日本文章の発想法の起り

折口信夫




     一

古代の文章の特徴と云ふと、誰しも対句・畳句・枕詞・譬喩などを挙げる。私はかういふ順序で話して行きたい。
対句―――畳句

譬喩 → 枕詞 ← 序歌
     ↑
     └──────┐
            │
矚目発想――待想独白――象徴
()()便




丹比野タヂヒヌに 寝むと知りせば、堅薦タツゴモも持ちて来ましもの。寝むと知りせば(履中記)
此などは二句を五句でうち返す形の中の殊にくどいものである。声楽の必要は二の次であつたからである。
浅小竹原アサシヌハラ腰なづむ。空は行かず。足よ行くな(景行記)

をとめの 床の辺に、わがおきし劔の大刀。その大刀はや(景行記)
第五句は、上四句に対しての対句なのである。対句が意識せられて来ると、段々はやし詞に近づく。
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此形が、深く頭に入つて、
やすみしゝわが大君の、朝戸にはいより立たし、夕戸にはいよりたゝす 脇づきが下の板にもが。あせを(雄略記)

道にあふや、尾代ヲシロの子。天にこそ聞えずあらめ。国には聞えてな(雄略紀)
前のは一句で対句を作つてゐるのに対して、此は二句で形式の整うた対句を拵へてゐる。
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寿

     

()()寿
神風の伊勢の海の 大石オホシに 這ひモトホろふ 細螺シタヾミの い這ひもとほり、伐ちてしやまむ(神武記)
此は単譬喩の歌である。
……群鳥ムラトリの吾が群れ往なば、ひけ鳥のわが引け往なば、泣かじとはは言ふとも、やまとのひと本薄モトスヽキ、うなかぶし汝が泣かさまく、朝雨のさ霧に立たむぞ……(古事記上巻)


……さ寝むとは われは思へど、汝がせる おすひの裾に つきたちにけり(古事記中巻)
こもりくの泊瀬の川ゆ 流れ来る竹の いくみ竹 よ竹、本べをば箏に造り、末べをば笛に造り、吹き御諸ミモロが上に 登り立ちわが見せば、つぬさはふ磐余イハレの池の みなしたふ 魚も 上に出て歎く(継体紀)
やすみしゝわが大君の、帯ばせる さゝらのみ帯の 結び垂れ 誰やし人も 上に出て嘆く(同)
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ますらをが さつ矢たばさみ 立ち対ひ、射る的方マトカタは、見るにさやけし(万葉巻一)
橘をの家の門田早稲 刈る時過ぎぬ。来じとすらしも(万葉巻十)
後の歌などは殊に、約束の秋即稲刈りの時節が過ぎたのに、と言ふ風に見えるが、実は「時」を起すだけなのは極端である。
葛飾カツシカ真間マヽてこながありしかば、真間のおすひに浪もとゞろに(万葉巻十四)



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使


     

寿

()姿()()使()使()()()()
甚重イヤフタごもり しと思ふ(仁賢紀)
山川に鴛鴦ヲシ二つ居て、タグひよくタグへる妹を。誰かにけむ(孝徳紀)



みつ/\し 久米の子らが 粟生アハフには、かみら一本。其根ソネがもと、其根芽ソネメつなぎて、伐ちてし止まむ(神武記)

笹葉にうつや霰の たし/″\にねてむ後は、人ハカゆとも(允恭記)

姿
ふゆごもり 春の大野を焼く人は、やき足らじかも、わが心焚く(万葉集巻七)

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使
武蔵野にウラへ、カタき、まさでにも告らぬ君が名、ウラに出にけり(万葉巻十四)
()()姿()





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