︹冒頭欠︺
たいエゴイストだ。たゞ神のみ名によるエゴイストだと、君はもう一遍、云って呉れ。さうでなくてさへ、俺の胸は裂けやうとする。
純黒 俺の胸も裂けやうとする。おゝ。町はづれのたそがれの家で、顔のまっ赤な女が、一人で、せわしく飯をかき込んだ。それから、水色の汽き車の窓の所で、瘠せた旅人が、青白い苹果にパクと噛みついた。俺は一人になる。君は此処から行かないで呉れ。︹︺
蒼冷 ありがたう。判った。判ってゐるよ。けれども俺は快楽主義者だ。冷たい朝の空気製のビールを考へてゐる。枯草を詰めた木きぐ沓つのダンスを懐かしく思ふのだ。︹︺
純黒 俺だって、それは、君に劣らない。あの融け残った、霧の中の青い後光を有った栗の木や、明あけ方がたの雲に冷たく熟うれた木莓や。それでも それでも。俺は豚の脂を食べやうと思ふ。俺の胸よ。強くなれ。お里さとの知れた少しの涙でしめされるな。強くなれ。
蒼冷 俺は強くならうともしない。弱くならうともしない。すべては神のなるが如くになれ。︹以下原稿なし︺
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蒼冷 ︹︺いや岩手県だ。外山と云ふ高原だ。北上山地のうちだ。俺は只一人で其処に畑を開かうと思ふ。︹︺
純黒 彼処は俺は知ってるよ。目に見えるやうだ。そんならもう明日から君はあの湿しめった腐植土や、みゝづや、鷹やらが友達だ。白樺の薄皮が、隣りの牧夫によって戯むれに剥がれた時、君はその緑色の冷たい靱皮の上に、繃帯をしてやるだらう。あゝ俺は行きたいんだぞ。君と一諸に行きたいんだぞ。
蒼冷 俺等の心は、一諸に出会はう 俺は畑を耕し終へたとき、疲れた眼を挙げて、遠い南の土トウ耳クォ古イ玉スの天てん末まつを望まう。その時は、君の心はあの蒼びかりの空間を、まっしぐらに飛んで来て呉れ。
純黒 行くとも。晴れた日ばかりではない。重いニッ︹ケ︺ルの雲が、あの高原を、氷河の様に削って進む日、俺の心は、早くも雲や沢山の峯やらを越えて、馬鈴薯を撰り分ける、君の処へ飛んで行く。けれども俺は辛いんだ。若し、僕が、君と同ん︹な︺じ神を戴くならば、同ん︹な︺じ見えな︹以下原稿なし︺