細雪(51)谷崎潤一郎

 今日は、谷崎潤一郎の「細雪」その51を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 この細雪の中盤は1945年付近に記されたもので、第三帝国の滅亡が明らかになったあとに、書かれて推敲されているはずなんですが、こういった状勢とは異なる未来予測が記されているのが、奇妙な描写に思いました。
 1938年の夏に友人ペーターが約束通りにニューヨークで買ったお土産の靴が、採寸したはずなのに小さすぎて悦子の足にはまらなかった、というのもこの時代を映した小説として妙に印象に残る場面に思いました。本文には「世界中に動乱のきざしが見える昨今、皆シュトルツ氏と同じような理由で東亜を引き揚げようとする者が多い」というように書いていました。
また、この章のまえに、どのようなことが起きたのか、それをまとめている一文もありました。「今年は、春に雪子の見合いの件があってから、六月には舞の会があり、引き続いてあの大水害、妙子の遭難、おさく師匠の逝去、シュトルツ一家の帰国、東京行き、関東大暴風、奥畑の手紙がまき起した暗雲」そのあと、あたりが静まりかえって「何かぽかんと穴の開いた、手持無沙汰な気がする」という記載でした。
 この小説では、女性たちがどのように生きたかを中心に記しているのですが、この小説の最初の頁よりも前に亡くなっていた父親のことが一文だけ記されていました。
 幸子は「父親の陽気で派手な性質を誰よりも濃く受け継いでいる」ので、華やかで若やいでいる家をつくってゆきたいのでした。本来ならちょうど懐妊して十月であった幸子は、生まれてくることの無かった赤ん坊のことを思って泣いてしまう場面がありました。親らしい親の立振舞をしている幸子の、家族や友人へのいろんな思いが後半に記されていました。
 

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当サイトでは『細雪 中巻一』を通し番号で『細雪 三十』と記載しています。『中巻三十五』は通し番号で『六十四』と表記しています。
「細雪」の上中下巻、全巻を読む。(原稿用紙換算1683枚)
谷崎潤一郎『卍』を全文読む。 『陰翳礼賛』を読む。
  
■登場人物
蒔岡4姉妹 鶴子(長女)・幸子(娘は悦ちゃん)・雪子(きやんちゃん)・妙子(こいさん)