凡人凡語 梅崎春生

 今日は、梅崎春生の「凡人凡語」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 小説の特徴のひとつに、普通の暮らしの中では言語化されない、不気味なものごとを具体的に書ききってしまうところに、惹きつけられるというのがあると思うんですが、今回はある絵描きの青年が、終戦後の社会で、憎しみを抱いてくる子どものことを書いています。名前も「平和」くんなので、戦後に生まれたことが明らかで、これを戦中に生きていた青年が観察して、彼の心情について事細かに描きだしています。この青年は、精神年齢がかなり幼いのに三十数歳で、仕事も住まいも中途はんぱな状態で、ブラブラしている。食事をしていて、ちりめんじゃこと大根おろしがほんのちょっとだけ眼の中に入ってしまって、痛くも無いのに、病院に行って、眼の治療をしてほしがってしまう。
 このなんだか冴えない青年のことを心配して、赤木医師は彼を釣りに誘ったりするのでした。凡人凡語というよりも奇人奇語というような内容の、妙な語りが印象的な小説でした。
 

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(総ページ数/約10頁 ロード時間/約5秒)
 
追記  以降はネタバレになりますので、近日中に読み終える予定の方は、先に本文を読むことをお勧めします。話しは横道に逸れに逸れつづけていってぼんやりとした展開をする作品なんです。煙草を売ったり、密造酒を売ったりして暮らしている、近所の森一家のことが、青年によって記されてゆきます。森甚五は貧困と労働の失敗に耐えられず、調子を崩してしまい、入院に至るのでした。病院から逃げ出して、家で騒いだりする。家と家族の看護でも上手く行かないし、病院でも病が治らない、困った状態のまま治らない、森甚五の奇妙な行動が記されてゆきました。
 次に描きだされるのが、彼の子どもである森平和という少年で、彼は友人と一緒に、無名画家の「ぼく」の家の壁にボールをぶつけて遊ぶということをずっとやっている。ボールを壁にぶつけられるたびに、家の中がどしんどしんと揺れるのでした。この平和という名前の幼子はおそらく、無意識に「ぼく」のことを嫌っていて、迷惑なことをしてくるのではないかと、ぼくはひそかに疑っているので、ありました。