として以下のようなものがあげられる。
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*平時の徴兵制はせいぜい1~2年程度の訓練のみを行うだけであるため、複雑化・専門化した軍備に対応するのが難しい |
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*徴兵制は国家の金銭的負担が大きい |
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*徴兵制の縮小や撤廃を求める声が強く、政治がそれを反映した |
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また、徴兵制の議論は、専ら軍の視点のみに立って議論される傾向があるが、戦時における生産活動の維持を図ることも大きな理由の一つである。 |
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要するに戦争遂行能力の基本は経済力、生産能力であり、出征した戦闘部隊は、その何倍もの人数の市民による生産活動の支えがあって初めて活動が可能になるということである。 |
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事例として、第二次世界大戦時の日本は、戦時生産計画や兵站を軽視し、兵員の不足を無計画に召集令状を乱発して徴兵することにより補ったため、生産活動の基盤が破壊され、開戦から僅か4年足らずで経済が破綻して戦争継続不能に陥り、主権までも失う事態に至った。 |
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ただし、ドイツなど特別な理由で徴兵制を廃止できない国もある︵[[徴兵制]]を参照︶。また、スイスは周辺国すべてが友好国であるが、[[永世中立国]]であるため万が一戦争が起こった際に他国に助けを求めることができないことから徴兵制が継続されている。スウェーデンも自国の防衛を重視しており徴兵制を継続している。
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==志願兵制の歴史== |
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[[スペイン市民戦争]](スペイン内乱)では多くの文化人が自発的に戦争に参加し、その中には[[アーネスト・ヘミングウェー]](『[[誰がために鐘は鳴る]]』)や[[アンドレ・マルロー]](『希望』)、[[ジョージ・オーウェル]](『カタロニア賛歌』)などもいた。いずれもその体験をモチーフにした作品を残している。 |
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日本では[[1883年]]の改正[[徴兵令]]で17歳以上20歳未満の者に志願兵を認めた。[[大日本帝国海軍|海軍]]では専ら一般志願者及び同様の意味を持つ将校候補生育成を目的とした[[海軍兵学校 (日本)|海軍兵学校]]出身者から取るのを基本として、戦時及び深刻な人員不足時以外に徴兵が行われる事はなかった。一方、[[大日本帝国陸軍|陸軍]]では、[[予備役]]幹部育成の為に1年制の志願兵制度([[1927年]]以後は幹部候補生制度と改称)を中等学校卒業以上の高学歴者に対して認めて徴兵の代わりとすることを認めた(ただし、費用は志願者負担)。1927年の[[兵役法]]制定以後、[[少年兵]]制度が導入され、[[軍楽隊]]や通信・航空・機関・戦車などの特殊技術習得の為に14歳以上17歳未満の少年達を募集した。 |
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[[日中戦争]]の激化した[[1938年]]から[[朝鮮]]、[[1942年]]から[[台湾]]で陸軍特別志願兵制度が、1943年8月からは朝鮮・台湾で海軍特別志願兵制度が、1944年からは対象を[[高砂族]]に限った高砂特別志願兵が施行された。このうち台湾原住民の志願兵で構成された[[高砂義勇隊]]が有名である。 |
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[[1950年]]に始まった[[朝鮮戦争]]で[[中華人民共和国]]は[[中国人民志願軍]]を朝鮮に派遣したが、志願軍は中国本土への攻撃を避けるための名目で、実際には[[中国人民解放軍]]の正規部隊だった。しかもこの部隊には元国民党の兵士が多数おり、その背後に共産党の[[督戦隊]]が待ち構え、絶望的な突撃をさせるものであった。 |
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[[アメリカ軍]]ではベトナム戦争後に徴兵制が廃止され、志願制に移行したがスラム街に住む貧困世帯から軍が行う好待遇のキャッチコピーに惹かれて志願する兵士が後を絶たない。近年では多くの[[イスラム教徒]]志願兵が[[ソビエト連邦のアフガニスタン侵攻]]や[[ボスニア紛争]]でイスラム側に参加した。 |
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*[[ミリシア#「義勇兵」と解釈されるべきミリシア|ミリシア]] |
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[[Category:軍事|しかんへい]] |
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概要[編集]
国民国家の成立とともに徴兵制が誕生し普及したため、それ以外の制度が区別上志願制と呼ばれる。徴兵制の国家にも、自らの意志で入隊する志願兵は存在するが、志願制とは区別される。 20世紀後半から2010年代にかけて、現状にそぐわなくなった徴兵制が廃止・縮小され志願制に復帰する国家が増え続けている。詳しくは徴兵制度#徴兵制度の歴史及び徴兵制度#徴兵制度の問題を参照。 一方で、2016年9月にスウェーデンが、2010年に廃止した徴兵制を復活させると発表するなど、志願制から徴兵制に移行を目指す国家もある。スウェーデンの専門家は、志願制では兵士の質や量を確保することが出来ないとしている[1][2]。大日本帝国の志願兵の服役[編集]
●大日本帝国陸軍 - 3種ある。 ●現役志願兵 - 年齢17年以上徴兵適齢未満のもので、現役であることを志願するもの。2年在営させ、その現役は一般の現役兵として徴集されたものと同じ。ただし輜重兵、特務兵および補助看護兵は採用しない。 ●憲兵上等兵および楽手補 - 兵役は現役、予備役、後備役とし、逐次これに服させる。その服役期間は現役は、憲兵は前服役期間を通算して4年、楽手補はこれを命じられた年の12月1日から起算して5年であるが、いずれも志願によって延長することが出来る。予備役は現役を通算して7年4月、後備役は前服役を通算し17年4月である。ただし年齢40年に満ちる前に後備兵役を終ったものは第一国民兵役にあるものとみなされる。 ●年齢40年を過ぎ志願により国民軍に編入された兵 - 当該期間第一国民兵にあるものとみなされる。 ●大日本帝国海軍 ●本人の志願により海軍志願兵令に基づいて採用され、全国から徴募するが、兵種は水兵、航空兵、機関兵、軍楽兵、看護兵、主計兵の6種で、年齢17年以上21年未満のものについて行なう。ただし掌電信兵を志願する水兵は15年以上19年未満、軍楽兵は16年以上20年未満。服役は現役5年、予備役4年および後備兵役5年とし、後備役を終ったもので、年齢40年未満のものは第一国民兵に服させる。 現役定限年齢は35年とし、40年を服役の終期とする。 朝鮮・台湾における志願兵制度については朝鮮人日本兵・台湾人日本兵をそれぞれ参照。脚注[編集]
- ^ “スウェーデン、8年前廃止の徴兵制復活へ 2018年から”. AFPBB News. (2016年9月30日) 2016年12月23日閲覧。
- ^ “徴兵制、復活へ=スウェーデン”. 時事通信社. (2016年10月2日) 2016年12月23日閲覧。