可児君の面会日

岸田國士




可児かに
可児夫人
女中
織部
木暮妙
鳥居冬
駒井
毛利

斎田
[#改ページ]

一月十二日午後――
極めて平凡な客間兼書斎

可児君  今日こそゆつくり寝てゝもよかつたんだ。下らないことに気をつかつたりなんかして――見ろよ、一人も来ないうちから、もう草臥れた。(仰向けに寝ころがる)
  
可児君  それでよろしいもんか。座蒲団は借りてあるか。
夫人  五枚揃つてれば沢山ですわ。
可児君  でも、初めての面会日だからね。普段来たこともない奴まで、思ひ出してやつて来るかも知れないよ。
  
  
夫人  あたくしは、さういふことは真平ですよ。面倒なことは出来るだけはぶくといふのが、あたくしの生活のモツトオなんですから……。
  
夫人  有難いもんですわね。
可児君  冗談でなくさ。お前は、さう思はないかい。
  
可児君  どうして?
夫人  あなたお一人が、だんだん高いところへ上つて行つておしまひになるやうな気がするのは、いやですわ。
  稿
夫人  (さういふ冗談口には馴れてゐるらしく、夫の口先の感激に何等の反応を示さず、机に向つてペンを動かしてゐる)
可児君  昭和二年二月十二日……か、雪は降るまいなあ。
夫人  …………。
  
夫人  いゝんですよ。
可児君  どうしていゝ? どうしていゝつて云ふんだ。さうかなあ。
夫人  紋付でもお召になりたいんですか。
可児君  なりたかないさ。誰でもさうか知ら。
  
可児君  お前は、女に似合はず、ドオデモイイニストだね。
夫人  …………。
可児君  物事にけじめをつけることが嫌ひだね。
夫人  …………。
  
  

可児君  そこは肝腎な処だから気をつけてくれよ。




女中  (現る)あの、織部さんがいらつしやいました。
夫人  (夫に笑ひかけ)どうしませう。
  
夫人  (座蒲団を出し奥にはひる)
可児君  (机の上を片づけ、さも今まで仕事をしてゐたやうな顔つきで訪問客を待ち受ける)
織部  (女中に案内されて入つて来る)やあ、しばらく……。
可児君  やあ、端書着いた?
織部  あれを見て、今日ならきつとゐると思つてやつて来たんだが、忙しいんぢやない。
  
織部  だからさ……。しかし、月一回は少かないか。
可児君  会ひたい人間には何時でも会へるんだからね。
  
  
  
夫人  (茶を運んで来る)いらつしやいませ。
織部  やあ、先日は。
  
織部  ありがたう。だんだん御盛んで結構です。
   
  
織部  どうしてまた、十二日としたの。
夫人  可児の誕生日なんですの。
織部  あ、さうだつたか。
可児君  自分でも覚え易いしね。
  
可児君  満三十三さ。
織部  若いね。
夫人  あら、いくつお違ひになるんですの。
(勿論、相手の年は知つてゐて、さういふのである。眼附でそれがわかる。奥に去る)
織部  処で、実は、少し頼みがあつて来たんだがね。
可児君  まあ、後でいゝぢやないか。あとでゆつくり話さう……。
  
  
織部  それがね、その話といふのが、ほかでもないが……。
(此の時、「御免下さい」といふ女の声)
ぢや、また、のちにしよう。
可児君  (抑へきれぬ微笑)一寸楽しみだよ、これでね……。(耳をそばだてる)
女中  (現る)木暮こぐれさんがいらつしやいました。
可児君  (首をかしげ)木暮……?
女中  あの、若い女の方で御座います。
可児君  …………。
女中  此の前、一度見えたことがおありになるんですけれど……。
可児君  あゝ、さうか……。(一寸考へて)いゝから、お上りなさいつて……。
織部  (察して)愛読者かね。
可児君  うん、いや、作家志望の娘さんだ。
  
