橘曙覧評伝

折口信夫





 



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廿殿廿廿廿廿使西使廿()鹿西
()()調
廿廿廿廿使廿
廿廿廿廿西

姿


廿
湛へつる器の水に 鰭ふらせ、海川見ざる目をよろこばす
顔のうへに 水はしらせて飛ぶ魚を、見かへるだにも、眉たゆきなり
△窓の月 浮べる水に魚躍る。わが枕辺の広沢の池
ひれはねて 小き魚の飛ぶ音に、るともなくて 寝る目 あけらる
調()()使

愚にも まどへるものか。大勅オホミコト たゞ一道ヒトミチにいたゞきはせで
ミコトにそむく そむかず 正し見て、罪の有無アリナシ うたがひはらせ
調()()()

キミシコの御楯といふ物は、如此カヽる物ぞと進め。真前マサキに――小木捨九郎主に
第三句聊か、平俗調に近づいた嫌ひはあるが、之を救ふに到るだけの力ある喜びが、一首に充ちてゐる。
さしたつる 錦の旗の下に立つ身をよろこびて、大刀とりかざせ――岩佐十助主に
()
佐々木久波紫が大御軍人に召されて、越後路に下れる馬のはなむけに
負気オフケなくミコトに 背くヤツコ等を キタめ尽して帰れ。日を経ず
同じ時また、芳賀真咲に
大皇のミコトに 背く奴等ヤツコラの首引抜ヒキヌキて、八つもてかへれ
吉田重郎主に
大皇の勅 頭に戴きし功績イサヲあらはせ。戦ひのニハ
山内某 (佐左衛門)
大皇の勅 頭にいたゞきて ふるはん太刀に よる仇あらめや



 
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退※(「足へん+厨」、第3水準1-92-39)
天使の、はろ/″\下り給へりける(るに、?)あやしきしはぶるひ人ども、あつまりゐる中に、うちまじりつゝ、御けしきをがみ見まつる
隠士ヨステビト(?)も、市の大路オホヂ匍匐ハヒならび、をろがみマツる 雲の上人
天皇スメラギの大御使と聞くからに、はるかにをがむ膝をり伏せて
※(「示+古」、第3水準1-89-26)廿廿
大御政、古き大御世のすがたに立かへりゆくべき御いきほひと成ぬるを、賤ノ夫の何わきまへぬ物から、いさましう思ひまつりて
百千歳 との曇りのみしつる空 きよくハレゆく時 片まけぬ
あたらしくなる天地アメツチを 思ひきや。吾目クラまぬうちに見んとは
古書フルブミの、かつ/″\物をいひイヅる御世をつぶやく 死眼人シニマナコビト
スタれつる古書どもゝ動きいでゝ、御世あらためつ時のゆければ

武士
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君臣キミトオミ[#「君臣」の左に「キミオミノ」のルビ]品さだまりて 動かざる神国といふことを まづ知れ


()

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殿()()姿西
西※(「目+爭」、第3水準1-88-85)
ある時
何ごとも時ぞと念ひ、わきまへて みれど、心にかゝる世の中
ワスレむと思へど、しばしわすられぬ歎きの中に、身ははてぬべし
仮りに同じ趣きの、
水車 ころも縫ふ世となりにけり。岩根 木根立キネダチ 物言ひいでむ
調()調調
西

ある時
  
()※(「くさかんむり/合/廾」、第4水準2-86-39)  
 ()
 

()調
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ひとりごとに
幽世カクリヨに入るとも、吾は 現世ウツシヨに在るとひとしく 歌をよむのみ
歌よみて遊ぶ外なし。吾はたゞ アメにありとも ツチにありとも
文学における自然主義を通過した後の今人は、寧、ある点素朴である。其より前の人は、やはり文学の為の擬態といふべきものがあつた。昔ほど、其が見られる。漢文学によつて導かれた文人には、何としても、高士と謂つた気位の、作物の上に誇示せられる事が避けられなかつた。曙覧ほどの人であり、又歌その物を見ても、さして其があるとも思へぬが、尚此歌を直に心に移して、曙覧の印象を作つてはならぬ気がする。勿論此だけの覚悟もあり、又其よりも更に執著があり、もつと/\気稟の高さはあつたに違ひない。併し、彼の友常見野梅との交際などを中心にして見ると、極めて安易な気持ちも多かつたものと思はれる。だが、彼の生活及び性格が、記録・伝聞によつて考へられるよりも、彼の残した作物によつて組み立てる外のない今からは、作物に現れた彼を、凡彼其人と見て行くより外はないのである。だから、文学を通して見る曙覧は、此がその真の声、と言ふべきであらう。第一首は、語り過ぎて、散文より先の深さに入ることが少い。第二首は、やはり下の句になつて放散し過ぎた嫌ひはあるが、其だけにある旧風ながら深い文学味の、其句に感じられる点が優れてゐる。次の世を語るにしては、「遊ぶ外なし」が、空想を欠いた表現である。どうしても現世に持つて来ねば、思惟も出来ぬ現実派の文人だつたことを示してゐる。兼ねては又、写生主義以前に夙く、彼のある点まで写実態度を持つてゐた原因でもあるのだらう。彼は町人である。さうして隠士として、広い世間の事にかけては、春嶽・雪江の持つだけの知識はなかつた筈である。だから切迫した時代のとよみの中に、かうした「ひとりごと」も嘯いてゐたのである。此歌の前にある連作が七首。
赤心報国
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 ※(「月+(「寛」の「儿」を「兔」のそれのように)」、第3水準1-90-55)()() 
() ()
  
