今日は、谷崎潤一郎の「細雪」その20を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
庭に青い芝生を植えて、これを食いに来てしまう雀を追いはらうということを、家長の貞之助はやっているのでした。久しぶりに男が出てきたと思ったら、雀に小石を投げているというのがなんとも妙な描写に思いました。
今回は、櫛田という医者がやってきます。幸子はどうも、ビフテキにすこしあたったらしく、ちょっと寝込んでしまう。医者はたいした病ではないといって、しじみ汁でも飲んで寝たら治るといいます。幼子の悦子は「罌粟の花」が「気味悪いわ」というように言います。
「悦子それ見てたら、その花の中へ吸い込まれそうな気イするねん」というのがすごい一文に思いました。
これまで、四姉妹の病の描写はそれほど明記されてこなかったんですが、二十章になって、妙にこれが記されているように思いました。そういえばいちばんはじめの章で、病気でも無いのにビタミン注射をする姉妹の姿が印象的だったんです。これとなんだか似ている、ビフテキを食べて栄養をつけすぎて黄疸になる幸子の描写がありました。今回、作中で「相良さんのは贅沢病なのよ」という奇妙なことを述べているのですが、この指摘が、谷崎文学の全篇で見受けられる、過剰さから生じてくる奇妙な事態と共通項があるように思いました。
これが現代の、過剰な対策や、過剰なワクチン接種というような問題とも共鳴していて、いま読んでも新鮮な文学作品として読めるように思いました。飢餓の時代がこのさき5年で終わりつつあって、機械や人口や政治が過剰になってゆく、数千年以上いちども起きたことがなかった時代の大転換期に、谷崎がこの文学を書いたのでは、と思いました。
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「細雪」の上中下巻、全巻を読む。(原稿用紙換算1683枚)
谷崎潤一郎『卍』を全文読む。 『陰翳礼賛』を読む。
■登場人物
蒔岡4姉妹 鶴子(長女)・幸子(娘は悦ちゃん)・雪子(きやんちゃん)・妙子(こいさん)