ゴールパフォーマンス
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ゴールパフォーマンス︵和製英語‥goal performance︶は、サッカーの試合において選手が得点を決めた後に行う表現方法である[1]。得点後のパフォーマンスには﹁拳をあげる﹂﹁両手を広げる﹂といったシンプルに喜びを表現するものから、複数の選手が絡む趣向を凝らしたアイデアの物まで様々な種類があり、サッカー観戦における娯楽の一つとなっている[2]。英語圏ではゴールセレブレーション︵英語: goal celebration︶と呼ばれ[3][4]、日本サッカー協会ではそれを直訳した﹁得点の喜び﹂という言葉を用いている[5]。
経緯[編集]
ボディランゲージを伴った意志伝達や感情の表現方法については国や地域の文化や生活習慣、あるいは時代ごとによって認識に差異があり[1][2][6]、例えばイギリス[7]やドイツ[8]をはじめとした北ヨーロッパや東アジアなどの国々では、成人が感情を率直に表現する行為は幼稚か未成熟さの表れと見做されている[1]。これに対し、イタリア[9]やスペイン[10]といった地中海沿岸のラテン系の国々や南米のブラジル[11]などでは成人が社会的な制約もなく外向的に振舞うことが許容されている[1]。また、ピースサインや[12]親指立て[13]のような親愛や友好を表す身振りや手ぶりの表現が、ある国ではそのままの意味で受け止められる場合もあれば、別の国では猥褻さや下品さを表すもの、あるいは敵意として受け止められる場合もある[14]。「ラテン系の選手の行為は初めのうちは嘲笑の対象となっていたが、感情を表に出さない北ヨーロッパの選手たちも自制心を捨て、軽く抱き合う動作をせざるを得なくなってきた。驚きだったのは、そうすることがごく自然と思うようになり、終いには当たり前となってしまったことである。得点をあげた最高の瞬間という特別の状況に相応しいのは、ラテン的抱擁であって、文化的に抑制された北ヨーロッパ式の儀礼行為ではなかったのである[15]」 |
- デズモンド・モリス |
第二次世界大戦前に得点後のパフォーマンスは目立ったものは存在せず、選手同士が握手をしたり得点者の肩を叩いて祝福する程度のものだったという[1]。戦後、各国のサッカークラブの間での選手移籍が活発化し[1]、テレビ放送の普及や航空機を使用した国際便の就航によりグローバル化が進み[1]、異なる国や地域の選手の表現方法を目の当たりにする機会が増加した[15]。
選手による率直的な表現方法が普及すると、そのなかでも新しい情報に対し閉鎖的[16]であり公共の場で他者とのボディコンタクトを避ける傾向が強い[16]といわれるイギリスの社会は衝撃を受け、長きに渡って﹁スポーツマン精神に反する﹂として非難の対象となった[17]。一方で、自制心が強いとされるヨーロッパ北部の国の選手達もラテン系の選手達に倣って喜びの感情を表現するようになった[15]。
こうした中、いつどこで誰が特別なゴールパフォーマンスを始めたのかは定かでないが[17]、1966年にイングランドで開催された1966 FIFAワールドカップの際に9得点を挙げて得点王となったポルトガル代表のエウゼビオが行ったパフォーマンスが大きな影響を与えたと言われている[17]。サッカージャーナリストの大住良之はエウゼビオの得点後に大きく飛び上がり握り締めた拳を空に向かって突き出すパフォーマンス[18]が世界中へと広まり、特別なパフォーマンスが行われるようになった、との説を採っている[18]。
選手によるパフォーマンスは、一時的な流行に留まらず1970年代に入った後も様々なバリエーションを生み出すなど[18]サッカー文化の一部として定着している[15]。
特徴[編集]
イギリスの動物学者であるデズモンド・モリスは1983年に出版した著書﹃サッカー人間学-マンウォッチング2﹄の中で、ゴールパフォーマンスの基本的なパターンについて以下のものを挙げている。
全力疾走
得点者がピッチを駆け回る表現。試合の進行により抑圧されたエネルギーを、得点を挙げた本人が全力疾走することで和らげる狙いがあり、﹁両腕を高く突き上げる﹂や﹁飛び跳ねる﹂や﹁チームメイトが祝福のため追走する﹂などの行為を伴う場合もある[19]。
片手を使った表現
片手を頭上に突き出す表現としては人差し指を突き出すパターン[20]、手の平を伸ばす敬礼風のパターン[20]、握りこぶしを突き出すパターンなどがある[20]。
両手を使った表現
両手を広げたり頭上に突き出す表現は最も一般的な表現方法とされる[20]。両手を頭上に突き出した選手が飛び上がれば得点者の存在を相手により大きく誇示することが出来る[20]。この他には、膝から上体を後方に反り返して両手を突き上げるパターン[20]、両手の人差し指を天に向けるパターンなどもある[21]。
ジャンプ
ピッチを疾走する際に伴う表現。これに﹁片手の拳を振り上げる﹂や﹁両手を高く挙げる﹂などの動作が伴うが、前者にはボクサーがパンチを見舞うような動作を行うことで、後者には自分の身長の2倍近く高く見せることで、相手に対して圧倒的な力を誇示する狙いがある[20]。
