猿面冠者 太宰治

 今日は、太宰治の「猿面冠者」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 作中のNevermoreというのはポーの『大鴉』にて繰り返し叫ばれた単語なんですが、今回はこの作品がどうもモチーフになっているように思いました。太宰治が人物を腐す時に、その文才もあってか強烈な印象を残すんですが、けっきょくは太宰当人による太宰治への批評に帰着していっているのが、おおよそ百年も読まれつづけた氏の文学性なのではというように思いました。今回の物語では、作家になろうとする青年の煩悶が描かれてゆきます。本文こうです。
quomark03 - 猿面冠者 太宰治
  主人公が牢屋で受けとる通信であるが、これは長い長い便りにするのだ。(略)たとえ絶望の底にいる人でも、それを読みさえすれば、もういちど陣営をたて直そうという気が起らずにはすまぬ。しかも、これは女文字で書かれた手紙だ。quomark end - 猿面冠者 太宰治
 
 傑作を書ける着想を得て、あわてて古本屋に向かって、貧乏のためにこのまえ自分で売ってしまったばかりの名作を手に取って、調べごとをはじめる。「鶴」という妙な小説を書いてこれを自費出版するんですが、自分で街中に自作のビラをまいておきながら酷評されて笑われてしまうと「彼は毎夜毎夜、まちの辻々のビラをひそかに剥いで廻った」というのが痛々しい描写でした。
 悶悶とした文学青年の独白が続くのですが、終盤に主人公を慕う女性が登場してからとつぜん生き生きとした……生々しい物語展開になるのが太宰治独自の構成であるように思いました。
 

0000 - 猿面冠者 太宰治

装画をクリックするか、ここから全文を読む。 (使い方はこちら) (無料オーディオブックの解説)
(総ページ数/約10頁 ロード時間/約5秒)