高い北の窓から朗かな光線が流れ、ストーブは居心地よく調節がとれた。整頓されたアトリエで画を描く事は実に気持ちがよい。 一時間、二時間、三時間。 少つとした疲労がくる。ソフアーに横になる。ウトウトと眠くなる。 安心とつかれが同時に自然な安眠をさそつたのだ。 ○ 彼等の全勢力を尽して築き上げた鋼鉄の船、エンヂンは完全に燃えて赤い火を吹き、船体は黄色に塗られた。船員は全部赤いジヤケツを身軽に着込み、大きな大きな靴をはいてガンヂヨウに大船に立つて並んでゐる。 船長も居なければ事務長も居ない。パイロツトも居ない。行先さえもわからない彼等の大きな船。 而し彼等は彼等の部処を完全に守れる豊潤な頬を持つた青年達。 正に出発をしようとしてゐる。 ○ 肩を誰かにたゝかれた。 びつくりして目をさます。 真剣な激情的な視線を僕は僕の体中に感じた。 僕はすぐ立ち上つて前進した。 そうしてデスクの上に白い紙を展げ宣言文を書き始めた。 ﹁僕はかねがねからこれ等の人達に魅力を感じ、シツトをほしいまゝにして居たのだ。そうしてそれ等の強い刺戟の中に飛び込む事は、僕にとつて大きな幸ひだ。これ等の精鋭な新人達と共に新芸術の研磨開拓に精進し、新しいゼネレーシヨンの実現に全力を尽す事は、男子一生の仕事として愉快だ。勿論僕は僕達が既知数だとは云ひ得ない。熱と若さとをふくむ未知数なのだ。未知数こそ僕達の友でこそあるのだ。﹂ ○ 各員各部処について大いに元気だ。 ドラが鳴つて、スクリユーは十三の急廻転を始めた。 グン〳〵前進。 前進、前進、前進。 この巨大な行先を持たない鋼鉄船は何処まで進むか。 進め、進め、進め、大きな船 幸ひ空には緑色の雲さえも見えない 暴風雨が来ても、如何に強い海流が来ても、警報を出さないこの大きな黄色の船。 或ひは暗礁に乗り上げるとも、 前進、前進、前進。 ︵﹁アトリヱ﹂昭和五年十二月︶