［＃改見開き］
太郎「鶴 がカアカアつて啼 いてるの、あれ泣 いてるんですか、おぢさん」
おぢさん﹁泣ないてるんぢやない、うれしくて歌うたつてるんです。ほらあの雄をすの鶴つるがカアつていうとすぐ雌めすの鶴つるがカアカアつていうだろう。そら、ね。カア、カアカア、カア、カアカアつてね﹂
太郎「おかしいなあ、それぢや二疋 で合奏 してるんですねえ」
おぢさん「ほうら、また向 でもはじめた」
﹇＃改見開き﹈ お山やまの お山やまの 兎うさ太た郎ろさん お前まへの耳みヽは なぜ長ながい。 枇び杷はの若わか葉ばをたべたので それゆへお耳みヽが長なごござる。 お山やまの お山やまの 兎うさ太た郎ろさん 何なにがそんなに怖こをござる。 びつくり草ぐさではないけれど 私わたしは風かぜが怖こをござる。
﹇＃改見開き﹈
太郎「おまへは虎 の従兄 なのかへ」
へう﹁へ
、まあそんなもんです。これでも昔むかしは兄きよ弟うだいだつたんですがね。加かと藤うき清よま正さこ公うが朝ちよ鮮うせ征んせ伐いばつにいらした時とき、私わたくしの先せん祖ぞが道みち案あん内ないをしたので、そのお礼れいに清きよ正まさ公こうの紋もん所どころをこうして身から体だへつけて下くだすつて代だい々〳〵まあこうして宝ほう物もつにしてゐるやうなわけですよ﹂
、まあそんなもんです。これでも昔むかしは兄きよ弟うだいだつたんですがね。加かと藤うき清よま正さこ公うが朝ちよ鮮うせ征んせ伐いばつにいらした時とき、私わたくしの先せん祖ぞが道みち案あん内ないをしたので、そのお礼れいに清きよ正まさ公こうの紋もん所どころをこうして身から体だへつけて下くだすつて代だい々〳〵まあこうして宝ほう物もつにしてゐるやうなわけですよ﹂太郎「なるほどそうかねえ、道理 で清正 の紋 とおんなじだとおもつたよ」
﹇＃改見開き﹈ 梟ふくろうは何なにも言いはぬ。 世せか界いぢ中うの子こど供もがみんな眠ねむつた時とき お月つき様さま何なにしてる、お星ほし様さま何なにしてる。 夜よる、眼めの見みえる梟ふくろうは 知しつてるくせに何なにも言いはない。
﹇＃改見開き﹈ 昔むかし、﹁う﹂のお母かあさんが子こど供もを産うむ時とき、近きん所じよに火くわ事じがあつたんで、たべかけてゐた魚さかなを﹁う呑のみ﹂にして迯にげだしたさうです。ほんとだかどうだか知しりません。うそだと思おもつたら先せん生せいに訊きいてごらん。先せん生せいが御ごぞ存んじなかつたら﹁う﹂に聴きいてごらんなさい。
﹇＃改見開き﹈
黒猫「おまへさんなんざあ器量 は好 いし、おとなしいから人 に可愛 がられて幸福 といふものさ」
斑猫「あらまあ、あんなことを、おなじ猫 でも女 になんぞ生 れてはつまりませんわ」
黒猫「どうしてなか／＼、私 なんざあ、自分 で自分 の糊口 をしなきやあならないんですからやりきれやせんや」
斑猫「それだから結構 ですわ。夜 なんかでも、あなたは毛色 がお黒 いから鼻 の頭 へ御飯粒 をくつつけて口 をあいてゐれば鼠 さんは黒 い所 に白 いものがあるので喜 こんで食 べに来 ると食 べられるつていふぢやございませんか。そんなことはとても私 たちには出来 ませんわ」
［＃改見開き］
べにす※［＃濁点付きの二の字点、コマ10-右-2］め
たべたさに
そつと
いぢらしさ。
［＃改見開き］
太郎「おぢさん狐 は化 しませんか」
動物園のおぢさん「私 はまだ化 された事 はない」
太郎「おぢさん、この狐 は雄 と雌 ですか」
おぢさん「さうです」
太郎「それぢや、狐 のお嫁入 の時 雨 が降 りましたか」
おぢさん「この狐 たちは動物園 へ来 るまへにもう嫁 いりしたのです」
