細雪(60)谷崎潤一郎

 今日は、谷崎潤一郎の「細雪」その60を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 京都観光をしてきた三姉妹たちだったのですが、日帰りの旅の途中で娘の悦子が、高熱を出して、そのご寝込んでしまった。医者によると猩紅熱であるというのでした。感染症ではあるのですが自宅で療養をすることになって、貞之助の書斎を病室につくりなおして、簡易的な隔離施設としたのでした。この「細雪」の序盤では、自宅で注射を打って体調管理をする、妖しい気配の姉妹のさまが描かれてきたわけで、コロナ禍での自宅療養の報告がさまざまにあった現代に読んでも、なんだかリアルに感じる日本小説に思いました。
 我欲を押し通さないという静かな性格の雪子が、消毒を重んじつつ、病身の悦子のお世話をすることになりました。10日から1か月ほどの看病が必要になって、東京に帰るはずだった雪子は、長いこと関西で暮らすことになりました。
 隣家の旧シュトルツ邸には、スイス人のボッシュ氏が暮らしはじめます。このスイス人は繊細な男のようで、幸子の家の犬が吠えたり、蓄音機が音楽を奏でることに、手紙にて、苦情を申し入れてくるので、ありました。
 動乱の時世に、静かで繊細な、とくになにも起きない生活のこまごました事情を書きつづけることに、特異性を感じる文学作品に思いました。
 今回は中国出身の「アンナ・メイ・ウォン」という女優にそっくりな、ボッシュ家の美しい奥様のことが記されています。
 戦後すぐに、欧米で広く読まれた氏の代表作だなあと、納得のゆく描写が続きました。細雪を全文読まないけれども、内容をちょっと知りたいという方は、今回の章を読むことをお勧めできると思います。
 悦子の病気が自己療養で治るところの描写が生々しくて、これが今回の、谷崎潤一郎ならではの、きわだつ悪趣味なのでは、という印象でした。
 この妙な家族の状況で、独り立ちしたい妙子が突然、1人で東京行きをすることを告げるのでした。話しを聞いてみると、人形作りや洋裁の技術で妙子が独立するためには、東京で洋服店を経営するのが良いはずという案があるのですが、その裏には、フィアンセ候補の板倉が、金策のためにそういう実現しそうにない計画を打ち立てて、親族から金を引き出す狙いがあるのではという考察がなされていました。長女の鶴子はこの計画を完全に否定するはずなんです。次女の幸子は、末っ子の妙子の幸福を願ってはいるのですが、今回はどうも助力が出来ずに、黙ってなりゆきを観察することになってしまいそうです。次回に続きます。
 

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当サイトでは『細雪 中巻一』を通し番号で『細雪 三十』と記載しています。『中巻三十五』は通し番号で『六十四』と表記しています。
「細雪」の上中下巻、全巻を読む。(原稿用紙換算1683枚)
谷崎潤一郎『卍』を全文読む。 『陰翳礼賛』を読む。
  
■登場人物
蒔岡4姉妹 鶴子(長女)・幸子(娘は悦ちゃん)・雪子(きやんちゃん)・妙子(こいさん)