()  
 
()()調※(「月+(「寛」の「儿」を「兔」のそれのように)」、第3水準1-90-55)()調
失題
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此も失題といふ程のものではない。唯序を書けば、長くなり過ぎさうだといふだけのことのやうにも見える。歌には攘夷の情熱といふより、西洋文化の、武器といひ、機械工業といひ、段々入り込んで来るのに憂ひを持つて、末はどうなつて行くことか、と御国の後の姿を観じたのであらう。古典を生活の指標とし、古典を内生活に宿さうと努めた国学者の一人であつて見れば、当然深くさうした憂ひを抱いたに違ひない。此が、明治の御代になつても、尚長く続いて、
橿原の宮に還ると思ひしは、あらぬ夢にて ありけるものを――矢野玄道
()()()()()
調
便※(「口+它」、第3水準1-14-88)
ある時作る
クブサのみむさぼる国に、正しかる日嗣のゆゑを しめしたらなむ
神国の神のをしへを 千よろづの国にほどこせ。神の国人
綿()
咏剣
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()()()
調()()()()()調

人の刀くれけるとき
抜くからに 身をさむくする秋の霜 こゝろにしみて、うれしかりけり
間十次郎光興
血つきたる槍ひきさげて、落ちくさの柴のかくれが 我ぞさぐりし
近松勘六行重母
剣大刀 焼刃に 我と身をふれて、励ましやりつ。仇ねらふ子を

水奔る白蛇なして きらめける焼大刀見れば、独ゑまれつ
竹内篤主軍人の中にある
大刀とりて いづこへ行きし。あひそめて、まだ日もあらぬ妹を 打すて

福艸サキクサの 三サカに余る秋の霜。枕辺におきて、梅が香を嗅ぐ
芳賀真咲が江門へゆくに
大刀の緒にすがりこそせね。雪霙 ぬれむ旅路に やりたくはなし
河野通雄が刀佩き、氏名よぶことを公より許されける祝に
許されて 剣とり帯く民のヲサ。民はぐゝみに、ふるへ。ごゝろ
咏剣
肝冷す腰の白蛇 吾がタマはうづみ鎮めつ。山松の根に
狛逸也君の、其御名の心ばへを謌に詠みてくれよ、との給へるにより詠める
剣大刀壁によせおきて、胯長モヽナガにいねつゝ 高き鼾かくらむ
詠大刀(長歌略)
――藁屋詠草より――
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()()() ()()※(「低のつくり」、第3水準1-86-47)()()()() ()()()()()()()()()
三種神宝――内、一首
夜のまもり ひるの守りと、日の御子のかしこみませる 草なぎのタチ
(山田秋甫氏編、橘曙覧全集拾遺)
()()
調調
西調()調調()()



そゞろによみいでたりける
 
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()()()()()退()()
辿



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二 壮年の境涯


「……さいつとし、天の下のみまつりごとあらたまらむとせし頃は、アツしき病ひに煩ひで、今はのきはと見えたりしかど、誠ぬしが都よりのカヘさに、立ちよれるを引きとゞめて、衾手づからかいのけて、ありさまどもたづね聞き、今日こそ身のいたつきをも忘れたりけれ、と喜ばれしとぞ……」
便

橿()

これやこの 書看フミヽふければ、夜七夜も寝でありきとふ 神の筆あと

調






中根靱負を間にして、曙覧を見て居た春嶽は、恐らく過不足なく此二人の交渉を見たであらう。天保七・八・九年、彼二十五を過ぎて、学問・文学の覚悟が定まつたことが窺はれる。さうして其先導者となつたのが、中根氏だつたのである。此様子は、雪江自身の「中根師質行状」にも書いてゐる。
「余は始の程こそ、先達めきて物しつれ。暇なき官路に老い朽ち果てにたるを、翁はたゆまふ事なく……今はしも仰ぎ瞻るさへ目ばゆかるを……」





使姿




寿
()()宿
()()()()()

「……まな柱 学びの親と、天つ水 仰ぎまつりて、大船の 頼まむものと、むらぎもの 心は思へど、飛騨人のうつ墨縄の 速けく往きてもとはず、玉くしげ 二年三年、もみぢ葉の年を過ぎ来て、……牡鹿なす 膝折り伏せ、鵜じもの うなねつきぬき、おくて田の 遅れし我とめぐみまし、あなゝひまして、教へ子の列につらなべ、ときさとし教へまさねと、しづの男が仮り菴のいほに引く板の たゞひたすらにこひのみまつる」
と熱情が歌はれてゐる。だが其と同時に、大秀の歿した時の「師翁のみまかり給ひけるを悲しみてよめる」歌には、
析鈴サクスヾの五十鈴のすゞの 鈴屋の大人の命の……学子マナビコの兄とさしたる 春べ咲く 藤垣内フヂノカキツの本居の其翁(大平)しも、オムがしみ、称へましけるそこをしもあやに尊み、そこをしもあやにゆかしみ、まな柱 学びの父と、あらたまの この年ごろを 泣く子なす 慕ひまつりて、うるはしみ思へるものを、白玉の五百箇イホツつどひのえして……」




 
飛騨国にて、白雲居の会に、初雁
妹と寝る とこよ離れて、この朝明 鳴きて来つらむ初雁の声
同じ国なる千種園にて、甲斐国のりくら山に雪のふりけるを見て
旅ごろも うべこそさゆれ。乗る駒の 鞍の高嶺に、み雪つもれり


