暗視装置
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![](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/a/a1/Night_vision.jpg/250px-Night_vision.jpg)
暗視装置︵あんしそうち、英: Night vision device、NVD; 暗視鏡とも︶は、夜間や暗所でも視界を確保するための装置。航空機用のものについてはANVIS︵英: Aviator's Night Vision Imaging System︶と略称される。
元々は軍事技術として開発・発展したものだが、1980年代後半から天文用としても注目された。自動車や監視カメラなど民生用にも応用され、玩具や双眼鏡のような日用品としても販売される。
概要
![](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/7/71/F16PilotNationalGuard.jpg/200px-F16PilotNationalGuard.jpg)
可視光線の波長の中間の色が緑色で、最も知覚しやすい色であるとされるため、暗視装置の画像は、たいていは緑色に調整されている。なお、赤外線にあるのは強弱であって、赤外線自体は可視光線ではないのでそれ自体に色はない。
もちろん可視光線と同様に、赤外線を周波数や波長ごとに分けて表示することは困難ではないが、普段の生活における目視の色の区別の感覚とはまったく異なるために、実用上まったく無意味である。
民生用に市販されているものに関しては、軍事目的に転用可能なため生産国の輸出制限など様々な制限がある。
原理的には、超音波や赤外線以外の電磁波を使って暗視装置を作ることも可能だが、後者に関してはレーダー画像衛星などは原理としては同じであるものの、いずれも実用性の面では困難である。
呼称/表記について
暗視装置はイメージ・インテンシファイア︵Image Intensifier、I.I.︶、ノクトビジョン︵Nocto Vision︶と表記/呼称されることもある。﹁nocto﹂とはラテン語で﹁夜﹂を意味する。また、﹁ナクトビジョン﹂という表記/呼称が使わることもあるが、これは、ドイツ語で﹁夜﹂を意味する﹁Nacht﹂︵ナハト︶を英語風の読みにしたもので、暗視装置を世界で初めて実用化したのがドイツであることから、単語が混用されて生まれたものである[要出典]︵ドイツ語で﹁暗視装置﹂を正しく表記/呼称する場合は﹁Nachtsichtgerät﹂ナハト・ズィヒト・ゲレート︶。
現代では﹁暗視装置﹂と呼称/表記されることが一般的であるが、時代の古い資料や書籍などでは﹁ノクトビジョン﹂﹁ナクトビジョン﹂の表記も多く見られる。
一般的な誤解
しばしばフィクションなどで強い光を浴びたり発光物を直視したりすると目が眩んでしまい動転する、機器の回路が焼き切れるという描写があるが、これは、黎明期に開発された旧式の物の特徴であり、現在使用されている物は一定値以上の増幅を遮断する保護回路が取り付けられている(一部の高級品では高度なフィルタリングにより発光物を直視しながらその周囲を見る事も可能)。そのため、このような事態が発生する事は故障以外では有り得ない。しかし、保護回路の無い旧式同然の粗製乱造品では十分起こり得る。[要出典]
可視近赤外 (VNIR) 帯域
暗視装置の登場以来、一貫して、可視光線と近赤外線(英語: Visible and Near Infrared, VNIR; 波長およそ0.3~1.4μm)を使用する機種が主流となってきた。
アクティブ方式
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第0世代と区分される、もっとも初期の暗視装置は、JEDEC番号でS-1型の分光感度特性を備えていた。すなわち、近紫外線から近赤外線におよぶ広い波長域に感度を示すものの、いずれも感度が低いものであった。このため、目標の像を捉えるためには、こちらから光線を照射して、反射光を増強する必要があった。可視光を照射しては暗視装置の意味がないため、照射光としては近赤外線が用いられる。