ダンス
表現手法としては変則的なもので、先住民による戦勝の儀式を模したもの、駆け足による足踏み、両足を小刻みに動かしてステップを踏むものなどのパターンがある[20]。
抱擁
得点者に他の選手が駆け寄り抱きしめる表現[22]。得点者の脚に抱きつくパターンや[22]、得点者に抱きつく勢いが余ってピッチに転倒させるパターン[22]、得点者の髪の毛をかき乱す[23]、倒れている選手を集団で抱き上げて抱擁するなどのパターンもある[23]。こうした表現には他の選手も次々に加わり、互いの肩に手を回し大きな集団を形成する[22]。
接吻
得点者の額や頬に唇を接触させる表現[23]。文化圏によっては男性同士でも親愛の情を示すスキンシップとして認知されている場合もあれば、タブー視される場合もある[23]。
背中を叩く
集団的な抱擁の一種であり、頭を軽く叩くなどの動作も加わることが多い[24]。大人が子供に対してからかい半分に行う動作に類するが、やや盛り上がりに欠ける行為とも評される[24]。
握手
儀礼的な表現。身体接触を伴うパフォーマンスが行われるようになった後も、完全に影をひそめた訳ではなく、得点を挙げた側の選手が試合が再開されるまでの間に互いに握手を交わす光景が見られる[24]。
片膝を付きポーズをとる。
両膝を付きポーズをとる。
互いに抱きしめ合う。
人指し指を掲げる。
両手の人指し指を掲げる。
両手を広げる。
ガッツポーズをとる。
親指を咥える
ユニフォームを脱ぐ。
ピッチに寝そべる。
ダンスを踊る。
ハートマークを作る
投げキッスをする
拳銃を撃つ
バク宙をする。
規則[編集]
国際サッカー連盟 (FIFA) は競技規則の第12条の中で﹁得点時の選手によるパフォーマンスは過剰であってはならない﹂と定めている[25]。規則では適度な表現方法は認められているものの[25]、過剰な表現により時間が浪費され試合進行が妨げられる場合は、審判が介入してパフォーマンスの中止を命ずることが出来る[25]。このほか﹁相手に対し挑発的な態度を取る[25]﹂﹁得点後に周辺のフェンスによじ登る[25]﹂﹁ユニフォームを脱ぐか、頭部をユニフォームで覆い隠す[25]﹂﹁頭部を覆面か、それに類似したアイテムで覆い隠す[25]﹂行為を行った選手は警告の対象となっている[25]。また﹁ピッチ外へ飛び出して喜びを表現する﹂行為は本来は警告の対象とはならないが[25]、選手達を速やかにピッチ内に誘導するように定めている[25]。
アイスランド
ストヤルナンFCの選手達は得点後に独特なパフォーマンスを行うことで国際的に知られている[26][27]。有名な物では、選手の一人が釣り人に扮し、魚に見立てた選手を吊り上げると、魚に見立てた選手を皆で抱き上げて記念撮影を撮る﹁釣りパフォーマンス﹂がある[26][27]。このほか、﹁銃を乱射するパフォーマンス﹂や﹁人間自転車﹂などの様々なバリエーションがある[26]。
イタリア
各国の事例[編集]
ヨーロッパ[編集]
![アイスランドの旗](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/c/ce/Flag_of_Iceland.svg/25px-Flag_of_Iceland.svg.png)
![イタリアの旗](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/0/03/Flag_of_Italy.svg/25px-Flag_of_Italy.svg.png)
「私はあの時の疾走も、絶叫も覚えていない。あの場面を再びビデオで観た時の記憶だけが残っている。しかし、あの瞬間、私の心の中は大小様々な感情が入り混じり狂喜に包まれていたことは覚えている[28]」 |
- マルコ・タルデッリ |
マルコ・タルデッリは1982 FIFAワールドカップ決勝の西ドイツ戦において決勝点を決めた際に、両手の拳を握り締め、雄叫びを上げながらピッチを疾走するパフォーマンスを行った[29][30][31]。この場面は﹁l'urlo di Tardelli﹂︵タルデッリの雄叫び︶と呼ばれている[31]。
ヴィンチェンツォ・モンテッラは両手を横に広げて走り回るパフォーマンスから﹁アエロプラニーノ︵小型飛行機︶﹂の愛称で呼ばれたが[32]、ローマ出身の競馬騎手ミルコ・デムーロはモンテッラに憧れ、大レースを制した時はこの飛行機ポーズを模倣している[33]。
フランチェスコ・トッティは、右手の親指を口に銜えるチュッチョ︵おしゃぶり︶ポーズで知られているが[34][35]、この他にも2007年に行われたSSラツィオ戦ではゴール裏に設置されたテレビカメラを操作するパフォーマンスを[36]、2015年1月のセリエASSラツィオ戦でローマ・ダービーの最多得点記録を更新した際には、スタッフに預けておいたスマートフォンで自撮りするパフォーマンスを行った[37]。
