.
鉤占いの話
成人と子どもと、同じ遊びをちがった心(ここ)持(ろもち)で、持ちつづけていた例はほかにもある。おとなの遊戯などということは考えにくいようだが、今でも元気な人たちは退屈すると、おりおり思いついて子どもみたようなあてものなどをする。それが案外新発明というのが少ないのである。ことに酒宴の席では古くさいものが面白がられる。たとえばある一人に目(めか)隠(く)しをして盃(さかずき)を持たせ、
こゝらか まだまだ こゝらか そこそこ
などと、飲み足りなそうな人に盃をさす戯(たわむ)れは、愚劣なものだが、まだまるっきり廃(すた)れてもいない。これと﹁中の中の小坊主﹂のお茶あがれとは近いのである。
それからもう一つ、このごろはあまり見受けぬが、箸(はし)とか紙(こよ)縒(り)とかの尖(さき)を少し折(おり)曲(ま)げたものを、くるくると両手の掌(てのひら)で揉(も)み廻し、その突端の向いて止った方角の人に、盃を押しつけるという方式がもとはあって、その囃(はや)し文句もよく似ていた。ところがこれと全く同じ遊びが地方では小児の遊びとして、最もひろく行なわれていたのである。
もとは全国にわたって、ほとんど知らぬ児童もなかったろうと思う。おかしいことにはそれがことごとく、隠したおならの犯人を発見する目的のみに用いられていた。四国・九州ではそれ故にヘヘリカノド、またはヘヒリガンドともカネジョとも呼ばれていた。そのカネジョもカンドもともに鉤(かぎ)殿(どの)で、その小枝や細い棒さきが鉤(かぎ)になっていたからの名であろうと、私たちは想像している。すなわちこの鉤をまわして占(うらな)いをした目的は、最初は決して下(げひ)品(ん)なものではなかったのを、のちに酒飲みは盃をさす人をきめるために、子どもはただおならの主(ぬし)を見つける戯れだけに用いて、その他を忘れてしまったのである。上(かみ)方(がた)方面の酒の席では、これをベロベロの神様といったことが記憶せられている。
ベロベロの神様は
正直な神さまで
おささの方へ面(おも)向(む)ける
面向ける
という囃し言葉を唱えつつ、なにか細長いものを手で廻したということであるが、それと同じ名前は関東・越(えち)後(ご)・奥(おう)羽(う)地方まで通用していて、こちらはいずれもみな子どもの遊びであり、唱えごとは、
ベロロ カベロ 正直神で
誰(た)がへをひった
ひった方さつん向(む)け︵上(かず)総(さ)︶
という類(たぐい)の文句になっている。或いはまた﹁ベロベロカメロ、とうといカメロ﹂などともいうところがある。つまりは初めに、まず鉤の霊の尊く正直なことを讃(たた)えて、それからいよいよその指定を求め、これによって疑いを決しようとしていたので、少なくとも方式だけは、昔の神を祭った人々の所(しょ)作(さ)を、そのまま守っているのである。無心な者のすることには、うっかり看(みす)過(ご)すことのできないものがいろいろある。
︹つづく︺
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・