踊る時計 坂口安吾

 今日は、坂口安吾の「踊る時計」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 時信家の全作という男は、考古学と骨董を学んで、この商売で大金を得た。それからひどい家をもうけて、妻をいびり倒して過労死させてしまい、次の妻も娘も、誰もが父の全作を呪っていて、晩年は、ひどい家の様相になった。食いっぱぐれた親族も集まってきて、不和が積み重なっている。富豪の全作が寝込むようになると、何人かの看護婦が付き添うようになった。そこで諍いと殺人が起きてしまう。いったい全作は誰に殺されたのか……。
 

0000 - 踊る時計 坂口安吾

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追記  ここからはネタバレですので、近日中に読み終える予定の方は、本文を先に読むことをお勧めします。看護婦を呼ぶためのオルゴールと、全作の部屋の鍵と、ここに立ち入る人間たちが、細かく描写されてゆきます。
 あやしげな神のお告げのとおりに、全作は殺されてしまった。翌日に警察が捜査にやってきてから、だんだん事態が明らかになってゆきます。
 3人が同時に、全作の遺体を目撃したとき、どうも行員の「川田」という男の真剣な行動と観察眼が「異様」で「にわかに川田に威厳がこもって彼自身が妖気を放つ一人の偉人の如くに見えた」と記してありました。
 そのあと、探偵役の新十郎がやってきて、現場を調査します。
 ここから、全作が絡んでいた、掘り起こされた古墳の財宝の、この極端な高額さと、この古墳での窃盗事件が語られてゆきます。骨董で稼ぎまくっていた全作も、この事件での盗品を扱っていたらしい。100カラット以上のダイヤという宝玉をたずさえた黄金の仏像という骨董を、盗賊から買い取って、全作が秘蔵していたようです。
 終盤ののこり5頁あたりのところで、書き手の坂口安吾本人が「犯人を当てて」みろというように記しています。安吾の推理小説は、叙述トリックは用いずに、読者に対しても不義理をしないので、当てようと思えば犯人を当てられそうに思うんですが、僕はほぼまったく分からなかったです。精読する読者と、流し読みだけをしている自分の、読解力の差異を感じて、なんだか呆然として読み終えました。
 トリックとしては、事件は想定よりももっとはやい時間に起きていて、呼び出し用のオルゴールに仕掛けをして、全作の死後に自動で鳴るように細工をして、入口の鍵がなくて部屋に入れない看護婦がオロオロするときに、自分のアリバイを作っておいた犯人がいた、ということなのでした。ここから消去法で、時信大伍が犯人であったと判明するのでした。犯人は遺産をほぼもらえないのにも関わらず、全作を殺めてしまっていたのでした。