惑い(1) 伊藤野枝

 今日は、伊藤野枝の「惑い」その1を公開します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 今回から9回かけて、この作品を読んでみようと思います。いっきに全文を読むことも出来るはずなんですけど、ぼくは数カ月かけて読んでみる予定です。
 伊藤野枝は近代において女性解放運動を行った文人で、小説をいくつも書いています。平塚らいてうの青鞜社に入って文学活動をし、ダダイストの辻潤との結婚生活を送り、当時は英語教師だった大杉栄と共に生きた、著名な作家です。ぼくは伊藤野枝の小説を今回はじめて読むので楽しみにして読んでみました。世界的な不景気が深刻になってきたこのコロナ禍に、近代文学者の個人的な貧乏話を読むのは、ふつうに共感できるというかおもしろいように思いました。
 まず冒頭に、3人の親子が記されています。主人公の少女である逸子と、母親、それと息子の谷という青年。谷は母とえんえん親子げんかをしています。それを黙って聞いている逸子。親子げんかの台詞がみごとで、ほんとにあったことを聞き書きしたみたいに記されています。母親は神田にお出かけをしたいけれどもお金がない。お金が無いと近所づきあいもできない。息子の谷にお金を工面してくれと言うのですが、息子は、遊びにいくためのお金は用意できないというんです。「お母さんももういゝ加減にあんな下だらない交際は止めて仕舞っちやどうだい?」と述べると、母親は怒りはじめます。「何だい本当に、親に散々苦労をさして、一人前になりながら、たった一人の親を楽にさす事も知らないで、大きな顔をおしでないよ」と言い返します。谷はお金をかけてまで、下らない人に会いに行くのは辞めるべきだと考えている。母親は、寄り合いにどうしても行きたい。
「下だらない奴から何んとか彼とか云われ」てしまっては恥だと考えている。息子は貧乏なんだし「下だらない奴の云う事なら、何も一々気にする必要はないじゃないか」と言ってお金を工面したくない。金も無しに寄り合いに行ったら肩身が狭くて恥をかくと母は主張します。
「もっと私の肩身の広いようにしてお呉れ」と言うんです。それで息子の谷はあきれかえってもうなにも言わない。その親子ゲンカの間にすわっていたのが逸子で、彼女はこう思います。
  
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 逸子は黙って聞いていた。母親の愚痴は、直ぐ前に座っている谷よりは、間に隔てゝ聞いている逸子の胸へ却ってピシピシと当った。quomark end - 惑い(1) 伊藤野枝
 
しかたがないので逸子は竜一のところでお金をもらってこようと思っている。けれどもそういった無心は心苦しい……次回に続きます。

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