今日は、宮本百合子の「小景」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
物としての本の価値を、作家自身が描いている場面があるのですが、その描写がすてきでした。本文こうです。
私は、一冊本が買えても買えなくても、多くの場合、同じように愉快であった。彼処に、あの煉瓦の建物の中に、彼那にぎっしり、いろいろの絵と文字で埋まった書籍がつまっているのだ。それを知っている丈でも、豊かなよい心持でないか。
物を野方図に手に入れられる状態にあると、むしろその価値を見失ってしまうわけで、百年前のほうがかえって、ものの価値が見えやすく、そこにも近代文学の魅力があるように思いました。
宮本百合子はこの「小景」で、見ることと眺めることを丁寧に描きだしてゆきます。「美しいものをしんから愛するものは、或る場合痴人のように寛大だ。然し或る時は、狂人のように潔癖だ。」という一文や、ほかにもあまたに美への憧憬が記されています。後半の、貧しさの中で生きる少女への思い、その描写が印象に残りました。
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