樋口一葉

長谷川時雨




       

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我養家は大藤村の中萩原なかはぎわらとて、見わたす限りは天目山てんもくざん大菩薩峠だいぼさつとうげの山々峰々垣をつくりて、西南にそびゆる白妙しろたえの富士のはをしみて面かげをしめさねども、冬の雪おろしは遠慮なく身をきる寒さ、うおといひては甲府まで五里の道をとりにやりて、やう/\まぐろの刺身が口に入る位――
とある。その後の章には、
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国子当時蝉表せみおもて職中一の手利てききなりたりと風説あり今宵こよいは例より、酒うましとて母君大いによい給ひぬ。
――片町といふ所の八百屋やおやの新いものあかきがみえしかば土産にせんとて少しかふ、道をいそげばしとど汗に成りて目にも口にもながれいるをはんけちもておしぬぐひ/\して――
()()廿
――我身ひとつのゆえりせばいかゞいやしきおりたちたるぎょうをもして、やしなひ参らせばやとおもへど、母君はいといたく名をこのみ給ふたちにおはしませば、賤業をいとなめば我死すともよし、我をやしなはんとならば人めみぐるしからぬ業をせよとなんの給ふ、そもことはりぞかし、わが両方ふたかたははやく志をたて給ひてこの府にのぼり給ひしも、名をのぞみ給へば成りけめ。
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「あなわびし、今五年さきにうせなば、父君おはしますほどに失なば、かゝる憂き、よも見ざらましを我一人残りとゞまりたるこそかへす/″\口をしけれ、我ことばを用ひず、世の人はたゞ我れをぞ笑ひ指さすめる、くにも夏もおだやかにすなほに我やらむといふ処、虎之助がやらむといふ処にだにしたがはゞ何条ことかはあらむ、いかに心をつくりたりとて手を尽したりとて甲斐かいなき女の何事をかなし得らるべき、あないやいやかかる世を見るもいや也」
と朝夕に母にかきくどかれては、どれほどに心苦しかったであろう。おなじ年(廿六年四月十三日の記に)、
母君ふけるまでいさめたまふ事多し、不幸の子にならじとはつねの願ひながら、折ふし御心みこころにかなひ難きふしのあるこそかなし。

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師の君に約し参らせたる茄子なすを持参す。いたく喜びたまひてこれひるの時に食はばやなどの給ふ、春日かすがまんぢうひとつやきてひたまふとて、おのれにもなかばわけて給ふ。
とあるにも師弟の関係の密なのが知られる。けれども歌子は一葉をよく知っていた。あるおり『読売新聞』の文芸担当記者が、当時の才媛について、萩の屋門下の夏子と龍子たつこ――三宅花圃みやけかほ女史――の評を求めたおり、歌子は、龍子は紫式部であり夏子は清少納言であろうと言ったとか、一葉も自分で、清少納言と共通するもののあるのを知っていたのかとも思われるのは、随感録「さおのしづく」に、
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今宵はじめて荷をせをふ、中々に重きものなり。
ともいい、日々の売上げ廿八、九銭よりよくて三十九銭と帳をつけ、五厘六厘の客ゆえ、百人あまりもくるため大多忙だとしるしたのを見れば、
なみ風のありもあらずも何かせん
     一葉ひとはのふねのうきよなりけり
()彿()

       

 廿()()()宿()()()()()()()
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君が精神の凡ならざるに感ぜり、爾来じらいしたしく交わらせ給わば余が本望なるべし
などと書いたのちに、
君がふたゝび来たらせ給ふをまちかねて、として、
  とふ人やあるとこゝろにたのしみて
      そゞろうれしき秋の夕暮
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 禿()禿
孤蝶子よりの便りこの月に入りて文三通、長きは巻紙六枚を重ねて二枚切手の大封おおふうじなり。
とある。同じ中に、
優なるは上田君ぞかし、これもこの頃打しきりてとひ来る。されどこの人は一景色ひとけしきことなり、よろずに学問のにほひある、洒落しゃらくのけはひなき人なれども青年の学生なればいとよしかし
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誰もたれも言ひがひのなき人々かな、三十金五十金のはしたなるにそれをすらをしみて出し難しとや、さらば明かに調ととのへがたしといひたるぞよき、えせ男作りて、ひげかきそらせどあはれ見にくしや
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勿体なくも君を恋まつれる事幾十日、別紙御一覧の上は八つざきの刑にも処したまへ
とて熱書を寄せもした。されば、
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 ()()稿稿()()()()()()()

こぞの春は花のもとに至恋の人となり、ことしの春はうぐいすの音に至恋の人をなぐさむ。
    春やあらぬわが身ひとつは花鳥の
        あらぬ色音にまたなかれつゝ
とある末に、
もゝのさかりの人の名をおもひて、
    もゝの花さきてうつろふ池水の
        ふかくも君をしのぶころかな
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()()()()()()()()()()稿
とある。恋に対して傲慢ごうまんであった彼女にも、こうした夢幻境もあった。恋という感想に、
()()()()()姿()()()()()()()()調()()()調()()()
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吹風のたよりはきかじおぎの葉の
    みだれて物を思ふころかな
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わが思ひ、など降る雪のつもりけん
    つひにとくべき中にもあらぬを
と嘆き四月の雨の日の記には、
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我こそは達磨だるま大師になりにけれとぶらはんにもあしなしにして
といい、また他行のため洗張あらいはりさせし衣を縫うに、はぎものに午前だけかかり、下まえのえり五つ、そでに二つはぐとて、
宮城みやぎのにあらぬものからから衣なども木萩こはぎのしげきなるらん
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   19856011181
   200113795

   193611

   191876810


2006121

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