﹇＃改見開き﹈ 何い時つ来きて見みても 泣ないてゐる。 何なにが悲かなしゆて お泣なきやるぞ。 悲かなしいことはないけれど 生うまれ故こけ郷うが なつかしい。
﹇＃改見開き﹈ ………たべてもすぐにかへらずに ぽつぽぽつぽとないて遊あそべ……… ………いつしよに遊あそぼとおもへども 下げ駄たや足あし駄だの坊ぼつちやんに 足あしを踏ふまれて痛いたいゆへ 屋や根ねのうへから見みてゐましよ………
﹇＃改見開き﹈ 一疋ぴきの小こざ猿るが﹁おれのお父とつ様ちあんはおまへ豪えらいんだぜ、兎うさぎと喧けん嘩くわをして勝かつたよ﹂と言いひました。すると他ほかの小こざ猿るが﹁おれの父ちや様んはもつと豪えらいや、鬼おにヶ島しまを征せい伐ばつにいつたんだもの﹂﹁うそだあ、ありや昔むかしの事ことぢやないか﹂﹁うそぢやありませんよだ。それが証せう拠こにはお尻しりのとこに大おほきな刀かた痕なきづがついてらあ﹂と威ゐ張ばりました。
﹇＃改見開き﹈ 鶏にはとりは神かみ様さまに夜よあ明けを知しらせる事ことを仰おほ付せつかつたのが嬉うれしさに、最さい初しよの夜よる、まだお月つき様さまがゆつくりと空そらを遊あそびまはつてゐるのに、時ときを作つくつて啼なきました。それで朝あさ日ひはびつくらして東ひがしの山やまから出でましたので、お月つき様さまはなごり惜をしいけれどそれきり夜よるに別わかれました。それからといふもの、お月つき様さまは怒おこつて日ひが暮くれると、鶏にはとりの眼めを見みえぬやうにしてしまひました。それで﹁とりめ﹂になりました。
﹇＃改見開き﹈ ほつきよくぐまの おかしさは いつきて見みても いや〳〵と かぶりを振ふつておりまする。 パンをやつても いイや いや 肉にくをやつても いイや いや かぶりふり〳〵食たべました。
﹇＃改見開き﹈ お婆ばあさんの独ひと言りごと﹁おまへも世よが世よならば、将せう軍ぐん様さまの御お手てにとまつて、昔むかしは、富ふ士じの巻まき狩がりなぞしたものだが、今いまぢや梟ふくろうと一いつ所しよにこんなところへか※﹇＃濁点付きの二の字点、コマ17-右-3﹈んでるのは辛つらいだろうの。したが、これも時とき代よとあきらめるが好いいぞよ。これさ、うの目めたかの目めつて世せけ間んの口くちの端はにか
るではないか、そんな怖こはい目めはせぬものぢや﹂
﹇＃改見開き﹈ 太郎﹁らくだよ らくだ
なんておまへはなまけものなんだろう［＃「なんだろう」は底本では「なんだろら」］。
のらくら のらくらと一日 なまけてゐるではないか」
らくだ「のらくら のらくらと
あんまりなまけたので昔 私 の先祖 は神様 に撲 られまして、ごらんの通 り身体中 瘤 だらけになりました」
﹇＃改見開き﹈ ある猟かり人うどが、山やま﹇＃ルビの﹁やま﹂は底本では﹁ま﹂﹈へ猟かりにゆきますと、何ど処こからか鸚あう鵡むの啼なき声ごゑが聞きこえます。声こゑはすれども姿すがたは見みえぬ、猟かり人うどは途とは方うにくれて﹁おまへはどこにゐる﹂と言いひますと﹁わたしはこ
にゐる﹂と答こたへた。猟かり人うどは、その無むじ邪や気きな鸚あう鵡むを可かあ憐いそうに思おもつて撃うたないでつれてかへつて可かあ愛いがつて飼かつてやりました。
するとその辺へんに住すんでゐた太たら郎うぢやない、次じら郎うといふ子こど供もが、その鸚あう鵡むを盗ぬすんでポツケツトへ入いれました。
猟かり人うど﹇＃ルビの﹁かりうど﹂は底本では﹁りうど﹂﹈は鸚あう鵡むがゐないので﹁おまへはどこへいつた﹂と言いひますと、鸚あう鵡むは子こど供ものポツケツトの中なかで﹁わたしはこにゐる﹂と答こたへました。