可児君  さうですか、それやどうも……。
鳥居冬  (丁寧にお辞儀する)どうぞよろしく……。
可児君  学校は、おんなじなんですか。
木暮妙  はあ。でも、あたくしの方が、一年前に出ましたんですの。
可児君  へえ、あんたの方が後みたいだが。
   
可児君  鳥居さんですか、あなたも、何か書いてらつしやるんですか。
鳥居冬  いゝえ。
女中  (茶を運んで来る)
  
織部  いやあ……。
  
織部  もういゝよ、君、紹介はそれくらゐで……。(何気ないやうに笑ふ)戯曲はあんまり読まないでせう。
木暮妙  戯曲は読んでもわかりませんもの……。先生はどういふ雑誌にお出しになりますんですの……。
織部  僕ですか。さあ、あなたがたには縁のない雑誌ですよ。
木暮妙  「花園」へはお書きになりませんわね。
織部  あゝ、あゝいふ方へは……。
可児君  「花園」ばかりが文芸雑誌ぢやありませんよ。
木暮妙  えゝ、それはさうですけれど……。
織部  (思ひ出したやうに)ハヽヽヽヽ。
木暮妙  あの、先生が今月の「花園」へお書きになりましたもの、あたくし、少しわからないところがあるんですけれど……。
  

 

(長い沈黙)
(此の時、また玄関で、「御免」といふ声。やがて、女中が名刺を持つて来る)

  
女中  はい。
線部  今日は面会日だから、別の日に来いは可笑しいぢやないか。

可児君  うむ。


(女中去る、長い沈黙)

  
可児君  どんな用か聞いて御覧。よし、おれが行かう。(起つて出て行く)
織部  (名刺をのぞき)関東土地株式会社……。土地でも買はれたんですか。
夫人  いゝえ、さうだとほんとに結構なんですけれど……。
夫人  (女たちに菓子を薦めながら)どうぞお一つ……。(織部に)此の頃、碁はなさいませんの。
  
  
客  はあ、いえ、別に、こちらはなんですけれど……。(座につく)
  
駒井  はあ、いえ……。(頭を掻く)
可児君  それで早く云ふと、土地を買へつて云ふんでせう。僕んとこにや、そんな金はありませんよ。
  
可児君  そのお話といふのは、何か、文学と関係があるんですか。
織部  「土の文学」といふのがあるね、近頃……。
  便
可児君  わかりました。広告文を書けつて云ふんでせう。
  
可児君  はゝあ、宣伝をしろと云ふんですね。
  
織部  何処です、その土地といふのは……。
可児君  恋人なんか連れて行きさうもないところだよ。きつと……。
  
可児君  その文章は君が作つたんですか。
駒井  はあ、いえ……。(また頭を掻く)
木暮妙  (袖で顔をかくして笑ふ)
織部  その広告文ぢや、君、荻窪や吉祥寺と変つたところはないぢやありませんか。
駒井  はあ、しかし、ずつと東京から離れますからして……。
可児君  それぢや、なほ……。
駒井  いえ、近頃は、それくらゐ離れた方が静かでいゝとおつしやる方が、大分殖えて来たやうで御座います。
  
駒井  はあ、その点はまた更めて御相談いたしますが……。
織部  土地を只でくれるんぢやないんですか。
駒井  はあ、いえ……。うんと割引ぐらゐ致してもよろしう御座います。
織部  割引か……。それぢやつまらん。
  
  
駒井  御冗談……。作者は、それこそ、主人公の運命を握つておいでになるんですから……。
  
可児君  さうし給へ、織部君に頼み給へ。
  
駒井  (惶てゝ)はあ、いえ……。
  
  
  
  

織部  その心配は御無用……。なんて、嘘ですよ、そんな話は……戯談ですよ。


(駒井を除いたほかのもの、みんな笑ふ。此の時「御免下さい」といふ声)
(沈黙)

