志しげ玄んという僧があったが、戒かい行ぎょうの厳しい僧で、法衣も布以外の物は身に著つけない。また旅行しても寺などに宿を借らないで、郭こう外がいの林の中に寝た。ある時縫ほう州しゅ城うじょうの東十里の処へ往って墓場へ寝た。ところで、その晩は昼のような月夜で四あた辺りがよく見えた。ふと見ると、木の下に一疋の狐がいて、それが人のするように、傍にある髑どく髏ろを頭の上に乗っけて首を振り、そして落ちた物はやめて、他の髑髏を取って乗っけたが、三四回目に落ちないのが乗っかった。すると狐は傍の草の葉をちぎって、それを体につけだしたが、見る見る若い美しい女になった。
その時馬の鳴声が聞えて、一人の男が馬に乗ってやってきた。それを見ると狐の女は、路の傍へ立って泣きだした。馬に乗っていた男は、女の泣いているのを見ると馬からおりて、
﹁なぜこんな処で泣いてる﹂
と言って聞いた。狐の女は、
﹁私は易州の者でございますが、北門の張という人の許へ縁づいておりましたところで、去年になって夫に死なれ、財産もなくなったので、困って親の処へ帰るところでございますが、歩が遅いものでございますから、日が暮れて困っております﹂
と言った。
その男は易州の軍人であった。
﹁易州なら私の帰るところだ、穢きたない馬でかまわなければ、乗せて往ってあげよう﹂
と言った。女は喜んで礼を言うので、軍人は女を抱いて馬に乗せようとした。それを見ると、志玄が出て往って、
﹁あなたの馬に乗せようとしている女は、人間じゃありません、狐の化けた奴ですよ﹂
と言った。軍人は怒って、
﹁和尚さん、そんなことを言ってこの方を誣しいては困ります﹂
と言った。志玄は、
﹁あなたが真ほん箇とうにしないなら、正体を現わしてお目にかけましょう﹂
と言って、印を結んで真言を唱え、錫杖を振りあげて、
﹁早くもとの形にならないか﹂
と言うと、狐の女は悶絶して倒れ、元の狐となって血を吐いて死んだ。そして、体には髑髏や草の葉がついていた。