今日は、折口信夫の「桃の伝説」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
折口信夫は今回、古事記の桃について記しています。黄泉の国から生還するときに、桃をつかって生きのびた、ということをまず書いているんです。子どものころに病気になって治りかけの時に、母から缶詰の桃を食べさせてもらって美味しかったとか、病院食の味気ない食事が終わって退院後に自宅で果物を食べてやっと生きた心地がしたとか、お供え物に果物をそなえるとかいう体験は誰でもあると思うんです。古代における、こういった体験の集成の物語化が、古事記での黄泉の国での桃のエピソードに転化したように思えました。古事記では、黄泉の国からの追っ手に桃を投げつけて逃げおおせるの……です。
ほかにも「桃太郎」の話しにそっくりな秦 河勝の伝説の物語を読み解いています。「秦氏が帰化人であるごとく、話の根本も舶来種である」というように書いています。桃太郎の起源も、中国や朝鮮からの影響が色濃い可能性が高い。そもそも日本語は中国の漢字の文化から借りてきたのがはじまりで、日本の伝説も、大陸から輸入したところは多いはずなんです。本文こうです。
朝鮮の神話の上の帝王の出生を説くものには、卵から出たものとする話が多い。其中には、河勝同然水に漂流した卵から生れたとするものもある。竹の節の中にゐた赫耶姫と、朝鮮の卵から出た王達とを並べて、河勝にひき較べてみると、却つて、外国の卵の話の方に近づいてゐる。此は恐らく、秦氏が伝へた混血種の伝説であらうが、同じく桃太郎も、赫耶姫よりは河勝に似、或点却つて卵の王に似てゐる。
千年以上前から、桃や果実をたいせつにする民間の習俗があって、日本で独自に、桃から生まれた桃太郎、というのが昔話になったようです。
何故、桃太郎が甕からも瓜からも、乃至は卵からも出ないで、桃から出たか。其は恐らく、だんだん語りつたへられてゐる間に、桃から生れた人とするのが一番適当だ、といふ事情に左右せられて、さうなつたものと思はれる。
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