調調調()姿調調調調調
調
調調調姿
調調調調調調調調調調調調()調()
調姿調調調
()()()()()寿廿退

※(「にんべん+擔のつくり」、第3水準1-14-44)
()
調

歿姿

()()便



「……尚事物学邇止而、飛騨国邇翁御許邇在来時、汝奈何伝此事不勤有哉止依斯坐志乎痴鈍己等之身爾如斯有重荷負事者可堪母不有杼翁之志乃空成往乎将惜美、国爾帰而足羽御社神司馬来田主又学兄弟在某等七人::::::止相語……」
殿
歿()()※(「目+爭」、第3水準1-88-85)()
都にのぼりて、大行天皇の御はふりの御わざ果てにけるまたの日、泉涌寺に詣でたりけるに、きのふの御わざのなごり、なべて、仏ざまにものし給へる御ありさまに、うち見奉られけるを、畏けれど、憂はしく思ひまつりて
ゆゝしくも ほとけの道にひき入るゝ大御車の うしや。世のなか

御魚屋八兵衛
誠あれば、地下ツチノシタにて鳴く虫の声も 雲井にひゞくなりけり


きのふまで 吾衣手にとりすがり、父よ 父よと いひてしものを
此と、
健女みまかりて後、いくばくもあらぬほどに、山本氏がり府中にものして帰るさ、れいは待ちむかへよろこべりし、をさないがことを、せちに思ひいでゝ
声たてぬすもりかなしみ、ねぐらにも かへりうくする親鴉かな
調綿調
調姿姿
輿
便

()()()寿
()()
茶つみの謌、金屋氏の乞によりて、
茵華ツヽジバナ 匂ふ少女が玉手もて 摘みつる春の木の芽 めしませ



かきよせて 拾ふもうれし。世の中の塵はまじらぬ 庭の松葉マツノハ(朝ぎよめのついでに)
如何にも隠者らしい喜びを持つことに満足してゐる。だが、さうした生活ばかりでなかつた。
顔をさへ もみぢにソメて、山ぶみのかへさに来よる人の うるさゝ
(秋の頃、人しげく来にけるにわびて)

あるじはと 人もし問はゞ、軒の松 あらしといひて、フキかへしてよ(阿須波山にすみけるころ)

軒の松。昔の友といふばかり、わが山住みの年も経にけり――本居宣長


野辺に、藁屋つくりて、はじめて移りける頃、妻の、かゝる所のすまひこそいと恐しけれ。聞き給へ。雨いみじうなむふる。盗人などの来べき夜のさまなりなど、つぶやくを聞きて

春雨のもるにまかせて すむ菴は、壁うがたるゝおそれげもなし


野つゞきに家居しをれば、をり/\蛇など出でけるを、妻の見る毎にうちおどろきて、うたてものすごき処かなと言ひけるを、なぐめて
おそろしき世の人言にくらぶれば、※(「二点しんにょう+它」、第4水準2-89-84)ハヒいづる虫の 口はものかは
()()()()()
※(「二点しんにょう+它」、第4水準2-89-84)
のどかなる花見車のあゆみにも おくれて残る 夕日かげかな
「おくれて残る」の句は、彼の鋭さを消してしまつてゐるではないか。
閑居月
捨てられて 身は木がくれにすむ月の影さへうとき 椎がもとかな
ある部分の文学語――歌語――は歌の感じを調へかけて、而も他の多くの部分の鈍感になつた表現の為に、力を失うて了うてゐる。
花ざかりに、玉邨江雪のもとにて
あだならぬ花のもとには たえず来て、年に稀なる人と いはれじ
調()()
人の刀くれけるとき
ヌクからに、身をさむくする秋霜アキノシモ。こゝろにしみて、うれしかりけり
調調姿

使
韓人カラビトの衣染むとふ紫の 心爾ココロニ染而シミテおもほゆるかも――麻田陽春(巻四、五六九)
使()()

()
世の中は とてもかくても過してむおなじこと(新古今)。宮も 藁屋も、果てしなければ
――今昔物語巻二四ノ二二

庭なる山吹の、秋、花咲きけるを見て
黄金色とぼしき屋所ヤドといふ人に 見せばや。秋の山吹の花

寿
西西
西西廿()

母の三十七年忌に(おのれ、二歳といふ年に、みまかり給へりしなりけり)
はふ児にて わかれまつりし身のうさは、面だに母を知らぬなりけり
ちようど此七年前、天保十三年には、父五郎右衛門の十七年忌を修した。其頃はまだ福井の町中に住んでゐたのであらう。
父の十七年忌に
今も 世にいまされざらむよはひにも あらざるものを、あはれ 親なし
髪白くなりても 親のある人も おほかるものを。われは親なし
姿
学ばでもあるべくあらば れながら、聖にませど それ 猶し学ぶ
――学ばざる人をうれへてよめる
大君のみことかしこみ、うつくしき妹をふりすて 旅する。我は――旅恋
――田安宗武
()()()調調
さきはひの 如何なる人か。黒髪の白くなるまで、妹が声聞く(万葉集巻七、一四一一)
姿
墓にまうでゝ
慕ひあまるこゝろ 額にあつまりて、うちつけらるゝ ツチの上かな
()()
竹間霰
村竹はことなしぶなり。砕けよと 風の霰は うちかゝれども
姿姿



 



使(一)(二)

