疲れやつれた美しい顔よ、 私はおまへを愛す。 さうあるべきがよかつたかも知れない多くの元気な顔たちの中に、 私は容易におまへを見付ける。 それはもう、疲れしぼみ、 悔とさびしい微笑としか持つてはをらぬけれど、 それは此の世の親しみのかずかずが、 縺もつれ合ひ、香となつて籠る壺なんだ。 そこに此の世の喜びの話や悲しみの話は、 彼のためには大きすぎる声で語られ、 彼の瞳はうるみ、 語り手は去つてゆく。 彼が残るのは、十分諦めてだ。 だが諦めとは思はないでだ。 その時だ、その壺が花を開く、 その花は、夜の部屋にみる、三さん色しき菫すみれだ。