南洲留魂祠

大町桂月





 
 
 姿
 
薫風や直酒過ぎたる四人づれ

 ※(二の字点、1-2-22)※(二の字点、1-2-22)滿
夕闇や螢過ぎゆく鼻の先

家土産に螢とらばと思ひけり
と云へば、桃葉は、
螢とぶや蓮田の上を一文字
螢とぶ里の土橋のくづれより
われはまた、
螢とぶ木蔭の墓標新しき
大螢終に逸せし川邊かな
 小岩停車場に着きて、上り汽車を待つ。片田舍の小驛の暢氣さ。事なきまゝに、驛長は少年の驛員を相手に、しかも、片馬はづしてもらつて、將棊をさす。われ見て以爲へらく、田舍の役所、學校などにて職務を妨げぬ限りにて、かゝる娯樂を爲せば、酒色などの誘惑をさくる方便ともなりて、至極よきこととて、一寸覗きし處、下手將棊王より飛車を大事がりの手合なれど、退屈まぎらしに見物す。二三回勝負つきたるが、斧の柄ならぬステツキは朽ちもせず、下界の、しかも下手の勝負つくこと早く、たゞ、ほんの、汽車を待つ間の、二三十分の事也。

(明治四十年)






  
   192211528
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2009113

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