松籟艸マツカゼ(?)グサ 第一集


阿須波山に住みけるころ
あるじはと 人もし問はゞ、軒の松 あらしといひて、吹きかへしてよ
※(白ゴマ、1-3-29)
飛騨国にて、白雲居の会に、初雁
妹とる とこよ離れて、このあさけ 鳴きて来つらむ初かりの声
同じ国なる千種園にて、甲斐国のりくら山に雪のふりけるを見て
旅ごろも うべこそさゆれ。乗る駒の 鞍の高に、み雪つもれり
苅萱
敏鎌とりかりしかるかや 葺きそへて 聞ばや(け?か?)、庵のあきの夜の雨
※(白ゴマ、1-3-29)
むすめ健女、今とし四歳になりにければ、やう/\物がたりなどして、頼もしきものに思へりしを、二月十二日より、痘瘡モガサをわづらひて、いとあつしてなりもてゆき、二十一日の暁みまかりたりける 歎きにしづみて
きのふまで 吾衣手にとりすがり、父よ 父よと いひてしものを
※(白ゴマ、1-3-29)
人の刀くれけるとき
抜くからに、身をさむくする秋の霜。こゝろにしみて、うれしかりけり
[#二重白ゴマ、461-15]
父の十七年忌に
今も 世にいまされざらむよはひにもあらざるものを、あはれ 親なし
髪しろくなりても 親のある人もおほかるものを。われは 親なし
母の、三十七年忌に
おのれ二歳といふ年に、みまかり給へりしなりけり
はふ児にて わかれまつりし身のうさは、面だに 母を知らぬなりけり
……よしや今はよくもあしくも己が心のむきにこそと、綴ぢたる物をもかたへにうちやりて
夕煙 今日はけふのみたてゝおけ。明日の薪は、あす採りてこむ
[#二重白ゴマ、462-8]
帰雁
春かけて 門田の面に群れし雁 一つも見えずなる日 さびしも
※(白ゴマ、1-3-29)
秋田家
※(「虫+乍」、第4水準2-87-38)イナゴマロ[#「虫+孟」、U+8722、462-12]うるさく出でゝとぶ秋の ひよりよろこび、人豆を打つ
[#二重白ゴマ、462-12]
越智通世が妻の、みまかりけるとぶらひに
亡き母をしたひよわりて 寝たる児の 顔見るばかり、憂きことはあらじ
木屋四郎兵衛が、父の喪にこもりをるに
言あらく いさめたまはむ声をだに 聞かまほしくや、せめてこふらむ
[#白ゴマの中に黒ゴマ、462-16]
与女見雪
イモとわれ 寝がほならべて、鴛鴦ヲシドリの浮きゐる池の雪を 見る哉
※(白ゴマ、1-3-29)
山家
白雲の行きかひのみを見おくりて、今日もさしけり。蓬生のカド
※(白ゴマ、1-3-29)
古書ども読み耽りをりて
真男鹿マヲシカの肩焼くウラに うらどひて、事アキらめし神代をぞ 思ふ
[#二重白ゴマ、463-5]
幽居雪
薄しろくなりて たまれる雪の上も 汚さで、一日見る庵かな
※(白ゴマ、1-3-29)
跡といふものはあらせぬ雪のうへに、心をつけて 独り見るかな
※(白ゴマ、1-3-29)
南部広矛が吾嬬へゆくに
わかれには、涙ぞ出づる。丈夫マスラヲも、人にことなるこゝろもたねば
※(白ゴマ、1-3-29)
五月
梅子ウメノミの うみて昼さへ寐まほしく 思ふさ月に、はやなりにけり
雨いみじう降りつゞきて、人皆わびにわびたりける頃、めづらしう晴れそめたる空を見やりて
天地も ひろさくはゝるこゝちして、まづあふがるゝ 青雲のそら
[#二重白ゴマ、463-15]

[#左にルビ付き]※(「髟/耆」、第4水準2-93-24)タテガミ[#左に「タツカミ(?)」のルビ付き終わり]をとらへまたがり、裸馬を 吾嬬男子アヅマヲノコの、あらなつけする
咏十二時抄

やゝたくる 野べの朝日をよろこびて、そゞろ飛びたつ いなごまろ哉
※(白ゴマ、1-3-29)

うつろひて南にかゝる日の影に、なまがわきする 花の上の露
※(白ゴマ、1-3-29)

目にあまる菜の葉の露の ひるさびし。機おる音も 里にとだえて

あさりありくトリも 塒にかへりきぬ。夕食ユフゲのつまをりに かゝらむ
[#白ゴマの中に黒ゴマ、464-9]

夕顔の花 しら/″\と咲きめぐる 賤が伏せ屋に、馬洗ひをり
静処落葉
ちり/\て つもる木の葉のうはじめり、風も 音なき庭となりけり
[#二重白ゴマ、464-13]
遠山見雪
はなれうき朝床いでゝ、をとめごが 黒髪山の雪を見るかな
[#二重白ゴマ、464-15]
雪朝
宵に逢へる人にはあらねど、朝寝顔 むかひくるしき 雪の色かな
※(白ゴマ、1-3-29)

著る物の縫ひめ/\に 子をひりて、しらみの神世 始まりにけり
※(白ゴマ、1-3-29)
綿いりの縫ひ目に カシラさしいれて、ちゞむシラミよ。わが思ふどち
屋上霰
音きけば、あないたやとぞ 唸かるゝ。身を打ちたゝく あられならねど
[#二重白ゴマ、465-5]
春よみける歌の中に
すく/\と 生ひたつ麦に 腹すりて、燕飛びくる 春の山畠
秋夜
つゞりさせ。夜ふけて虫の呼ぶ窓に、火あかくとぼし 在るは、誰が妻
※(白ゴマ、1-3-29)
戸にて、口より出づるまゝに
ふくろふの、糊すりおけと呼ぶ声に、キヌときはなち  イモは夜ふかす
※(白ゴマ、1-3-29)
こぼれ糸 網につくりて 魚とると、二郎 太郎 三郎 川に日くらす
我とわが心ひとつに語りあひて、柴たきふすべくらす 松の戸
※(白ゴマ、1-3-29)
人みなのこのむ諂ひ 言はれざる我も ひとつのかたはものなり
[#二重白ゴマ、465-14]
燈明寺ムラなる新田義貞公の石碑見まつりて

