鎌倉
芳賀矢一
七(しち)里(り)が浜のいそ伝い
稲(いな)村(むら)が崎 名将の
剣投ぜし古戦場
極(ごく)楽(らく)寺(じ)坂越え行けば
長(は)谷(せ)観音の堂近く
露坐の大仏おわします
由(ゆ)比(い)の浜べを右に見て
雪の下村過ぎ行けば
八幡宮の御(おん)社(やしろ)
上(のぼ)るや石のきざはしの
左に高き大銀杏
問わばや 遠き世々の跡
若(わか)宮(みや)堂(どう)の舞の袖
しずのおだまきくりかえし
かえせし人をしのびつつ
鎌(かま)倉(くら)宮(ぐう)にもうでては
尽きせぬ親(み)王(こ)のみうらみに
悲憤の涙わきぬべし
歴史は長き七(しち)百(ひゃ)年(くねん)
興亡すべてゆめに似て
英雄墓はこけ蒸しぬ
建(けん)長(ちょう)円(えん)覚(がく)古寺の
山門高き松風に
昔の音やこもるらん
底本‥﹁日本随筆紀行第九巻 鎌倉 くれないの武者の祈り﹂作品社
1986︵昭和61︶年8月10日第1刷発行
底本の親本‥﹁日本の詩歌 日本歌唱集﹂中央公論社
1974︵昭和49︶年7月
入力‥浦山敦子
校正‥noriko saito
2022年5月27日作成
青空文庫作成ファイル‥
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