藪の中 芥川龍之介

 今日は、芥川龍之介の「藪の中」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 これは芥川龍之介の代表作で、平安時代後期のある奇怪な事件を追った小説です。獣道さえ存在しない藪の中での、侍のあらそいの顛末を調べる検非違使と証人たちと、事件に直面した3人の男女の物語です。
 場所について調べてみると、京都の伏見桃山から歩いていって山科に至る寸前の、藪以外はなにもない虚無の空間、そのあたりで起きた怪事件のことが描かれています。
 辞書によれば「検非違使」は平安時代の京都の警察業務をした官職のことで「平安後期には諸国にも置かれたが、武士が勢力を持つようになって衰退した」と書いています。衰退のおおもとである武士にまつわる事件を、検非違使が調べている……時代が変わる要点の、暗部のところを芥川が描いている、というのがなんだか凄いというように思いました。この「藪の中」の映画化作品である黒沢明の「羅生門」は、ヴェネチアで金獅子賞を受賞している名画で、今でも映画の配信サイトで視聴が可能なんです。
 

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追記  今回、再読してみるまで見落としていたことなんですが、盗賊の多襄丸にやられてしまった侍は、日本海側の福井は若狭の侍で、十九歳の妻と2人で、琵琶湖伝いに百キロほど北上する旅をして帰郷しようと、京の桃山を発った、その最中だったんです。気力も体力も漲っているときに、盗人の多襄丸とばったり出くわしてしまって、怪異が起きた、という構成のようです。
 作中に「気を失ってしまった」という証言が繰り返し出てくるのですが、これは記憶が曖昧で、事実か幻かが、判別できません。十九歳の女性である「真砂まさご」は犯人から逃れるために、謎めいた行動をしています。多襄丸が起点となって悪事が現出したのは明らかなんですが、じっさいになにが起きたのかは、誰にどう問うてみても、まったく分からない……。さらに真砂はある日、清水寺に立ち寄っていて、お坊さんに事件の懺悔をしていますが、そのあとどこにでも行けそうですし、どこにゆくつもりなのかがまったく分からないので、ありました。ぼくはこれを3回以上は読んでいるんですが、今回Googleマップで逐一、地名を調べたり、AIとwikipediaを使って官職の名前の意味を調べたりして、やっと全体像が理解できました。とくに「真砂」がどこから来て、当初はどこに行くつもりだったのか、それからのちになぜ清水寺に立ち寄ったのか、というのが初回に読んだ時はよく分かっていなかったように思いました。