にひ田塚 たゝかひまけてうせぬてふ 文字よみをれば、野風身にしむ
[#白ゴマの中に黒ゴマ、466-1]
三線
寝おびれて 鳴くうぐひすかとばかりに、弾きかすめたる ものゝのよさ
[#二重白ゴマ、466-3]
酒人
とく/\と 垂りくる酒のなりひさご うれしき音を さするものかな
大石良雄
睡りつと あはめられしも、一くさの名しろとなりぬ。ますらをのため
[#二重白ゴマ、466-7]
間十次郎光興
血つきたる槍ひきさげて、落ちくさの柴のかくれが 我ぞ さぐりし
※(白ゴマ、1-3-29)
近松勘六行重母
剣太刀 焼き刃に 我と身をふれて、励ましやりつ。仇ねらふ子を
※(白ゴマ、1-3-29)
玉瀾女
此の筆は 眉根つくろふ筆ならず。山水ヤマミヅかきて、に見する筆
※(白ゴマ、1-3-29)
池無名
勢田の橋 その人とほく去りて後、すてし扇を 見欲しがる哉
[#二重白ゴマ、466-15]
人あまたありて、此のわざ物しをるところ見めぐりありきて
日のひかり いたらぬ山の洞のうちに、火ともし入りて、かね掘りイダ
赤裸の男子ヲノコむれゐて、アラガネのまろがり砕く 鎚うちりて
[#二重白ゴマ、467-1]
黒けぶりムラガりたゝせ、手もすまに 吹きトロかせば なだれ落つる かね
かへりかゝりけるに、はる/″\送りきて、今は別れむとするに、礼彦はた、こゝの任はてゝ、日を経ず、その国に帰るべきなりときけば
衣手コロモデの 飛騨は百重モヽヘの山のあなた。君もまた来じ。我も行きえじ
※(ゴマ、1-3-30)
君も来じ。我も行きえじと思へども、またゆくりなく 逢ふことも有らむ
[#二重白ゴマ、467-6]
秋訪田家
余所人ヨソビトは見なれぬ里の一くるわ 稲こきやめて、我をゆびさす
※(白ゴマ、1-3-29)
山家老松
眉白き翁出で来て、千とせ経る 門の山まつ 撫で褒むるかな
[#白ゴマの中に黒ゴマ、467-10]
漁村
家々の窓の火あかし。網むすぶ手わざに、夜をや ふかすなるらむ
※(ゴマ、1-3-30)
行路雨
※(白ゴマ、1-3-29)
雪江晩釣
島山の色につゞきて、釣夫イサリヲの着る笠白し。たそがれの雪
※(ゴマ、1-3-30)
安居村弘祥寺に、春ばかり、人々とゝもに行きて
すゝけたる仏のかほも はなやかに うち見られけり。うぐひすの声
※(白ゴマ、1-3-29)
ふるさと人小槌屋善六が八十八賀

知る人のなくなるが多きフルさとに、ひとりあるヲヂ 千代もかくもが


襁褓艸ムツキグサ 第二集


暇なき田廬タブセの しづのなりはひや、昼は茅かり、夜は綯索ナハナ
※(白ゴマ、1-3-29)
水風涼
枕より あとより通ふ風のよさ。水ある宿の 竹のしたぶし
※(ゴマ、1-3-30)

