〔鉛のいろの冬海の〕

宮沢賢治




鉛のいろの冬海の
荒き渚のあけがたを
家長は白きもんぱして
こらをはげまし急ぎくる

ひとりのうなゐ黄の巾を
うちかづけるが足いたみ
やゝにおくるゝそのさまを
をとめは立ちて迎へゐる

    南はるかに亙りつゝ
    氷霧にけぶる丘丘は
    こぞはひでりのうちつゞき
    たえて稔りのなかりしを

日はなほ東海ばらや
黒棚雲の下にして
褐砂に凍てし船の列
いまだに夜をゆめむらし

鉛のいろの冬海の
なぎさに子らをはげまして
いそげる父の何やらん
面にはてなきうれひあり

あゝかのうれひけふにして
晴れなんものにありもせば
ことなきつねのまどゐして
こよひぞたのしからましを





 
   1980552151

junk

2011514

http://www.aozora.gr.jp/




●表記について


●図書カード