青き蜜柑
森川義信
愁ひ来て丘にのぼりて
酸(す)の香る蜜柑もぐなり
悲しみの青き蜜柑を
栗林こえて見ゆるは
背きにし君の町なるぞ
ゆふぐれに深く沈みて
掌(て)にしみる青き蜜柑よ
そをかみて何を思はむ
昔(かみ)の日は皆空しきに
ああされど君も寂しと
この丘の青き蜜柑の
その香りなぜか愛でたり
自らの影をふみつつ
ゆふぐれの丘を下りき
掌に悲し青き蜜柑よ
底本‥﹁増補 森川義信詩集﹂国文社
1991︵平成3︶年1月10日初版発行
初出‥﹁蝋人形﹂
1937︵昭和12︶年7月
※初出時の署名は﹁森よしのぶ﹂です。
入力‥坂本真一
校正‥フクポー
2018年8月28日作成
青空文庫作成ファイル‥
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