近赤外線は、人間の目では知覚できないものの、それ以外の点では、可視光線とほとんど変わらない特性を備える。従って、第0世代暗視装置の基本的な原理としては、通常の照明の代わりに近赤外線ライトで対象を照らしだして、その反射光を暗視装置で捉え、知覚できるように変換することになる。そのため、﹁照射装置﹂と﹁受像装置﹂の二組をセットで運用する必要があり、イメージ増幅管が高い電圧を必要とするために、動作電力源として重い積層バッテリーもセットで持ち歩かなければならなかった。仕組みとしては光学式のスコープに赤外線フィルターを付けただけのもので、バッテリーは赤外線ライトのためだと誤解されることがあるが、ライトの電源としてはそれほど大きなものが必要なわけではない。反射してきた赤外線を赤外線フィルター越しに見ても人間の目には見えない。赤外線フィルターはライトから可視光線が出ないようにするためのものである。
この種の暗視装置は、第二次世界大戦中にドイツ軍がパンター戦車搭載用として、世界で初めて実用化に成功した。また、個人用としては、大戦末期の1945年にドイツ軍が実用化した﹁ZG1229 Vampir︵ヴァンピール‥﹁チスイコウモリ﹂ないし﹁吸血鬼﹂の意︶﹂が最初のものである。これは、StG44に装着して使用されるアクティブ赤外線方式の暗視スコープであり、有効距離は100mほどしかなかった。後にアメリカ軍でもM3カービンとして同様の装置が実用化され、ベトナム戦争のころまで使用されていた。M3カービンは、銃を含めたシステム一式の重量が14kgもあり大変に重くてかさばる装備だった。重量の半分以上はバッテリーであるため、後年になるほどバッテリーの小型化による重量軽減が進むが、それでもかなり重い装備であることに変わりなかった。
このような暗視装置は赤外線ライトの出力によって視認距離が変わるため、ドイツ軍では装甲ハーフトラックに大型の赤外線照射灯を搭載した車両も作られた。﹁Sd Kfz 251/20 ウーフー︵Uhu‥ワシミミズクの意︶﹂と呼ばれたこの車両は、60cm口径の赤外線サーチライトを装備しており、1,500mの距離で目標を視認することが可能であった。
ただし、近赤外線は人の目には見えないものの、相手も同様の装置を持っている場合は相手に照射源が見えてしまう欠点があった︵光源が真っ白に浮かび上がって見えるので、ライトと保持者を狙撃で撃ち倒せばよい︶。1960年代にはソビエト連邦軍を初めとする共産圏でも同様の装備が出現し、また、光電子増倍管の技術進歩によって投光せずとも十分な像を得ることができるようになったことから、第0世代の暗視装置は徐々に退役していくことになった。
パッシブ方式
1960年代には、光電子増倍管の進歩に伴い、自然に存在する可視光を利用して像を生成することができるようになった。星や月の光を増幅して視界を得ることから微光暗視装置︵英語: Starlight scope︶と通称されており、ベトナム戦争から実戦投入が始まった。第0世代︵=アクティブ近赤外線式︶と違って赤外線投光機が不要であるので、被発見性が著しく低減された一方、構造物や洞窟の中など完全な暗闇では使用できず、気象に左右されるという欠点がある。
性能と特性に応じて、下記のように世代区分される。
第1世代
ダイノード型光電子増倍管による可視光増幅方式を採用しており、分光感度特性はS-20型、光増幅率は1,000倍程度であるため、月の光程度の明るさが必要となる。有効視認距離はおおむね100メートル前後であった。
AN/PVS-2
NSPU/1PN34
第2世代
マイクロチャンネルプレート︵MCP︶型光電子増倍管による可視光増幅方式を採用しており、分光感度特性はS-25型、光増幅率は20,000倍程度まで向上しており、有効視認距離は星の光で1,500メートル、月の光で2,700メートルとされている。ただし、高速の移動目標に対する結像能力に問題があり、戦車などの照準用としては不適であった。
AN/PVS-4
AN/PVS-5 ※PVS-5Dは第3世代相当
微光暗視眼鏡 JGVS-V3
75式照準用微光暗視装置II型 (B)
第3世代
第2世代と同様、MCP型光電子増倍管による可視光増幅方式を採用している。ただし、S-25型光電子増倍管にかえてヒ化ガリウム︵GaAs︶素子を採用することによって、検知可能な帯域が近赤外領域まで拡大しているほか、イオンバリア・フィルムにより被覆することで、より感度を向上させ、ノイズを削減している。光増幅率は30,000-50,000倍に向上し、有効視認距離も25%増加したとされている。また、通常の可視光増幅方式に加え、パッシブ遠赤外線方式を併用する機種も出現している。
