やぶからし 山本周五郎

 今日は、山本周五郎の「やぶからし」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 幼いころから養子に出されて、じつの父母とは離れて「憎みあうことさえもないよそよそしさ」のなかで暮らしてきた「わたくし」が「十六歳に」なって、晴れて婚姻の日を迎えて新しい家に入ってゆく場面が描かれる物語でした。
 武家の花嫁となって新しい家に迎えられた、その「感動の与えてくれるあたたかさと、やすらかにおちついた気分とで、わたくしはうっとりしていたように思う」という朗らかな場面から急転して酒乱の「あの方」が不気味なことをしはじめるようになった。「肌に、つぎつぎと収斂しゅうれんが起こったほどであった」という場面が立ち現れて「すず」は動転してしまう。義理の父母にも相談をしたのですが……四十日ほどして「あの方」が他のところでも深刻な問題を引き起こしたために細貝家から追い出されてしまいます。本文こうです。
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 あの方が去ってから約半年、九月になってまもなく、わたくしはおかあさまから離縁のことを相談された。(略)「あなたはまだ十六でいらっしゃるし、これからどんな良縁にも恵まれることでしょう、もちろんわたくしたちもこころがけますけれど、ここでいちど、おさとへお帰りになってはどうでしょうか」quomark end - やぶからし 山本周五郎
 
 ところが「すず」は細貝家に留まるという決意をして、これを義母に言うのでした。はじめはぎこちない親子関係であったのですが、じょじょに親子でうちとけるようになった。やがて、父母は細貝家で新しい婿を迎え入れることにした。すずと結婚させたい良い男が居るのだ、というので、ありました。
「久弥さま」との再婚というか結婚がついに実って、この人は酒乱でも無いし、相性も良くて、二人でよく笑い合ったりした。世間知らずの「すず」であっても恋心を抱く相手であった。2人は着実に成長してゆき、子にも恵まれた。
 武家の幸福が、なんだか美しく描きだされていました。ところが、終盤になって離別した男が突然、現れて……。
 

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作中の、むずかしい言葉を調べてみました。
「劬る」

追記  終盤になって離別した「あの方」がやって来て五両もの大金をせびられてしまいます。現代でいうと50万円をかなり超える金額です。そのあとがさらに悪く……結末が痛ましくも衝撃的な、時代小説でした。山本周五郎の時代小説は何作も映画化されていますが、これは映画化が不可能なのでは、と思う作品でした。この「やぶからし」をもし映画館で見ていたとしたら、すごい結末の、急激な話しの断ち切り方で、スクリーンを眺めながら呆然とするだろうなと思いました。