今日は、太宰治の「思案の敗北」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
ほんとうのことは、あの世で言え、という言葉がある。まことの愛の実証は、この世の、人と人との仲に於いては、ついに、それと指定できないものなのかもしれない。
という一文から始まる、太宰の5頁の私小説です。未来の事態であるとか、言いえないことであるとか、略すしかない部分であるとか、沈黙するしかない言葉で表現ができない箇所がどうしてもあって、言葉の背後に記されないことがらが数多く眠っていて、言語はそれと共に機能している、という哲学上の議論があるんです。太宰の言語論も今回ちょっと記されていました。饒舌な太宰は、妙なことも書くのでした。ダンディズムとダンテは関連性があるんじゃないかとか、哲学者ジャン=ジャック・ルソーの告白における被害妄想の箇所について批判していたり、ゲッセマネの祈りについてや、聖書や西洋思想についていろんなことを書いていました。
太宰は後半で、友人の不幸と、自己の恥ずかしさについて書くのでした。太宰は最後のほうで「ことしの春、妻とわかれて、私は、それから、いちど恋をした」と書くんですが、じっさいには妻と別れてないというこの、太宰の大きな嘘のところが、これが妙に印象に残りました。ルソーの沈黙と哲学に対峙する、「思案の敗北」にいたる小説家の饒舌さが立ち現れてくる私小説に思いました。
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