思想家

思想家︵しそうか︶とは、広義には、自分の考えを︵文章として︶発表する人を全般的に指す。狭義には、とりわけ政治・社会の問題に関心が強い人を思想家と呼ぶ。

哲学者と思想家

哲学者︵てつがくしゃ︶は哲学という学問的方法論に基づき、存在や認識に対する強い疑問を解決するために自説を展開する。その思考は基本的に自己充足的であり︵知を政治・社会に還元することが第一の目的ではない︶、論理的な整合と内省を重んずる。デカルトは自らが提示した﹁暫定道徳﹂のうちで、﹁社会の秩序を変革するより、自らの秩序を変革する﹂旨の態度を定めている。

思想家の代表格はマルクスである。しかし、﹁マルクスを哲学者と見なす﹂といわれれば、必ずしも皆が賛成するわけではない。﹁フォイエルバッハに関するテーゼ﹂において、マルクスは﹁哲学者たちは世界を様々に解釈してきたにすぎない。重要なのは世界を変革することである﹂と宣言しているが、これが思想としてのマルクス主義の性格を如実に現している。

中島義道は、﹃哲学の教科書﹄の中で、日本における﹁哲学者﹂と見なされがちな知識人の大半を﹁思想家﹂に分類する。中島によれば、柄谷行人や浅田彰、今村仁司や丸山真男は全て思想家に分類されるべきである︵むろん、哲学者を自称していない人も多い︶。なぜなら、彼らは哲学というものを外側から見ており、自説の装置の一部として使用しているにすぎないからである。これはなにも、彼らが哲学者でないということでその思想の重要性を喪う、ということを意味しているわけではない。デカルトやカントのような﹁単に存在や認識が気にかかって仕方ない人﹂とは根本的に違う目的で思想を展開している、ということにすぎない。

思想家は学問の枠に囚われずに、より広い視野から自説を展開し執筆することが多い。ただ、時代や個人によって思想家と哲学者の境界は揺らぎ、一概に決めることができない。特にフランス現代思想ではその境界がほとんどなくなっている。ジャック・デリダやジル・ドゥルーズは哲学者であると同時に思想家でもあった。

19世紀後半から20世紀半ば頃まで、思想家は社会の木鐸として、あるいはイデオローグとして大きな力を持ったが、イデオロギーの退潮とともに、その影響力は低下している。

関連項目

• 思想家一覧
• 日本の哲学者