今日は、宮本百合子の「鏡の中の月」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
二十七歳の学校教師である瀧子のところへ、山口仁一がやってきて「直接お会いして気持を分って頂く方がいいと思ったもんですから」と言いつつ、縁談についての直談判をしてくるところから物語が始まります……。
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(追記 この奇妙に急ぎ足な縁談について調べてみると、元の妻であった女が、山口仁一と再婚した女はすべからく狭谷町から追い出してやると言っているという噂もあり、独身の瀧子は、あまりにもこっけいで「ばからし」く思ってしまう。ほかにもどうも山口仁一は「召集されるかもしれない」から、そのまえに、子どもたちのめんどうを見てくれる女を慌ててさがしているはずだということも分かってしまう。「山口が有力者の端くれだもんだから本当に始末がわるい」と述べて、さらに「学校やめさせるような卑劣なことをやる」可能性さえある。
「あちこちで召集が下るようになってから、村役場で婚姻届の受付が殖えた」という事実もある。
瀧子は山口に直接「嫌だ」という旨を伝えて「どうぞ、この話はお打切りになって下さい」ということで話はすべて立ち消えとなるんですが、男のほうではまだなんとか関係を作れないかと、無駄に話しつづけてしまう。
これが瀧子にとっては「愚劣な告白」と感じられることが、どうも理解できない。
けっきょく山口仁一は出征することになった。終盤では、瀧子は明確に山口仁一を避けて駅から離れるのですが……そこでほかの家族の父親が出征してゆくとき「真蒼な顔をして笑っていた」奥さんが居たのを思いだして、相思相愛の夫婦が戦争で離ればなれとなる事態に「鳥肌立つ気がした」瀧子なのでした。最後の一文では「そのような人々の切ない混りけない今の気持にのって山口のように生きようとしている男もあるのである。瀧子は深い心痛む思いにとらわれながら、二つ先の駅まで揺られて行った。」と記されている、暗い小説でした。)