今日は、谷崎潤一郎の「細雪」その62を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
繊細な事情がある……妙子の婚約者の板倉が、入院をしてしまいました。板倉は「平素から頑健な、殺しても死にそうもない男」なのですが、今回は耳の奥の方の疾患で「手術の時に悪い黴菌が這入ったらしいて、えらい苦しがってる」ということで、婚約者の妙子は東京の遊興を中断して、慌てて関西へ帰ったのでした。
今回は、結婚に際しての親族の身辺調査が行われて、妹の妙子が、貧乏人板倉と交際しているのがどうも祟って、雪子ちゃんの縁談が流れてしまったという、暗い事情が記されていました。
鶴子と妙子とは年齢も離れているし、大姉と四女だし、既婚者と未婚者だし、男選びの基準がまったく違うし、仕事論も人生論もぜんぜんちがうので、どこかで対立が起きるはずだと思っていたのですが、やはりこの問題が表面化してしまったのでした。貧乏人は弱味が露見した瞬間に状況が悪化してしまうのが辛いところなのでは、というように思いました。
こいさんは人情味のある板倉と結婚して、独立して裁縫の仕事をしつつ生きるつもりなんです。だから東京で洋服屋を経営したいので、東京の鶴子の家のお金を頼るつもりだった。
ところが鶴子のほうでは「今度のお金のことは、いつかも手紙で云ったような訳で、応じるつもりはないのだ」そして「こいさんが(お金持ちの)啓坊と結婚してくれることが一番望ましい」と考えているんです。妙子としては、ボンボンの啓坊は不倫男で薄情男で、もうとっくに絶縁しているのであります。間で挿まれたかたちの幸子はちょっと困っている状態なのでした。次回に続きます。
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当サイトでは『細雪 中巻一』を通し番号で『細雪 三十』と記載しています。『中巻三十五』は通し番号で『六十四』と表記しています。
「細雪」の上中下巻、全巻を読む。(原稿用紙換算1683枚)
谷崎潤一郎『卍』を全文読む。 『陰翳礼賛』を読む。
■登場人物
蒔岡4姉妹 鶴子(長女)・幸子(娘は悦ちゃん)・雪子(きやんちゃん)・妙子(こいさん)
追記 今回、声の小さい雪子は、電話での声がほとんど聞こえない、ということと、板倉が厄介者扱いされていて耳の病気になったというのと、歌舞伎の演目に隠されている「反魂香」という死者の声を聞くという物語がすこし記されていて、聞こえにくいものごと、というのがクローズアップされているように思いました。