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くばりごと
ままごとはしだいに御客遊びの方へ展開していったようだが、それに入らぬ前に調理した食物を、隣近所の人たちに持って行くという段階があって、それが今でもなかなか人望がある。東京などの小さな女の児(こ)は、カランコロンと口で木(ぽっ)履(くり)の音をさせつつ、何べんでも御(ごち)馳(そ)走(う)をじじばばの処(ところ)へ持って来てくれる。富士山南の村々でままごとをコンバ、或いはオコンバというのは訪(ほう)問(もん)辞(ことば)であろう。これだと盆の十五日の辻(つじ)飯(めし)分配の方式が、まだ片(かた)端(はし)は保存せられているのである。徳島県の北部でこの遊びをクバリアイ、飛(ひ)騨(だ)の高(たか)山(やま)でクバリゴト、配るというのは正式食物の贈与で一段と元(もと)の心(ここ)持(ろもち)に近い。
甲州の北(きた)巨(こ)摩(ま)郡ではオワザッコというのが、姉(あね)様(さま)ごとの方言だと郡(ぐん)誌(し)にはあるが、東国ではワザットはもと物を配るときの辞令の語であった。どうしてわざとというかは考えて見る人もないが、近ごろの感覚では﹁しるしばかり﹂というのに同じく、われわれが最小限度、守らずにはおられぬ御義理だったので、単なる気まぐれのお遣(つか)い物を真似ているのではなかった。
遊戯にはままごと・鬼ごとに限らず、下にコトという語を添えるものが多い。今ではゴッコ・ゴク・ゴとなり、またはナコ・ナンドなどにも変化しているが、コトの本来の意味はワザ・オコナイ・フルマイも同様に、儀式もしくは祭典ということだったと思うがどうだろうか。子どもの生活を離れて一ぺん考えて見たいものである。青森県のままごと方言は色々あるが、だいたいに南(なん)部(ぶ)領はオフルメヤコ、津(つが)軽(る)領はオヒルマイコまたはジサイコナコというのがひろい。ジサイコは津軽から秋田へかけて、中央でいう法事・仏事のことで、文字には持斎と書くべき語と言われている。すなわち、あの地方のままごとは、外形が法事と似ていたのである。加賀の金沢などではこの遊びをオジャコトといっている。御座は年(ねん)忌(き)でなくとも僧を請(しょう)じ、説教を聴(ちょ)聞(うもん)する人(ひと)寄(よ)せであるが、やはり法事のように食物が出たものと思われる。フルマイは今では物を食わせることのごとく解せられるが、やはり定(さだま)った吉凶行事のある日のことで、ただこれには必ず御馳走が伴っただけである。ままごとの地方名としては米(よね)沢(ざわ)でもオフルマエゴト、伊(い)豆(ず)の半島でもフルミヤッコ、遠く飛び離れて肥前の小(おじ)値(か)賀(し)島(ま)まで、ホンミヤナンドという語が行なわれている。そうして多分もうその理由が忘れられているだろう。
︹つづく︺
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