このほか、ファブリッツィオ・ラバネッリはユニフォームの裾で頭部を覆うパフォーマンス[38]、マリオ・バロテッリはマンチェスター・シティFC在籍時、ユニフォームをめくり﹁Why always me?﹂と書かれたTシャツのメッセージを見せるパフォーマンスを行ったことで知られる[38]。
![イングランドの旗](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/b/be/Flag_of_England.svg/25px-Flag_of_England.svg.png)
![](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/4/4c/Flag_of_Sweden.svg/25px-Flag_of_Sweden.svg.png)
![スペインの旗](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/9/9a/Flag_of_Spain.svg/25px-Flag_of_Spain.svg.png)
![ドイツの旗](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/b/ba/Flag_of_Germany.svg/25px-Flag_of_Germany.svg.png)
![フランスの旗](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/9/93/Flag_of_France_%281794%E2%80%931815%2C_1830%E2%80%931974%29.svg/25px-Flag_of_France_%281794%E2%80%931815%2C_1830%E2%80%931974%29.svg.png)
![ポルトガルの旗](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/5/5c/Flag_of_Portugal.svg/25px-Flag_of_Portugal.svg.png)
南米[編集]
![アルゼンチンの旗](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/1/1a/Flag_of_Argentina.svg/25px-Flag_of_Argentina.svg.png)
![エクアドルの旗](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/e/e8/Flag_of_Ecuador.svg/25px-Flag_of_Ecuador.svg.png)
![ブラジルの旗](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/0/05/Flag_of_Brazil.svg/25px-Flag_of_Brazil.svg.png)
北中米[編集]
![アメリカ合衆国の旗](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/a/a4/Flag_of_the_United_States.svg/25px-Flag_of_the_United_States.svg.png)
![メキシコの旗](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/f/fc/Flag_of_Mexico.svg/25px-Flag_of_Mexico.svg.png)
アフリカ[編集]
![カメルーンの旗](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/4/4f/Flag_of_Cameroon.svg/25px-Flag_of_Cameroon.svg.png)
アジア[編集]
![日本の旗](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/9/9e/Flag_of_Japan.svg/25px-Flag_of_Japan.svg.png)
![大韓民国の旗](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/0/09/Flag_of_South_Korea.svg/25px-Flag_of_South_Korea.svg.png)
問題となった事例[編集]
ヨーロッパ[編集]
![イタリアの旗](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/0/03/Flag_of_Italy.svg/25px-Flag_of_Italy.svg.png)
![イングランドの旗](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/b/be/Flag_of_England.svg/25px-Flag_of_England.svg.png)