シヅイヘ這入ハヒリせばめて 物うゝる畑のめぐりの ほゝづきの色
[#二重白ゴマ、468-10]
山家床
土牀ツチノユカむしろの上に、しかたも 行末もなく いびきかくらむ
[#二重白ゴマ、468-12]
をりにふれて、詠みつゞけゝる
起き臥しも やすからなくに、はながたみ 目ならびいます 神の目おもへば
※(ゴマ、1-3-30)
閑庭霜
庭中に 来たつ狐のもの音を 枯れ生の霜に聞く夜 さむしも
※(ゴマ、1-3-30)
わらはの、朝いしつゝなきいさちけるを、いたくさいなみ、うちたゝきなどしける時
撫るより打つは、めぐみの力入り アツかる父のたなうらと 知れ
※(ゴマ、1-3-30)
ことし、父の三十七年、母の五十年のみたままつりつかうまつる
なにをして 白髪おひつゝ老いけむと かひなき我を いかりたまはむ
富田礼彦ヰヤヒコがむすめの、みまかりけるとぶらひに
墨をすり 木の芽を煮やし、朝夕につかへし容儀スガタ 忘れかぬらむ
※(ゴマ、1-3-30)
妓院雪
庭の雪 たはれまろがす少女ども。其の手は、誰にぬくめさすらむ
侠家雪
真荒男マスラヲが手どりにしつる 虎の血のたばしり 赤し。門のしら雪
まれ人を屋所ヤドに残して、鳥うちに 我は出でゆく。たそがれの雪
[#二重白ゴマ、469-12]
薔薇
羽ならす蜂 あたゝかに見なさるゝ 窓をうづめて咲く さうびかな
楳子
アマづゝみ 日を経て、あみ戸あけ見れば、※(「てへん+票」、第4水準2-13-45)ちて梅あり。その実三つ 四つ
[#二重白ゴマ、469-16]
青牛翁の許とぶらひてありけるついで、殊更に乞ひて、書画どもとり出させ見ける時
古ものゝ中に、君をもすゑおきて、今の世ならぬ品と 見るかな
※(ゴマ、1-3-30)
ひた土に、莚しきて、つねに机すゑ置くちひさき伏せ屋のうちに、竹生ひいでゝ、長うのびたりけるを、其のまゝにしおきて
壁くゞる竹に 肩する窓のうち。みじろくたびに かれもえだ振る
中根君のカウじかうぶりて、こもりゐ給ふころ、独言に、詠みつゞけゝる
年魚アユとると 網うちヒサげ、川がりに行きます時に なりけるものを
※(ゴマ、1-3-30)
府中の松井耕雪が、大きなる黒木もて作りたる火桶くれけるを、膝のへにすゑおき、肱もたせ、頬づゑつき、朝夕の友とす
よそありきしつゝ帰れば、さびしげになりて、ひをけのすわりをるかな
[#二重白ゴマ、470-10]
つれ/″\なるまゝに
一人だに 我とひとしき心なる人に遇ひ得で、此の世すぐらむ
[#二重白ゴマ、470-12]
うまれつき 拙き人にまじらへば、わかれて後も、こゝちあしきなり
[#白ゴマの中に黒ゴマ、470-13]
寒艸
枯れのこる茎 うす赤きイヌタデ[#「菴−大」の「日」に代えて「臼」、470-15]の腹ばふ庭に、霜ふりにける
[#二重白ゴマ、470-15]
田家灯
シヅどちの、夜もの語りのありさまを 篁ごしに見する ともし火
[#二重白ゴマ、470-17]
銭乏しかりける時
米のセニなほたらずけり。歌をよみ、文を作りて、売りありけども
※(ゴマ、1-3-30)
島崎土夫主の、軍人の中にあるに
帰り来ば、脚結アユひの紐も とかぬに、まづ顔見せよ。待ちつゝあるぞ
[#白ゴマの中に黒ゴマ、471-4]
朝夕にあひて語らふ君来ねば、さびしき庵に さびしくぞ居る
[#二重白ゴマ、471-5]
佐野君のもとに
君はやく 帰れをとのみ思はれつ。み母のみ顔 見るたびごとに
[#二重白ゴマ、471-7]
畑中君のもとに
髪白き翁にてます父君を おきて行きつるこゝろ いかならむ
※(ゴマ、1-3-30)
()
あるじをも こゝにかしこに追ひたてゝ、壁ぬるをのこ 屋中塗りめぐる
[#二重白ゴマ、471-16]
千松湾雨声
浜づたひ イサゴたゝきて降る雨に、こずゑ鳴りる 松の村だち
蘭画
山に生ひて、人きらふらむ花の絵を みかはやうども 画く世なりけり
[#二重白ゴマ、472-2]
門柳
陽炎のもゆる岡辺に、つくる屋のかどの青柳 風に枝ふる
※(白ゴマ、1-3-29)
藁ぶきに ニハトリさけぶ賤がカド。一もと柳  昼しづかなり
人に示す
眼前マノアタリ 今も神代ぞ。神なくば、艸木も生ひじ。人もうまれじ
※(ゴマ、1-3-30)

春明艸ハルアケ(?)グサ 第三集


正月のついたちの日、古事記をとりて
春にあけて まづ看るフミも、天地の始の時と 読みいづるかな
海浦妙泉寺とぶらひける時
魚多き浦辺にいりて、魚食はぬ寺にやどりつ。二夜さへにも
※(ゴマ、1-3-30)
美人撲蝶図
うつくしき蝶ほしがりて、花園の花に 少女の汗こぼすかな
※(ゴマ、1-3-30)
敗荷
茎折れて、水にうつぶす枯蓮の 葉うらたゝきて、秋の雨ふる
※(ゴマ、1-3-30)
夜山
影垂るゝ星にせまりて、薄黒き色たゝなはる おぼろ夜の山
雲荘畊隠図
吾が庵を 外山の雲の末に見て、小雨コサメふる田に、牛ぬらすかな
※(ゴマ、1-3-30)
万竹図
ありと有る竹に 風もつ谷の奥。水の響きをそへて 鳴り
河隈のイハホに根ふ竹と 竹。なびきぞメグる。水を狭めて。
※(白ゴマ、1-3-29)
タニめぐり流るゝ水を はる/″\と 靡き おくりてつゞく 竹かな
※(白ゴマ、1-3-29)
滑らかに露もつ苔路 風ありて、下陰ぐらき竹の奥かな
※(白ゴマ、1-3-29)
疎竹三禽図
茂からぬ一もと竹の 細き枝に、乗りて親まつ 雀の児三(?)つ
※(白ゴマ、1-3-29)
山がらと 雀と二つ、今一つ 何鳥なれか、竹くゞりをる
※(白ゴマ、1-3-29)
竹の霜 うちとけ顔に、頭三つ 集めてかたる 友すゞめかな
竹の霜 解けて雀の睡るかな。三つ 一枝に、羽をまろめて
※(白ゴマ、1-3-29)
山中
()()()()
※(ゴマ、1-3-30)
画石
筆採りて 五日経にけむ明けがたに、ほの/″\ 石の 形見せけむ
※(白ゴマ、1-3-29)

