林檎のうた

片山廣子




麦の芽のいまだをさなき畑に向く八百屋の店は一ぱいの林檎
深山路のもみぢ葉よりも色ふかく店の林檎らくれなゐめざまし
立ちて見つつ愉しむ心反射して一つ一つの林檎のほほゑみ
みちのくの遠くの畑にみのりたる木の実のにほひ吾を包みぬ
手にとればうす黄のりんご香りたつ熟れみのりたる果物の息
すばらしき好運われに来し如し大きデリツシヤスを二つ買ひたり
宵浅くあかり明るき卓の上に皿のりんごはいきいきとある
わがいのる人に言はれぬ祈りなどしみじみ交る林檎のにほひ
人多く住みける家をおもひいづ林檎をもりし幾つもの皿
饗宴のをはりしあとの静かさに時計を聴きぬ電気あかりさやけく







   20041611301

   1953286


20101014

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