ものごころ

萩原朔太郎




ものごころ覺えそめたるわが性のうすらあかりは
春の夜の雪のごとくにしめやかにして
ふきあげのほとりに咲けるなでしこの花にも似たり
ああこのうるほひをもておん身の髮を濡らすべきか
しからずはその手をこそ

ふくらかなる白きお指にくちをあて
やみがたき情愁の海にひたりつくさむ
おん身よ
なになればかくもわが肩によりすがり
いつもいつもくさばなの吐息もてささやき給ふや
このごろは涙しげく流れ出でて
ひるもゆふべもやむことなし
ああ友よ
かくもいたいけなる我がものごころのもよほしに
秋もまぢかのひとむら時雨
さもさつさつとおとし來れり





 
   1977525301
   19866212101
kompass

2011625

http://www.aozora.gr.jp/




●表記について


●図書カード