駒井  もう少しお邪魔さしていたゞいてよろしう御座いませうか。
可児君  もう、その話は打ち切りにしませう。それでよけれや……。
女中  (笑ひながら現る)あの毛利さんでいらつしやいます。
可児君  お上りつて……。
女中  あんまり大勢さんならばつておつしやるんで御座いますよ。
可児君  お客さんがかい。いゝからお上んなさいつて……。
女中  (去る)
木暮妙  あのあたくしたち、お暇いたしますわ。
  
木暮妙  でも……男の方でせう。
可児君  男だといけないんですか。
鳥居冬  (木暮に)ほんとに、お邪魔だといけないわ。
木暮妙  ぢや、もう少し……。(腕時計を見ながら)もう十分……。
織部  どつちへお帰りですか。
木暮妙  あたくしは、赤坂……。この方、本郷でいらつしやるんですの。

織部  僕も本郷ですから……、それぢや……。本郷は何処です。


(大学生少し恐縮して入り来る)

毛利  今日は、こんなことだらうと思つて、余程此の次にしようかと思つたんですけれど……。
可児君  このつぎだつて、おなじことだよ。学校はもう済んだの。
毛利  僕はまだ行かないんです。あ、先生の今度の拝見しました。
  
毛利  (考へて)あ、さうですか。
  
木暮妙  (引き取つて)鳥居冬子さま……。
可児君  若い人達を引き合はすのは、好い気持だね。なんとなくビリビリと来るもんがあつてね。
駒井  先生方にかゝつちや敵ひませんな。
女中  (茶を運んで来る)
可児君  (毛利に)此の間の問題はどうなつたの。
毛利  あのまゝです。

可児君  それや困るね。なんとかなりさうなもんだね。


(長い沈黙)
(また「御免遊ばせ」といふ声)

織部  なかなか来るね。
木暮妙  あたくしたち、失礼いたしますわ。
可児君  まあいゝでせう。
織部  僕も、失敬しようか。
可児君  まだよからう。
女中  (現る)佐伯さんつておつしやる御婦人の方で御座います。
可児君  どんな人?
女中  あの、三十ぐらゐの、品のいゝ方で御座います。
  
夫人  (現る)は?
  
夫人  さあ。
  
  
  
  ()
織部  それから、六でも割り切れますな。
夫人  どうですか……。それに一年は十二ヶ月で御座いませう。
織部  それから、子丑寅の十二支といふ奴ね。
  
織部  そんなこと云へば、わたしと家内とは十二違ひですよ。
夫人  あら、不思議ですわね。
  
織部  僕はどつちかといふと七とか十三とかいふ数が好きだね。(毛利に)あなたはどうです。
毛利  さあ、僕は、さういふことを考へたことはありませんが……。(木暮と鳥居に)あなた方はどうですか。
木暮  (鳥居と顔を見合せながら)あたくし、やつぱり十二が好きですけれど……。十六もよろしう御座いますわね。
織部  なるほどね。あなたは……。
鳥居  あたくし、一が好きですわ。
織部  これや、よほど深い意味がありさうだな。君はどうです。
  

棚驚 こりや名言だ。


(一同笑ふ)

駒井  (名誉恢復を思ひたち)十は如何でせう。


(誰も相手にしない。長い沈黙)
(「頼まう」といふ大きな声)

女中  (現る。名刺を差し出す)
  ()
織部  誰だい。
可児君  (新しい客を坐らせる場所をこしらへながら)此処ぢや、ちよつと狭いね。
夫人  (現る)毛利さん、恐れ入りますが、その座蒲団を一寸……。あなたはよろしいでせう。
毛利  (敷いてゐるのを外し)僕、もう、帰りませうか。
可児君  うん、まあ、いゝさ。気の毒だなあ。
泊  (訝しげに、あたりを見廻しながら入り来る。何処に坐つていゝか一時ためらつてゐる)
織部  さあ、どうぞ、あちらへ……。
泊  (入り口に坐り、織部に向ひ、割合に打ち解けた調子で)やあ、しばらく……。
織部  (間誤ついて)可児君はあちらです。
  