福艸サキクサの 三尺ミサカに余る秋の霜 枕辺におきて、梅が香を嗅ぐ
※(白ゴマ、1-3-29)
(南部広矛北潟の鮒贈りくれたる)この中に、二つといふものは、ことに能く動くやうなりければ、物に水いれて放ちおきけるに、日を経て益※(二の字点、1-2-22)勢づきけるを見る/\
静かなる こゝろの友と見をるかな。鰭ふる魚に、我もまじりて
※(白ゴマ、1-3-29)
わざをなみ、静かにあそぶ魚ぞ善き。夜中 暁 いつ見ても、はた
[#白ゴマの中に黒ゴマ、474-7]
戯れに
吾が歌をよろこび、涙こぼすらむ。鬼のなく声する 夜の窓
※(白ゴマ、1-3-29)
春水満四沢
道の辺の桑の立ち木も、沢水の中になりたり。春の雪どけ
※(白ゴマ、1-3-29)
首夏
若葉さすころは、いづこの山見ても 何の木見ても、麗しきかな
※(白ゴマ、1-3-29)
里梅
風のうめ 斜にふきて、ちりぞ入る。藁うつ戸口 牛吼ゆる窓
[#二重白ゴマ、474-15]
里に入る すなはち、にほひ嗅せつる梅に来にけり。石橋のつめ
※(ゴマ、1-3-30)
池蓮
しづまれる華うごかして、夕蛙 はす咲く池を とびくゞるかな
※(ゴマ、1-3-30)
独楽吟
たのしみは、艸のいほりの莚敷き ひとり 心を静めをるとき
※(白ゴマ、1-3-29)
たのしみは、妻子メコむつまじくうちつどひ、頭ならべて 物をくふ時
たのしみは、空暖かにうち晴れし 春秋の日に、出でありく時
[#二重白ゴマ、475-5]
たのしみは、心にうかぶはかなごと 思ひつゞけて、煙艸すふとき
※(白ゴマ、1-3-29)
たのしみは、銭なくなりて わびをるに、人の来りて、銭くれし時
※(ゴマ、1-3-30)
たのしみは、昼寝せしまに、庭ぬらし ふりたる雨を さめて知る時
たのしみは、昼寝目ざむる枕べに、こと/\と 湯の煮えてある時
[#二重白ゴマ、475-9]
たのしみは、機おりたてゝ新しきころもを縫ひて、妻が着する時
たのしみは、人も訪ひこず 事もなく、心をいれて 書を見る時
※(白ゴマ、1-3-29)
たのしみは、田づらに行きしわらは等が、耒鍬スキクハとりて 帰りくる時
※(白ゴマ、1-3-29)
たのしみは、ワラハ墨するかたはらに、筆の運びを思ひをる時
※(白ゴマ、1-3-29)
たのしみは、神の御国の民として、神の教へを ふかくおもふとき
山室山にのぼりて、鈴屋先生の御墳拝みて
おくれても 生れし我か。同じ世にあらば、履をもとらましヲヂ
[#二重白ゴマ、475-16]
みやこに上りてありけるころ、山紫水明処といふ離れ屋にやどりをりて
紫に匂へる山よ。透きとほる水の流れよ。見あく時なき
※(ゴマ、1-3-30)

[#左にルビ付き]君※艸キミキ(?)グサ[#「走にょう+來」の「土」に代えて「彡」、476-2][#左に「キミクル(?)クサ」のルビ付き終わり] 第四集



かひありと 思はれぬるは、世の中に 桜見くらす日数なりけり
※(ゴマ、1-3-30)
()()
人麿の御像ミザウのまへに 机すゑ、トモシビかゝげ 御酒ミキそなへおく
※(白ゴマ、1-3-29)
マウけ題 よみてて来る歌どもを 神の御前に、ならべもてゆく
※(白ゴマ、1-3-29)
こと/″\く 歌よみいでし顔を見て、やをら 晩食ユフ(?)ゲ折敷ヲシキならぶる
※(白ゴマ、1-3-29)
老いし妻の、飯匕イヒガヒとりて盛りたるを、一口 君にさゝげ見まほし
※(白ゴマ、1-3-29)
ヲセ(?)[#「食」の左に「クヘ(?)」のルビ]と すゝめゝぐりて、とぼしたる火もきえぬべく、人突きあたる
※(白ゴマ、1-3-29)
客人マレビトも あるじも 身をぞ縮めをる。下えつよき 狭き屋のうち
※(白ゴマ、1-3-29)
戸をあけて還る人々 雪白くたまれりといひて、わび/\ぞ行く
閨怨
火にハジタマの音づれ づおづも 吾がのゆくへ 人に問はるゝ
[#二重白ゴマ、477-3]
荒き波 よる昼思ひさわがれつ。水漬ミヅく屍に、君や まじると
[#二重白ゴマ、477-4]
初午詣
稲荷坂 見あぐるアケの大鳥居。ゆり動して、人のぼり来る
伊吹舎先生の書きすて給へりし反古一ひら、今の先生よりうけて、持ち伝ふるに、哥一つそへてくれよ、と芳賀真咲がこひけるにより、詠みてあたへたる
これや此の 書看フミミふければ、夜七夜も 寝でありきとふ 神の筆蹟フデアト
聚蟻
地上ツチノウヘちて朽ちけむ クダモノウリワタ[#「襄+瓜」、U+74E4、477-11]くろめて、蟻のむらがる
※(白ゴマ、1-3-29)
赤心報国
真荒男マスラヲが 朝廷ミカド思ひの忠実心マメゴヽロを血に染めて 焼刃ヤキバ見澄ます
[#二重白ゴマ、477-12]
国汚す奴あらばと 大刀抜きて、仇にもあらぬ 壁に物いふ
※(白ゴマ、1-3-29)
ひとりごとに
歌よみて、遊ぶ外なし。吾はたゞ アメにありとも ツチにありとも
※(白ゴマ、1-3-29)
河野通雄が、刀佩き氏名よぶことを公より許されける祝ひに
うけばりて 世に氏の名をよぶことを 許し給ひき。河野氏カウノウヂの家
※(ゴマ、1-3-30)