﹇＃改見開き﹈ 鹿しかが小をが川はの水みづの中なかに立たつて、自じぶ分んの姿すがたを水みづに映うつして ﹁おれの角つのはなんて美うつくしいんだらう。だが、この足あしの細ほそいことはどうだろう、もすこし太ふとかつたらなア﹂と独ひと語りごとを言いつた。そこへ猟かり人うどが来きた。おどろいて鹿しかは迯にげだした。細ほそい足あしのおかげで走はしるわ、走はしるわ、よつぽど遠とほくまで迯にげのびたが、藪やぶのかげでその美うつくしい角つのめが笹さヽに引ひつ掛かかつてとう〳〵猟かり人うどにつかまつたとさ。
﹇＃改見開き﹈ 太たら郎うは、エソップのなかの、或ある時ときライオンが一いつ疋ぴきの鼠ねづみを捕とつたら、鼠ねづみが﹁おぢさんわたいのやうな小ちいさなものをいぢめたつてあなたの手てが柄らにもなりますまい﹂つて言いつたらライオンは﹁ハヽヽヽなるほどさうだ﹂つて許ゆるしてやつた。するとある時とき、ライオンが猟かり人うどに捕つかまつて縛しばられたとこへ例れいの鼠ねづみが来きて﹁おぢさん、待まつといで﹂と言いつて縛しばつた縄なわを噛かみ切きつてやりました。つていふ噺はなしを思おも出ひだして﹁おぢさん、ライオンは馴なれたら鼠ねづみでも喰くひませんか﹂と動どう物ぶつ園ゑんのおぢさんに聞ききました。すると、おぢさんの答こたへはこうでした﹁すぐ喰くつちまふ﹂
﹇＃改見開き﹈
太郎「だてふはいつも立 つてばかりゐますが、夜 ねる時 でも立 てますか」
動物園のおぢさん「夜 はやつぱりしやがんで眠 ります」
太郎「象 は立 つて眠 るんでせう」
おぢさん「いへ象 もすわつて寝 ます」
へ
［＃改見開き］
太郎「おぢさん河馬 は汚 いねえ」
おぢさん「なぜさ」
太郎「だつて皮 の穴 からなんだか赤 い汁 が出 るんだもの」
おぢさん「でもあの汁 がすきな鳥 があるとさ。その鳥 が来 ると河馬 はじつとして、あの毛穴 の中 の黴菌 を鳥 がとつてくれるのをまつてゐるんだつてさ。それがその鳥 の食物 なのさ」
太郎「汚 い鳥 だなあ、なんていふ名 」
おぢさん「知 らない」
［＃改見開き］
太郎「おまへは何処 から来 たの」
キバタン「印度 から来 ました」
太郎「印度 は黒坊 ばかりゐるのかと思 つたら、おまへのやうな白 い鳥 もゐるのかい」
キバタン「なあに、昔 は黒 かつたんですが、あんまり太陽 の光 がきついもんですからはげてしまつたんです」
［＃改見開き］
動物園のおぢさん「ある時 、白 い夏服 を着 た巡査 が、剣 か何 かでこの虎 をおどかしたことがありました。それからといふもの白 い服 を着 た巡査 が来 ると怒 ります」
太郎「おぢさん、虎 はよく覚 えてゐますね」
おぢさん「一度 そんなことがあると決 して忘 れません」
太郎「虎 が客 に向 つて放尿 してもおまはりさんは叱 らないんですか」
おぢさん「虎 がおまはりさんを叱 ります」
﹇＃改見開き﹈ 驚おどろきやすい白はく鳥てうよ。 何なにをそんなにおどろいて鳴なくのだ。 青あほい澄すんだ空そらには何なにもないではないか﹇＃﹁何なにもないではないか﹂は底本では﹁河なにもないではないか﹂﹈。 白しろく淀よどんだ沼ぬまには何なにもゐはしないではないか。 いえ〳〵。青あほい空そらを あれ、あんな化ばけ物もの雲くもがとびます。 深ふかい水みづの底そこに、 あれ、あんな虫むしが匐はひまわつてゐます。
﹇＃改見開き﹈
太郎「おぢさん熊 が手 を合 せて拝 んでるよ」
おぢさん「はあ、可憐 いものだなあ。動物園 の中 でも夜 なんか熊 が一番 よく眠 るつてね、嚊声 が不忍池 まで聞 へるつてさ」［＃「てさ」」は底本では「てさ」］
あ、
［＃改ページ］
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