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盆と成女式
盆のままごとと正月のドンドン小屋と、今一つの似た点は成長段階、すなわち子どもが大人になる境(さか)目(いめ)を、かなりはっきりと区切っていることであった。遊びのままごとは七つ八つ、もう少し大きな児(こ)は冷淡になるに反して、この日は年かさの親玉ともいうべき者が采(さい)配(はい)を揮(ふる)って臨時に女の子ども組が組織せられる。讃(さぬ)岐(き)の小(しょ)豆(うど)島(しま)の餓(がき)鬼(め)飯(し)などは、十六、七歳の女子のみが参与するらしく、伊予の宇(う)和(わ)地方の御(おな)夏(つめ)飯(し)にも、年(とし)頃(ごろ)の娘ばかりの集会があるということだが、その他の多くの土地では頭(かしら)に立つ女は、もう一人前に近くなっていても、これに附(つ)き随(したが)う面々は村の少女の全部で、それが組織ある行動に出(い)づることは、左(さぎ)義(ちょ)長(う)の子ども組も同じであった。
そういう中でも特色のあるのは対(つし)馬(ま)の阿(あ)連(れ)村などに行なわれているという盆の十四日のボンドコであって、トコというのがやはり釜(かま)壇(だん)のことであった。島(とう)誌(し)のしるすところによれば、ここの少女団の首領は十七歳で、その指導の下に村に二ヵ所の大きな竈(かまど)を粘土と小石をもって作り上げ、その上に台を置いて男女二つの粘土製の人形を載せる。翌十五日には、ここで飯を炊(た)き、村の若者連の踊(おどり)と芝(しば)居(い)をする組に送る例になっている。信州浅(あさ)間(ま)の山(さん)麓(ろく)の村では、この盆(ぼん)竈(がま)の行事をカマッコというそうだが、これにも物(もの)前(まえ)すなわち成女期に近づいた女たちが率先して、米と少しの銭(ぜに)を持(もち)寄(よ)り、食物を調(ととの)えて村の青年たちを饗(きょ)応(うおう)するのが定めであった。これがいかなることを意味するかは、多分彼らにもわからなかったろうが、少なくとも今まで全く経験せぬ心のときめきを感じたことだけが推察せられる。
男の児が盆飯を炊くという例も東北などにはある。或いは男と女と二組に立ち分れ、一方の築いている竈を壊して行くという悪(いた)戯(ずら)も稀(まれ)にはあったということを聴(き)いている。女十七歳というのは少し大きくなり過ぎているが、これも正月のオンベ仲間の中老と同じく、もとは単なる顧問格だったかも知れぬ。伊(い)豆(ず)の田(たが)方(た)郡の盆の竈などは、これを作り上げる者は十四歳の娘ときまっていた。珍しい話だがその時は必ず腰巻を取って出て来た。というのは多分この日から、新たに裳(も)をはく者ということであったかと思う。ここでは男の児の竈はなく、ただその少女組の竈を突き崩しに来るのを、十三歳以下の娘が協力して一生懸命に防衛するのが重要な役目であったという。
︹つづく︺
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