細雪(73)谷崎潤一郎

 今日は、谷崎潤一郎の「細雪」その73を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 幸子はたんに姉なのですが、今までずっと、父の代わりになって、雪子と妙子という妹たちのお見合いや暮らしぶりのめんどうを見てきました。そのために、親代わりとしての心労というのを幸子が担っています。古くて裕福な家柄だった幸子ですから、雪子たちが良い婚姻に至ることをとても重大視してこの十年以上さまざまなお見合いの手配や、仕事の援助というのをやって来ました。それがほとんど全て失敗に終わって、大きな年忌法要のあつまりに妹たちを連れてゆくということになったのでした。本家や幸子が悪いから、雪子が結婚できない、というようなことを言われかねない状態、なのでした。
 それから四女の妙子(こいさん)は、結婚の約束をした板倉が亡くなってしまってガックリきていたところなのですが、その後の妙子は……浮気者の奥畑啓坊とどうも再び縁づいてきた、という事実が出てきました。
 本文こうです「妙子は板倉の事件以来奥畑を見限ってはいたものの、全然手が切れていたのではないのであるし、まして板倉がいなくなった現在、二人がたまたま連れ立って歩いていたとしても、何もそんなに驚くには当らない」
 幸子は、奥畑啓坊と復縁したかどうかをそれとなく、聞いてみます。妙子の返答としてはこうでした。「啓ちゃんは母親に死なれて始めて世間と云うものが分ったとか、勘当されたので眼が覚めたとか、いろいろ殊勝らしいことを云っているけれども、自分はそんな言葉を真に受けてはいない、ただ啓ちゃんが独りぼっちで放り出されて、誰にも相手にされないのを見ると、自分としてはそう不人情な扱いも出来ないので、附き合ってやっているのである、自分の今の啓ちゃんに対する気持は、恋愛ではなくて憐愍である」
 今回は、お勧めの章というわけではないんですが、物語の後半の要点がかなり書き記されているので、細雪の全体像をざっと総覧してみたい人なら、ちょうどいい章に、思います。次回に続きます。
 

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当サイトでは『細雪 中巻一』を通し番号で『細雪 三十』と記載しています。下巻の最終章は通し番号で『細雪 百一』と表記しています。
「細雪」の上中下巻、全巻を読む。(原稿用紙換算1683枚)
谷崎潤一郎『卍』を全文読む。 『陰翳礼賛』を読む。
  
■登場人物
蒔岡4姉妹 鶴子(長女)・幸子(娘は悦ちゃん)・雪子(きやんちゃん)・妙子(こいさん)