可児君  さうかね。君、泊君かね。
泊  変つたかね。さういふ君も……なるほど、声を聞けば、たしかに昔の君だ。
可児君  今、どうしてゐる。
  
可児君  いや、面会日なんだ。
  
  
  
可児男  まあ、いゝぢやないか、そんなことは……。
  
可児君  今日はね、月に一回の面会日で、此の通り大勢お客さんが見えてゐるんだから、君一人と話をしてゐるわけに行かないんだ。
  
可児君  まづいとも……。君は、まだ、こゝにゐる人たちに挨拶もしてゐないんだぜ。
女中  (現る。名刺を差し出す)
可児君  (名刺を見ながら)原稿なら、当分駄目だ……。あ、奥さんに一寸つて……。
女中  (去る)
夫人  (現る)
可児君  これ、用事を聞いてね、原稿ならことわつてくれないか。
夫人  (笑ひながら去る)
  
泊  (それには応へず)面会日は何曜と何曜だね。
可児君  これが劇作家の織部九郎君だ。挨拶をし給へ。
泊  此の次の面会日は幾日……?
可児君  おい、君、織部君に挨拶をしろ。
夫人  (現る)あの……原稿も原稿ですけれど、一寸お目にかゝつて伺ひたいことがあるつて云ふんですけれど……。
可児君  忙しいつて云へ。
夫人  でも面会日なんですから……。
可児君  だから、人なんかに会つちやをられん。
夫人  そんな無茶なことおつしやつたつて……。ねえ、織部さん。
可児君  そんなら、どうとも勝手にしろ。
夫人  (起ち上りながら)上つて頂いてもようござんすね。
可児君  上る奴は勝手に上れ。
夫人  (去る)
織部  僕は、ぢや、失敬するから……。(起ちかける)
可児君  いや、君はまだ帰つちやいかん。
毛利  僕、お暇します。

可児君  君も帰つちやいかん。


(長い間)

木暮妙  あの、あたくしたち、もうなんですから……。(手をついて、お辞儀をしかける)

可児君  えゝと、あなた方はゐたつてかまひませんよ。


(間)

駒井  (仕方がなしに)ぢや、私が……。(坐り直す)
可児君  あ、さうして呉れ給へ。折角だが……。
  
可児君  なんですか。顔ですか。
駒井  (廊下へ出ながら)はあ、一寸、お顔を……。
可児君  (廊下へ出る。駒井の後ずさりする方へ機械的について行く。便所の戸口である)

駒井  (声をひそめて)先程お願ひしました一件で御座いますが……。


(此の時新しき客座敷に通る)

可児君  まあ、考へて置きませう。
  
  
駒井  はあ、どうも……。では、明日……。(便所の戸を開けかける)
可児君  帰るんなら、こつちですよ。
駒井  はあ、いえ……一寸……。(戸を開けてはひる)
可児君  (手持無沙汰さうに一つ時駒井の出て来るのを持つてゐる。がやがて座敷に帰る)
新しい客  わたくし、「亜細亜文学」の斎田で御座います。
可児君  もう沢山です。
斎田  は?
可児君  御覧の通りの有様ですから、とても原稿なんか書けやしませんよ。
  
可児君  僕の姓名は、そんなに変つてやしませんよ。
  
可児君  そんなことはどうでもいゝぢやありませんか。
斎田  でも……。さう致しますと、「可児」といふ字は、なぜ……。
  
木暮妙  (手伝つて)鳥居……。
  
斎田  それや、さうおつしやられゝばそれまでゞすが……。
  
  稿
  
木暮妙  どうぞ……。(鳥居冬に眼くばせして)それでは、また……。(一同に会釈して起ち上る)
鳥居冬  (これも会釈して起つ)
可児君  (座を起たうとせず)ぢや、これで失礼……。
木暮妙  (廊下に出て)あの……先生、一寸……。
  便便
駒井  (恐縮して)は、どうも、失礼……。(逃げるやうに玄関に去る)
  ()
可児君  さう……。なんなら此の次にお話を伺ひませう。
木暮妙  はあ、でも、なるべく急いでその方の始末をつけませんと……。
  