![ギリシャの旗](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/5/5c/Flag_of_Greece.svg/25px-Flag_of_Greece.svg.png)
![スペインの旗](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/9/9a/Flag_of_Spain.svg/25px-Flag_of_Spain.svg.png)
![セルビアの旗](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/f/ff/Flag_of_Serbia.svg/25px-Flag_of_Serbia.svg.png)
![フランスの旗](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/9/93/Flag_of_France_%281794%E2%80%931815%2C_1830%E2%80%931974%29.svg/25px-Flag_of_France_%281794%E2%80%931815%2C_1830%E2%80%931974%29.svg.png)
北中米[編集]
![メキシコの旗](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/f/fc/Flag_of_Mexico.svg/25px-Flag_of_Mexico.svg.png)
アフリカ[編集]
![](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/f/fe/Flag_of_Egypt.svg/25px-Flag_of_Egypt.svg.png)
![トーゴの旗](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/6/68/Flag_of_Togo.svg/25px-Flag_of_Togo.svg.png)
アジア[編集]
![イランの旗](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/c/ca/Flag_of_Iran.svg/25px-Flag_of_Iran.svg.png)
ペルセポリスFCに所属するモハメド・ノスラティは2011年10月29日に行われたSCダマシュ・ギラン戦でチームメイトが先制点を決めた際、抱き合って祝福していたシェイズ・レザエイの背後に近寄りレザエイの尻に指でカンチョーの悪戯をした[103]。 この模様はテレビで生放送されていたこともあって問題視され、イラン・イスラム共和国サッカー連盟はノスラティに対し無期限出場停止処分と40,000ドルの罰金を科した[103]。またレザエイもチームが3-2と勝ち越した得点の際に他の選手の股間を触る行為があったとして同様の処分が下った[103]。
脚注[編集]
(一)^ abcdefgモリス 1983、164頁
(二)^ ab大住 2010、165頁
(三)^ “ゴールセレブレーション ︻ゴールセレブレイション︼”. コトバンク. 2014年1月12日閲覧。
(四)^ “ゴール‐セレブレーション︻goal celebration︼”. goo辞書. 2014年1月12日閲覧。
(五)^ “審判員のための追加指示およびガイドライン” (PDF). 日本サッカー協会. 2014年1月12日閲覧。
(六)^ 21世紀研究会 2001、39-40頁
(七)^ モリスン、コナウェイ、ボーデン 1999、130頁
(八)^ モリスン、コナウェイ、ボーデン 1999、154頁
(九)^ モリスン、コナウェイ、ボーデン 1999、230頁
(十)^ モリスン、コナウェイ、ボーデン 1999、409頁
(11)^ モリスン、コナウェイ、ボーデン 1999、46頁
(12)^ 21世紀研究会 2001、29-31頁
(13)^ 21世紀研究会 2001、32頁
(14)^ 21世紀研究会 2001、22頁
(15)^ abcdモリス 1983、165頁
(16)^ abモリスン、コナウェイ、ボーデン 1999、125頁
(17)^ abc大住 2010、166頁
(18)^ abcde大住 2010、167頁
(19)^ モリス 1983、166頁
(20)^ abcdefghモリス 1983、168頁
(21)^ “岡田Jの心臓・長谷部 背中押してくれた祖父に誓う活躍”. 朝日新聞 (2010年6月15日). 2013年11月30日閲覧。
(22)^ abcdモリス 1983、169頁
(23)^ abcdモリス 1983、170-172頁
(24)^ abcモリス 1983、172-173頁
(25)^ abcdefghij“Laws of the Game 2010/2011” (PDF). 国際サッカー連盟. p. 116. 2013年11月30日閲覧。
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