今日は、谷崎潤一郎の「細雪」その29を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
この物語の主人公は、谷崎作品の中でもとくべつに上品だと思っていたんですが、雪子には欲望がほとんど無いというか、事件性のあるような愛欲の気配がまったくしないんです。虚無的とかニヒルというのともまったくちがっていて、雪子は人から求められればしっかり応じて行動し、発言しているところがあるように思います。
戦時中に小説を書くのは発禁や禁固刑になる可能性が高いわけで危ないことで、そうなるとおそらく、いちばん重要な問題と人間性が描写されてゆくはずだと思うんです。
雪子は控えめだというように思っていたんですが、雪子は他人に依存しようという感覚がほとんどなくて他人に求めるところが少なく、心的に独立しおえているのでは、というように思いました。
いっぽうで新郎候補のはずだった野村氏は、事情がいろいろあるんですけど、とにかく性急に雪子を自分の世界に引っ張り込もうとやっきになっていて、これはまずいなというように思えました……。けっきょく縁談は打ち切りで終わりました。
ひとつ困ったことが起きると、それが起因となってさらに困ることが増えてしまう、というような気まずい展開のように思いました。これは野村一家や蒔岡4姉妹だけに限らず、この1941年からの5年間の日本でおもだって起きたことのように思いました。
これでいったん第一巻(上巻)が終わりまして、すぐに第二巻(中巻)がはじまります。いったん谷崎作品の更新を休止しますが、1年後か半年後に引きつづき、『細雪』を読みすすめてゆこうと思います。
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「細雪」の上中下巻、全巻を読む。(原稿用紙換算1683枚)
谷崎潤一郎『卍』を全文読む。 『陰翳礼賛』を読む。
■登場人物
蒔岡4姉妹 鶴子(長女)・幸子(娘は悦ちゃん)・雪子(きやんちゃん)・妙子(こいさん)