細雪(71)谷崎潤一郎

 今日は、谷崎潤一郎の「細雪」その71を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 幸子は、妹の雪子が十数年もお見合いを続けていて、まったく婚姻に至らないことを残念に思っています。父親がわりになろうと幸子は努力しているようなのです。親族や関係者としっかり交渉を行って、良い相手だけと逢わせるように工夫をしなければならないところを、どうも失敗が続いています。これでは「ひとりプラットフォームに立ってしょんぼり此方を見送って」いた雪子がどうも不憫である。
 ただ、こんごは戦争による貧困が深刻になる時代が来るし、条件はどんどん悪くなってゆくので、先行きは不透明なのでした。作者の谷崎としては男親として家族を幸福にしたいという心情を、男が出征して居ない時代がやって来る、このころの幸子に重ね合わせて描くわけで、この幸子の心労や気遣いというのが、本作の中心的な描写になっているように思いました。
 これまでのお見合いは、雪子と幸子が相手を審査して、男を落第させていたのですが『昨日は此方が「受験者」で、沢崎が「試験官」だった』ので、どうにもはずかしめられた結果となった、ということが記されていました。
 富豪の沢崎とは明らかに相性が悪いんですが、相手方の家との縁もあるので、無礼に断るのも気が引けると思っていたところ、ちょっと遅れて、このお見合いは不成立ですという内容の、まあ就職活動では誰もが1度は経験する、不採用の書面が届いたのでした。
 ただ幸子も雪子も、不採用の通知の届くのが生まれてはじめてだったので、ほんとうにガックリ来てしまった。それで、相手は過失をほとんどしていないはずなのに、幸子は親代わりになってお見合いを設定しているわけですから「はなはだ気を悪くした」し「不愉快である」というように記されていました。
 どうしてこんな失敗をしたのか、考えてみるのですが、お見合いの打診をした相手である菅野のおばさまに、繊細さが欠けていて仲人としては良くない、それを見抜けなかったのが、雪子に恥をかかせた主因なのであると、いうように考えたのでした。
 「あらっぽい」菅野のおばさまとしては、たんに話しが来たから取り次いだだけだよ、というわけなのでした。
 大姉の鶴子のところにいる雪子には、お見合いは駄目だったということをそれとなく伝えてみて……云いにくかったら黙っていても大丈夫だという、控えめな手紙を送る幸子なのでした。次回に続きます。
 

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当サイトでは『細雪 中巻一』を通し番号で『細雪 三十』と記載しています。下巻の最終章は通し番号で『細雪 百一』と表記しています。
「細雪」の上中下巻、全巻を読む。(原稿用紙換算1683枚)
谷崎潤一郎『卍』を全文読む。 『陰翳礼賛』を読む。
  
■登場人物
蒔岡4姉妹 鶴子(長女)・幸子(娘は悦ちゃん)・雪子(きやんちゃん)・妙子(こいさん)
 
追記  どのようなお見合いもしたことが無いので自分としてはこの場面の心労を想像しにくいのですが、就職活動に失敗したその瞬間に恋人から別れを告げられるくらい、人生の厳しい場面なのでは、というように思いました。