擬体 豊島与志雄

 今日は、豊島与志雄の「擬体」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 戦争が終わったあとに、GHQが日本を支配している、国警本部が動いている、日本の公安が調査をしている、という状況で、元軍人の石村という男が現れます。社長の石村は青木という主人公に、ある活動に協力するように依頼する。
 本文には「上海にいた時、それは戦時中のことで、石村は特務機関の仕事をやっていた」と書いています。その上海時代に、青木はなんとなく、今西巻子と何度か行動を共にして居た。その今西巻子は、いまこの戦後に、GHQが禁じている日共組織側の立場でスパイ活動をやっている可能性があると、石村は告げるのでした。青木は今西巻子と関わりが深いので、ほんとに日共スパイなのかどうかを確かめることにした……。つづきは本文をご覧ください。作中にこういう記載があるんです。「ひとをやたらに疑ったり、ひとをやたらに信じたりするのが、間違いの元です。だから、何でもないことがスパイに見えたり、何でもないことがスパイのスパイに見えたり、大間違いの結果になります。ばかげてるじゃありませんか」本文では戦後の軍事や諜報についていろいろ論じられているんですが、防衛論についても極論だけは辞めたほうが良いのでは、とか思いました。
 

0000 - 擬体 豊島与志雄

装画をクリックするか、ここから全文を読む。 (使い方はこちら) (無料オーディオブックの解説)
(総ページ数/約10頁 ロード時間/約3秒)
 
追記  ここからはネタバレなんですが、今西巻子を調べてみると決めたすぐあとに、主人公の青木が自殺未遂をしてしまうんです。未遂であって傷は浅く死ななかったんですが、これが突然すぎてよく分からなかったんですが、たぶん、日共のスパイという疑いが生じていることで心的な負荷が強かったのか、あるいは社長の石村の仕事依頼の内容に納得がゆかなかったのかと思われます。
 青木は体が治って、すぐに会社を辞職しました。スパイ活動を依頼されたがこれを断って辞職しました。どうもけっきょくは、今西巻子は、スパイでもなんでもなかったのに疑われたようです。おわりの10行が謎めいていて、なんだか不思議な読後感でした。