なお、高性能であることから、第3世代暗視装置の多くは生産国による輸出入規制が適用されており、使用者は官公庁に限られる。
AN/AVS-6 ANVIS
個人暗視眼鏡 JAVN-V6
AN/PVS-7
AN/PVS-14 ※片眼式
個人用暗視装置 JGVS-V8
AN/PVS-15
GPNVG-18 ※四眼式
AN/PSQ-20 パッシブ遠赤外線方式︵サーマルイメージ︶併用。
PN16K / PN21K
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熱赤外 (TIR) 帯域
![](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/4/43/PEO_AN_PAS-13_View.jpg/250px-PEO_AN_PAS-13_View.jpg)
「FLIR」も参照
物体から放出される熱赤外線︵波長 8-15μm、英語: Thermal InfraRed︶を可視化する装置。これによる画像がいわゆるサーモグラフィー画像であり、このための装置を熱線映像装置︵英: thermal imager ︶と称する。なお、第0世代のアクティブ式暗視装置が使用していたのは近赤外線であり、熱線映像装置で使用される熱赤外線と近い周波数ではあるが、特性上大きく異なるものである。
あらゆる物体はそれ自身の温度によった遠赤外線を出している︵黒体放射︶ため、熱線映像装置は、光源が無い場所でも目標を視認することが可能となる。また、遠赤外線は可視光線と比較して、解像度が劣る一方で透過能力に優れるため、ある程度であれば煙越しに像を捕らえることもできる。例えば兵士や対空砲台が森に隠されていれば、その微妙な温度差による赤外線の強さを画面に表示して見分けられる。
初期のものは、重量と容積が過大で、歩兵用装備として実用的なものではなかった。小型化を難しくした原因は、おおむね下記の二点であった。
(一)-180℃以下にまで冷却しなければ赤外線受光素子が機能しないこと。
(二)赤外線受光素子が一次元のみなので、画像を得るために機械的な走査線スキャン装置が必要だったこと。
特に前者は深刻な問題であり、当初は冷却のためにガスボンベが必須とされ、ガスの残量が使用可能時間を制限した。スターリングエンジンを応用したスターリングクーラーが実用化されると歩兵が肩に担げるほどにまで小型化されたが、歩兵用としてはまだ大きすぎた。
1990年代になって冷却を必要としない二次元受光素子が開発され、初めて小銃のスコープに装着できる実用的なものが完成した。このため、上述の通り、第3世代のパッシブ可視近赤外光暗視装置には、熱線暗視方式を併用している機種もある。
一般写真分野での使用
一般撮影用カメラのレンズとして、コンタックスRTS用にN-ミロター210mmが販売されていたことがある。
天文分野での使用
対象が暗いことから、1980年代後半に天文用としても注目された。肉眼では光害の少ない場所でも6等星までしか見えないが、50mm F1.4のレンズの後ろにイメージ・インテンシファイアを取り付け出力側蛍光面を50mmのアイピースで見ると、9-10等星まで見ることができる。また、光電管の分光感度が赤外線部にまで伸びているためHα線などほとんど目に見えない光での観測ができる利点もあった。
ただし、バックの光も増幅されるため、光害の少ない場所でないと利点を生かすことができない。また、解像力やSN比は低い。
自動車の暗視装置・システム
![](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/7/75/Lexus_night_vision_HUD_full.jpg/250px-Lexus_night_vision_HUD_full.jpg)
参考文献
●防衛技術ジャーナル編集部﹁4ヘパイストスの奇跡﹂﹃戦車は ミサイルは いつ、どのようにして生まれたのか?﹄防衛技術協会、2009年、148-183頁。ISBN 978-4904306062。
●誠文堂新光社﹃増補天体写真テクニック﹄ISBN 4416287062
●M, ランプトン﹁新しい暗視装置マイクロチャンネル・プレート﹂﹃サイエンス﹄1982年1月、26頁、2016年1月25日閲覧。