白蛇艸シロヘミ(?)グサ 第五集


咏剣
肝冷す腰の白蛇。吾がタマはうづみ鎮めつ。山松の根に
[#二重白ゴマ、478-4]
破研
山に在りて 磨りやぶりたる古硯。奪はむとにや 雲窓に入る
※(白ゴマ、1-3-29)
破れたる硯いだきて、窓囲む竹看る心 誰にかたらむ
[#二重白ゴマ、478-7]
砕きつる吾が腕臂ウデヒヂのなごりをば 窪みに見する 古研フルスヾリかな
[#二重白ゴマ、478-8]
※(「王+占」、第4水準2-80-66)カケガハラ 硯ひとつに心いれて、山買ふ銭を 無くしたりけり
[#二重白ゴマ、478-9]
古硯 ゆがみし石は、吾がたから。価かたるな。軒の山松
※(白ゴマ、1-3-29)
愚にも 山をしかな。※(「王+占」、第4水準2-80-66)カケガハラ硯嚢にいれて、はる/″\
※(白ゴマ、1-3-29)
松の露うけて墨する雲のホラ。硯といふも、山のイシくづ
※(白ゴマ、1-3-29)

福寿艸サキ(?)クサ 補遺


大御政、古き大御世のすがたに立ちかへりゆくべき御いきほひと成りぬるを、賤夫の何わきまへぬものから、いさましう思ひまつりて
百千歳 との曇りのみしつる空 きよく晴れゆく時 片まけぬ
あたらしくなる天地を 思ひきや。吾が目クラまぬうちに見むとは
ある時
友ほしく 何おもひけむ。歌といひ、書といふ友ある我にして
※(ゴマ、1-3-30)
※(「くさかんむり/合/廾」、第4水準2-86-39)クサノイホ さひづりめぐる朝雀 寝耳に聞きて 時うつすかな
[#二重白ゴマ、479-5]
天使の、はる/″\下り給へりける、あやしきしはぶるひビトども、あつまりゐる中にうちまじりつゝ、御けしきをがみ見まつる
天皇スメラギ[#「天皇」の左に「オホキミ(?)」のルビ]大御使オホミツカヒと聞くからに、はるかにをがむ。膝をり伏せて
紙漉き
家々に 谷川引きて 水湛へ、歌うたひつゝ 少女紙すく
[#二重白ゴマ、479-10]
紙買ひに来る人おほし。さねかづら這ひまとはれる 垣をしるべに
[#二重白ゴマ、479-11]
黄昏に咲く花の色も、紙を干す板のしろさにまけて、見えつゝ
[#二重白ゴマ、479-12]
鳴きたつる蝉にまじりて、草たゝく音きかするや、紙すきの小屋
[#二重白ゴマ、479-13]
示人
天皇スメラギ[#「天皇」の左に「オホキミ(?)」のルビ]は 神にしますぞ。天皇のチヨクとしいはゞ、かしこみまつれ
天下アメノシタ清く払ひて、上古カミツヨまつりごとに復る よろこべ
物部モノノフのおもておこしと 勇みたち、錦の旗をいたゞきて行け
※(白ゴマ、1-3-29)
岩佐十助主に
さしたつる錦の旗の下に立つ 身をよろこびて、太刀とりかざせ
※(白ゴマ、1-3-29)

山田秋甫編纂橘曙覧全集拾遺


咏十二時
寅時
はだぶき 簷端にせまる星みれば、しのゝめ近く成ぬ。此夜も
(原文、に見える字なのだらう。ヲザシの事をいふのらしいから、をかたぶきゐ(居)かたぶきであらう。)
丑時
漏水モルミズのおとも さびしくふけにけり。人まちよわ?り うしといふまで
※(白ゴマ、1-3-29)
失題
そゝぎつる野路の朝雨 かつはれて、たくる日影に、いなごとぶなり
※(ゴマ、1-3-30)※(ゴマ、1-3-30)
万歳
故郷の三河は、梅もさき さかずしらで、都の春に馴?るらむ
[#二重白ゴマ、480-14]
[#改ページ]


 


稿寿姿歿













 14
   19968525

   19411695

   194116328
kompass

201386
2014630

http://www.aozora.gr.jp/







 W3C  XHTML1.1 



JIS X 0213

JIS X 0213-


二重白ゴマ    461-15、462-8、462-12、463-5、463-15、464-13、464-15、465-5、465-14、466-3、466-7、466-15、467-1、467-6、468-10、468-12、469-12、469-16、470-10、470-12、470-15、470-17、471-5、471-7、471-16、472-2、474-15、475-5、475-9、475-16、477-3、477-4、477-12、478-4、478-7、478-8、478-9、479-5、479-10、479-11、479-12、479-13、480-14
「虫+孟」、U+8722    462-12
白ゴマの中に黒ゴマ    462-16、464-9、466-1、467-10、470-13、471-4、474-7
「菴−大」の「日」に代えて「臼」    470-15
「走にょう+來」の「土」に代えて「彡」    476-2
「襄+瓜」、U+74E4    477-11


●図書カード