死せる魂 ゴーゴリ(4)

 今日は、ニコライ・ゴーゴリの「死せる魂」第4章を公開します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 あらゆる人から「死せる農奴」を買い取ってきた詐欺師チチコフは、こんどはノズドゥリョフという粗雑な地主とめぐりあいます。このノズドゥリョフは酒を飲みまくる、ウソを言いまくる、イカサマ賭博をしつづける、なんでも奪おうとしていろいろ奪われる、暴力をふるっては反撃される、という下品な男で、さすがのチチコフもこれには手こずります。今回だけは無理筋なんです。
 本来ならソバケーヴィッチのところへ行って農奴を買い取る予定だったのですが、ノズドゥリョフに言いくるめられて、彼の家を訪問することになってしまった。ノズドゥリョフは無茶苦茶な男なので、ただの脇役かと思ったんですが、本文にゴーゴリはこう記します。「ここでノズドゥリョフの一身上について若干お話しておこうと思う。というのは、この男は、おそらくこの叙事詩に於いて、決して端役はやくしかつとめない人物ではなさそうだからである。」これは物語詩でも英雄譚でもなく、叙事詩では無いはずなんですが、ゴーゴリはこれをダンテ「神曲」に匹敵するような叙事詩なんだと言いはるんです。作者のゴーゴリも、作中人物チチコフやノズドゥリョフのインチキぶりに引っぱられて、奇妙なことを書いています。
 ノズドゥリョフはとにかくギャンブル狂なんです。
 今回ついに、詐欺師チチコフが死せる農奴をなぜ買うのか、という問題の真相がちょっと明らかになってくるんです。ちょっとネタバレを避けたい人は、ここから先は読まずに本文だけを読んでもらいたいのですが……ようするに結婚式に現れる偽親族みたいな存在として「死せる農奴」を所有したいと言うことのようなんです。箔をつけるための数あわせです。読んでいて、ちょっとビックリしてしまって、チチコフはじつはオレじゃないか……とか思いましたよ。自分の場合は学歴と知力が足りないので、大人になってからネット上でみょうに名作ばかり読むことになってしまったとか、そういう感じで、箔をつけるために重大なものに気安く手を出してしまって、モンテーニュに言わせればたぶん「立派な仕事をしたつもりが、名作を横流しするのみで、紙代としての価値しか無く、翻案も稚拙で原本を台無しにしてしまっており、かえって愚かさが露呈してしまう」というような現象……。恐怖の頭取と懇意になるために妙に本棚を揃えて家に招きいれて娘さんとの結婚を許してもらうとか、そういう感じの理由で、チチコフは死んだ農奴の鬼籍を買い集めているようなんです。チチコフはこの四章中盤でほんとうのことを言っているのか、それともまだウソを言っているのかは謎なんです。
 しかし「生きる糧を作りつづけた……死せる農奴の魂」と「生きる指針を与えてくれるはずの……未読の名作」というのは、ずいぶん似ているわけで、急に読者は詐欺師チチコフと同じ状態で生きている可能性がでてくる……これに驚きました。
 ゴーゴリは物語の展開が冗長で、繰り返しが多く、文体も一般的で、現代映画や最新小説と比べると、トロい作風だと思うんですが、中盤から後半にかけての中身の凄さというのに圧倒されるところがあるんです。急に隕石が落ちてきたくらいの衝撃があります。
 この四章前半では、一生ずっとギャンブルに狂っている男の姿が描かれてこれが過激でおもしろいんですが、これって現実のドストエフスキーもそうとうなギャンブル狂いだったわけで、ロシアの2人の作家の共通項が見えたように思いました。
 ゴーゴリってどういう作品を書いたの? というのを知りたい方は、今回の第四章だけを読んでみるのもお勧めします。
 鬼籍の農奴をあまたに買い取ってきたチチコフも、今回だけはさすがに買い取れず、ノズドゥリョフのでたらめな賭博詐欺をまのあたりにしていさかいとなり、危うく殴られそうになったところで、ノズドゥリョフを逮捕しに来た警察官の到来で、この現場から逃れ、次の村へと向かうのでした。次回に続きます。
 

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