  
可児君  兎に角拝見して置きませう。
木蓉妙  どうぞよろしく……。(鳥居冬と二人玄関の方に去る。可児座敷に戻る)
泊  今の二人はなんだね。
可児君  (それには答へず毛利に)君は、何か用事はないの。
毛利  いえ、別に……。たゞ、一寸……。
可児君  なに? 此処ぢや云へないの。
毛利  えゝ。さつきの問題なんですけれど……。
  
毛利  でも……。

可児君  駄目だなあ、そんなことぢや……。そんなら、もう少し待ち給へ。


(長い沈黙)

織部  僕は、また出直して来よう。
可児君  君は急ぐ必要はないぢやないか。
織部  いや、それが、大いにあるんだ。
  
織部  うん、それがやつぱり、なんなんだ。
  
夫人の声  (奥から笑ひながら)こちらは、今、一寸、困るんですの。
織部  かまはないぢやないか、どこだつて……。
可児君  何してゐるんだい。それぢや、ねえやの部屋は、……あんまりかな。
女中の声  あら、どうしませう。
  
可児君  ぢや、さうしよう……。(起ち上る)

織部  (毛利に)では、失礼。(外に出る)


(両人玄関に行く)

泊  (毛利に)あなたは、まだお独りですか。
毛利  と云ひますと……。
泊  独りかと云へば、独身かといふことですよ。可児君は、あれで評判はいゝんですか。
毛利  さあ……。
泊  (奥に向ひ)奥さん。
夫人の声  (しばらくしてから)はあ。(現る)
  
夫人  あの……一昨年で御座いますの。
泊  一昨年……。さうすると、丁度、わたしが上の子供を失くした年ですな。
夫人  まあ。
  
  
毛利  …………。
泊  いま、そこで、どつかの子供が荷馬車に轢かれましたよ。ついそこの酒屋の角で……。
夫人  え、子供が……。
泊  (黙つて腕組みをして考へ込む)
夫人  (茶碗などを片づけ始める)
斎田  先生は今、お忙しいですか。
夫人  はあ、なんですか、時間がないやうで御座いますよ。お茶が冷めましたらう。(去る)
  ()()()()
斎田  どうも弱りましたな。先生のがないといふことになると一寸、此の企てが無意義になりますんで……。
  
斎田  はあ、今、一寸、もう一杯熱いお茶を戴いてから……。
可児君  さうか。(奥に向ひ)おい、熱いお茶を一杯……。
夫人の声  はい、只今……。
毛利  お疲れになつてるなら、僕も、これで……。
  
毛利  何時頃……?
可児君  何時でもいゝ。朝でも、晩でも……。
毛利  それぢや、さう願ひます。お邪魔しました。
夫人の声  毛利さん、只今、珈琲を入れますから……。
毛利  はあ、有りがたう。

女中  (珈琲を運んで来る)


(一同黙つて珈琲をすゝる)
(長い間)

泊  西洋では珈琲なんか飲む時、こんなに音を立てちや、いかんのださうだね。


(長い間)

斎田  東の海の林と書いて、なんと読むか御存じですか。
可児君  知らんよ、僕は、そんなことは……。

毛利  どうも御馳走さま……。ぢや先生……十六日に……。


(一同に挨拶して起ち上る)

可児君  は、よろしい。さよなら……。
毛利  (去る)
  
可児君  …………。
斎田  御免……。
可児君  ぢや、こゝで失敬……。

斎田  どうぞ……。(笑ひながら去る)


(極めて長い沈黙)

泊  今日は、もう暇なんだらう。
可児君  あゝ暇だよ……。(力なく両手で頭を抱へ机の上に肱をつく)
泊  ぢや、ゆつくりしてつてもいゝかい。

可児君  あゝ、いゝとも……。


――幕――






2
   1990228

   1930528
 
   1927231
5-86
tatsuki

201214

http://www.aozora.gr.jp/




●表記について


●図書カード